気がつけば幼女

第2話 訪れた来世では女の子でした

 彼女は物心ついた時は4歳だったと記憶している。


 それは世間一般的にいう“物心がつく”とは違って、その歳に年齢以上の記憶が詰め込まれたようなモノであった。


 だから彼女は記憶しているのだ。あとから知るわけではなく“私はこの瞬間から意識して生きている”と。




 そして6歳の頃に見知らぬ人に話しかけられる。


「とっさの事だったからね。せめて痛みなく死なせてそのまま飛ばすのが精一杯だった。今は準備出来ている。戻ることもできるけど君はどうしたい?」


 よく晴れた日の外でのお昼寝タイムに現れた人物は、見上げる彼女からは木漏れ日を背にしてその顔は良く見えない。


「私は今が気に入ってるの。だからこのままでいいわ」


 それだけ言うとお昼寝を再開してしまった彼女に「フッ」と鼻で笑ったようなその人はそっとしゃがみこみ、


「まあ君はそうだろうね。じゃあせめて……お守りだけでも置いていくから使ってよね」


 それだけ言って彼女の頭のそばにそのお守りをそっと添えただけでそのあとにはいつもの静寂があった。




 そんな不思議体験の事なんて彼女にとってはどうでもよかった。新しい人生では押し付けられることなど何も無かったから、羽根を伸ばしてのんびりと生きていくことも出来るのだと、子どもの特権かのようにするお昼寝を“趣味”として日々を過ごしている。


 それでも彼女は前世で“やらされていた”習慣”を捨てはしなかった。


 物心ついた頃からひとり遊びで他人の目のない時を選んで“型”の練習は欠かさずに行なっている。近所の子どもたちでする遊びはもっぱら身体を動かすことばかりで、その中にあえて負荷をかけた動きなども取りいれて身体作りに余念はない。




「アイシャちゃん。今日はおめかしして行きましょうね」


 母のリーシアは一人娘の彼女を可愛がっている。ほどほどに大事にしてくれていて、この日もおめかしなどと言いはしたがその髪を梳かして小さなヘアピンを付けてくれるだけという行き過ぎない愛情表現で送り出してくれた。


 アイシャと呼ばれた少女は活発な子どもらしく茶色のズボンに白のシャツは半そでで袖口に気持ち程度のフリフリがついているだけというシンプルさだ。


 薄茶色の長い髪を前髪は眉にかかるくらい、その脇を長く垂らした前下がりボブに花のついた髪飾りが可愛く揺れる。


「うん。いってきまーす」


 手を振り家を出るアイシャがドアに頭をぶつけたが、リーシアは心配するわけでもなく、泣きもしないで笑う娘を笑顔で見送った。


 この日の行事で娘の人生が奇異なものになるとは知りもしないで。

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