第3話 転生少女は寝ぼけて生きる
この街の奥まった所にある“聖堂”でこの日、生まれて8年目を迎えた子どもたちを集めて“生誕の儀”が行われる。
アイシャの前世とは違って文明的に遅れているこの世界では生まれてすぐ死ぬのも幼い頃に病やその他の原因で死ぬのも珍しくない。
それゆえにその歳まで生きた子どもを対象にその生を認められるのがこの国、街での習わしだ。
アイシャも聖堂には別に初めて訪れるわけではない。まだ生まれたばかりの時からここには縁がある。
新生児はここで取り上げられてそれぞれに神の祝福を授けられる。まるでファンタジーな何かではなくて、単に司祭より“健康に育ちますように”と言った意味合いで祝福の言葉を贈られるだけのものだが。
また、多少の分別がつくようになる頃からここに集められてこの世界の成り立ちだとか神話だとかを聞かされたりする。加えて現代の世界情勢なども子ども向けに教えられてこの街で生きる彼ら彼女らにその役目を伝える目的もある。
そしてその中できちんと話が聞けて理解以上の何かを示した子どもがいれば特別に大事にされたりするが、転生者とはいえ半分寝ながら参加して、たまに見かければお昼寝に明け暮れているアイシャには無縁の話だった。
聖堂に集まる子どもたちはみんな今日のこの時を待ちきれなかったとばかりにはしゃいでいる。
「静かに。これより生誕の儀を始めます」
子どもたちの慣れ親しんだ司教の声が儀式の始まりを告げた。
儀式とは言うものの、そのほとんどがこの歳まで生きたことへの祝福の言葉であり特別な演出などもない。
子どもたちにとっても大人たちにとってもこの後の“鑑定”がメインイベントでそれ以外はひたすら退屈な時間が過ぎるばかりだ。
そんな行事だから寝るのが好きなアイシャはもちろんうつらうつらとしている。
「アイシャちゃん、起きて起きて。始まるよ」
幼馴染のサヤがアイシャの肩を揺すって起こす。うそみたいな鼻ちょうちんも、それが割れて目覚めるのもこの幼馴染には見慣れたアイシャの姿である。
「あ、おはよう」
「もう、おはようじゃないよ」
寝起きのアイシャが言われて見れば、何人もいる子どもたちが列をなして順番に司祭の前に置かれた台座に手を当てている。
「わたしたちも行こう」
サヤが手を掴んで引き起こしてくれてアイシャもどうにか列に並ぶことができた。
「楽しみだねえー」
「うん、そうだね」
ニコリと笑顔で返事するアイシャにサヤも顔がほころぶ。
サヤとアイシャは家が近所ということもあって幼い頃から仲良くしている。女の子同士気が合うのか遊ぶのもお昼寝するのもよく一緒にいるものだ。
先に鑑定を終えた子どもたちは何やらいくつかのグループに分けられている。
サヤの番が来て台座に手をかざすと一枚のカードを手にしてアイシャの元にやってくる。
「アイシャちゃん、わたし剣士だって」
まるでくじ引きの結果を告げるノリでそう言ってサヤは先のグループのひとつに振り分けられていった。
「君で最後だね。アイシャ、ここに手をかざしてごらん」
司祭は変わらず優しい笑顔でアイシャにそう促す。
「はーい」
アイシャもこれだけ見ていればやり方など分かっているし大したことないと、司祭のヘソくらいの高さの台座へそっと手を置く。
突然の発光、などもなく台座からシュッとカードが出てくる。
(カードダスみたい……)
「黒いカード? 珍しいな……」
司祭はカードの色が他の銅や銀と違うことに首を傾げるがとりあえずは、と「適性職を教えてくれ」とアイシャに促す。
そのアイシャの方はすでに内容を確認していて、両手をあげてくるくる回りながら腰をフリフリとその場で小躍りしている。
周りの人たちは大人も子どももその姿によほどいいものでも与えられたのかと固唾を飲んでいる。
「……アイシャ教えてくれないか」
再度の司祭の言葉にあっと気づいたアイシャは
「お昼寝士っ!」
引き当てたカードを司祭に向けたアイシャは、それはそれは満面の笑みであった。
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