第6話 お昼寝士見習いのお散歩
スキルポイントについてはその他にもポイントで買い物が出来ること、魔物をスキルポイントにしてしまうと素材も手に入らないなどの補足説明も受けた。
それだけ聞ければもうばっちりだと次の日目が覚めたアイシャは、朝食を済ませたあとのお散歩を少し足を伸ばして街の外にした。
安全の確保されている街道付近なら子どもひとりでも歩くことが許されている。その街道をそれれば後は自己責任でしかない。そこまで過保護ではないのがこの世界だ。
──なのでアイシャは迷わず道をそれる。知力Eに迷いはない。
早速見つけた豚は魔物ではないみたいだけど、野生の豚ってどんな味だろうかとホップ、ステップ、跳び膝蹴りでこめかみに一発、仕留めてしまう。
膝を力無く折り崩れた獲物をアイシャは腕でくるりと描いた輪の中に収めた。
これはアイシャが物心ついてからこれまで過ごして来た中で1番の謎現象だが、この輪の中に物を入れると消えてなくなり手を入れれば引き出す事が出来る。
子どもらしく家の壁に落書きしていて見つけたものだが、それが技能のひとつだとは気づいていない。
街道を外れていき、比較的街近くのレェーヴの森にやってきたアイシャは手頃な魔物がいないかとキョロキョロして歩く。たまに見つけるキラキラした石や草、木の実などを輪の中に入れて散歩をする。
聞いていたほどに魔物がいないことに少し退屈を覚えたアイシャは、手近な木に蹴りを打ちつけ始めた。昔はこうして脚を鍛えたなぁと昔どころか前世を思い出しながらひたすらに打ち続ける。
無心に繰り出される蹴りは左右ともに100ずつを5セットは繰り返しただろう。前世の男子の体とは違うこの幼い女の子の体にそんな鍛錬は厳しく、両の脚のすねは真っ赤に腫れあがっている。折れてないだけマシだが所々出血して赤黒くなっているところなどもあり痛々しいことこの上ないがアイシャにしたら問題はない。
他人が見れば大騒ぎするかもしれない状態も、その先に強くなる前段階だと思えば耐えられる。傷もほっとけば治るだろう、なんて思ってからアイシャはふと今の現実に引き戻される。まだ小さな女の子で、親の庇護下にあること。
破けたズボンも見てアイシャがやってしまったなぁ……なんて思っている所にガサッと音がして振り返ったところに銀色の毛並みの狐が一匹飛び掛かって来た。
反射的に放った蹴りはアイシャを獲物と見て仕留めに来た狐の前脚もろとも頭を下から横に蹴りつけて木にぶつける事で絶命させてみせる。
「いったああぁいっ!」
不意に放った蹴りは痛みを呼び覚ましてアイシャに容赦なく襲いかかった。
アイシャがそれでも涙目で狐を見ると、その体から青いモヤが立ち昇って消えるのが見える。それは司祭やサヤから聞いていた魔物の特徴で、魔物が死んだ際に起こる現象だったはず。
なので元々の目的がそうであるように、アイシャがとりあえず「捧げる」と呟くと狐は光になってカードに吸い込まれていった。
ギルドカードのスキルツリーには残念ながら変化はない。けれどアイシャの脚からは先ほどまでの痛々しい色味がすっかり消え失せて、ズボンの大きな穴からはもとの綺麗な素足がのぞいていた。
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