Decisive battle
「ランちゃん!」「ランちゃん!」「大国から、こっちに大群が来るよ!」「来るよ!」
鳥たちが警報を鳴らした。それは、日が沈んでから、間もない頃だった。
「みんな! 大群が攻めてくる! すぐに戦闘準備!」
私は、皆に、呼びかける。
「ウッス!」
皆は即座に動きだした。先程、会議で話した方針、作戦を遂行する。
「で、この先の動きなんだけど」
今、森に住んでいる鳥たちに、国の様子を監視してもらっている。大きな動きがあれば、すぐさま知らせるように頼んでいる。
知らせが来たら、すぐに戦闘体制に入る。
戦いが始まったら、大きく二つのチームに分かれる。一つは、そのまま軍と戦うチーム。もう一つは、囚われたクレームくんの両親を救出のするチーム。直接、敵地に攻め込むのだ。
「救出チームには、マムくん、クレームくんと、私で行く」
「大将のランちゃんが、直々に、攻め込むのか!?」
「国への潜入には、透明化を使って、姿を消して行きたいと思うの」
とくに、都市部には、人がたくさんいて、彼らの注目を浴びたくないという思いと、敵にバレずに、スームズに救出したいのがある。
「実際に、牢獄に行くのは、マムくんとクレームくんの二人だけ。私は、向こうの大将を直接叩く」
「それって、王を倒すってこと?」
「うん、一番の根本を倒せば、私たちの勝ちでしょ?」
「いいの、それ」
「問題ないでしょ。向こうが仕掛けてきた戦いだもの。コテンパンに叩いてしまいましょう」
彼らに情けをかけるつもりは、一切ない。彼らは、これでもかという程に、私の怒りを買いまくり、大鷹の尾を踏んだのだ。
「私たちが戦う目的は、クレームくんの両親の救出と、レインホークを守ること。私たちは、残忍な人殺し集団じゃないから、殺しはしないで。ただ、一切の手加減も容赦も不要よ」
さっきの火事は、彼らが仕組んだこと。私はそれを、絶対に許さない。
「私たちの怒りを買ったことを、強く後悔させるため、軍は、徹底的に潰して、壊滅させてやりましょう」
「うっすー!」
「腕が鳴るぜ!」
皆は、盛り上がった。
「マムくん、クレームくん」
「ん? 何?」
「両親救出には、この子たちが役に立つわ」
と、紹介したのは、二匹のリス。赤い梅干しのような色味のものと、抹茶ロールケーキのような色味のものである。
「リス?」
「うん、赤いうめくんと、緑のまっちゃん。私と賢者さんが王に会っている間、こっそり潜入捜査に行ってもらってたの」
「え……そうだったの」
賢者さんは、驚いた。伝えてなかったものね。
「父ちゃん、母ちゃんのいる場所も、牢の鍵のある場所も、全部わかってるぜ!」
「案内なら、あたしたちに、任せて!」
「うん、よろしくな!」
「こりゃあ、頼もしいなぁ」
「よくこれを思いついたな」
「すげぇよ、ランちゃん」
この世界での強さの鍵は、想像力と創意工夫である。
そして、迎えた本番である。
これから森へ入ろうとする、ヒューマン大国の軍隊と、森の茂みの奥で待ち構える、ダストホークの面々が、向かい合って、睨み合っていた。
私と賢者さん、それぞれの隊の隊長は、森から出てきて、並んだ。
「これ以上、森を荒らさせない」
私は、停止する軍隊に向かって、言い放った。
「道を開けよ」
やや奥の方から、雄々しい声が響いた。前から数列の兵士が横に動いて、軍の統率者らしき男が前に出てきた。
「私が、この3万もの軍勢を率いる、指揮官、バジルだ。貴様らが、レインホークとやらの兵か。我らの予測じゃ、今頃お通夜の最中にあるだろうと思われてたが、食えない連中だな」
「やっぱり、あの火事は、アンタらの仕業……」
またしても、はらわたが煮えくり返る思いだ。
「……なんて、非道なマネをしてくれたのよ」
「はあ? お前らは、敵だ。敵になぜ容赦をする必要がある」
「ちがう! 何を起爆剤にしてんのよ……」
「ああ、あれは元々、捨てられる予定のものを使ったんだ。ちょうど、火属性だし、あれくらいの子供なら、簡単に相手の懐に入ることができよう」
私の怒りは、頂点をとうに超えている。目つきも、鼻息も荒くなる。
「しかしまあ、貴様の大将は、まさかの女か。しかも、小柄で、見るからに貧弱な少女ではないか。我々もナメられたものだな」
「悪いか」
「そりゃあ、女のクセして、男に楯突こうなど、許されることじゃねぇ。女は大人しく、この私に従順して……」
言い終わるのを待たずして、水の小型サメの爆弾が、指揮官を襲った。その爆圧によって、指揮官は落馬した。
それは、マムくんの一手だった。マムくんは、地面に伏せる指揮官に、近く。
「俺は、テメェみてぇな男が、一番嫌いだ。何も知らねぇくせして、弱ぇだとか、捨てられるヤツだとか、あれこれ勝手に決めつけてんじゃねーよ」
指揮官の頭を踏みつける。止めようかと少し足が動いたが、それ以上は動けなかった。
「俺らの姫君を侮るなよ。彼女は、お前たちとは、何もかもが違う。いつだって、彼女は、人のことを思いやって、行動して、自分ではない誰かのために、思いっきり怒れて、全力を尽くせるんだ。そんな優しくて、勇敢な彼女の思考を、お前たちは理解できるか? 彼女の思考は、無限だから、俺でも完全に理解するのは難しいぜ。ましてや、女はどうとか、男はどうとか、そういうくだらねぇ、固定概念しか持っていねぇ奴らが敵うかよ」
全てを言い終わると、足を引っ込めた。
指揮官は、体を起こすと、兵士に命じる。
「貴様ら、さっさと此奴らを抹殺しろ」
私も大筆を取り出し、前方を指す。
(赤——情熱——ルビーパワー)
情熱のルビーパワーを、皆に授けた。
「みんな! ガンガン行っちゃって!」
私も皆に指示を出す。
こうして、戦いの火蓋が切って落とされた。
森の中から、皆が一斉に飛び出してきて、ついに全面戦争の幕開けだ。
ダストホークの皆の実力は、私の想像を遥かに超えてきた。
相手方の、鎧を着た、屈強そうな兵士たちが、いとも容易く先手を打たれて、強烈な攻撃に倒れていく。
大将の私は、相手の指揮官と対峙していた。
「この私をナメるなよ! この強靭な剣捌きの前では、……!」
娘が消えた!?
「もう、勝負はついたわ」
背後から声がした。いつの間にか、後ろに回り込まれていた。
その刹那、強大な恐怖心が、私を襲った。宛ら、真っ黒な闇に、身体中を乗っ取られているが如し。苦しい。深い呼吸が出来ない。全身の震えが止まらない。
あの娘、一体、何をした。
(黒——恐怖——【
黒の魔法で、強い恐怖心を植え付けた。黒という色は古代より、死、恐怖、絶望を表す色だとされてきた。それでいて、他の何色にも染まらない、絶対的な強さを持つ。
「貴方は、そうやって、永遠に恐怖心に囚われていなさい」
冷たく言い放って、そのまま先に進んだ。
「マムくん! クレームくん!」
二人を呼んだ。すると二人は、水流に乗るが如く、スイスイ速やかにやってきた。
「お待たせ、我がプリンセス」
「ナイトクレーム参上だぜ!」
相変わらずの、台詞。クレームくんのそれは、ラブラくんが言っているやつである。
「さっ、行こっか」
「だねっ!」「うっす!」
三人は、それぞれのユニコーンを召喚した。
「おい、お前ら!」
「何をするつもりだ」
相手方の兵士に気付かれてしまった。それらは皆、マムくん、クレームくんが即座にやっつけた。
(白——クリア——【
透明になって、ユニコーンに乗馬する。透明化すると、今まで見えなかった存在が、見えてくる。
「あれ? モモちゃんいたんだ」
私の肩には、いつものように、しかし、いつもとは逆向きに、モモちゃんが乗っていた。
「うん」
「防衛として、モモちゃんには、私の後ろを監視してもらってるんだ」
不意打ちとして、後ろから攻撃されても安心なようにだ。
「リスたちもいる」
うめくんとまっちゃんだ。クレームくんの両親のいる、牢屋への案内役を任せている。怪しまれないように、終始、透明でいてもらっている。
うめくんはマムくんの、まっちゃんはクレームくんのユニコーンに乗って、いざ、大国の中心部へ飛び立った。
王宮や監獄のある、第三のエリアに着くと、二手に別れた。
私は、王様との一騎討ちだ。
今回は、透明化も解除して、正々堂々乗り込んでいく。
目の前にそびえ立つ、豪華な門。その前には、十幾つと多勢の門番が待ち構えていた。
「娘! 何者だ!」
門番の一人が叫んだ。
「私は、ダストホークの大将、
私は、大筆の先を向けて、堂々と名乗りを上げた。
「はあ? おいおい、何言っちゃってんだよ、お嬢ちゃん」
「お前みてぇな、小娘が、まさか、うちの王をやるってのか?」
兵士たちは、品もなくゲラゲラと笑った。こいつらが、王に仕える兵士なのか。鎧を着てなきゃ、酒場の悪党共と間違えるところだろう。
(黄色——電気——【
黄色い雷を、兵士たちのところに落とした。悲鳴を上げて、全員が倒れた。死なないように、一応調整はした。
兵士を倒すと、カスタードくんを召喚し、門を超え、一気に宮殿の本館へ飛ぶ。
向かおうとしていた、扉が開き、中から、また十数名の兵士が出てきた。
「何事だ!」
「私は、
「なんだ、貴様は!」
「我らの王には、近づかせんぞ!」
今度の兵士たちは、侮ることなく迫ってきた。
「そこを
カスタードくんは、進行の妨げをする兵士たちに命じた。すると、兵士たちは、突如として、「熱い」と悲鳴を上げて倒れていった。ただ、その中の五名は、やや苦しみながらも、立ち上がった。
「我らは、土属性だ。火属性の攻撃には、多少強い」
「カスタードくんて、火属性だったの?」
「はい。確かに、土属性にはやや向かないです」
属性間でも、有利不利があるのだ。
「土属性に有利な属性は?」
「水属性です」
水属性——まさにマムくんとクレームくんだ。でも、二人は、別の任務を遂行している。私も、私の任務を遂行する。
すると、前方から、大小さまざまな岩が飛んできた。カスタードくんは、それを次々にかわしていく。
(青——水——)
「【シャークレイン】!」
上空から、水で形成した、小型のサメ爆弾を無限に降らせた。マムくんたちがよく使う技をちょいとアレンジした。無限に降らせているから、命中率も無限大だ。
土属性の兵士には当然、水の技は、大ダメージだ。残りの全員も、バタバタと倒れた。
今回は、少々、手間取ってしまった。思っていたよりも、一筋縄ではいかないみたいだ。
「行こう」
「はい」
扉の向こうへ進んだ。
前と変わらず、どっぷりと玉座に浸かる王がいた。だが、王以外に誰もいない。護衛の兵士は、さっきので全部?
「やっときたか」
相変わらずの憎い顔。
「私の方も、貴方がたを侮り過ぎたかもしれませんね」
「こちとら、優れた精鋭部隊を集めているんだ。そう容易く突破できるか」
「この国の本質はそこでしたね」
レッドカーペットを歩きながら、王と対話していく。
「ねぇ、王様。私と貴方の一騎討ちとしません?」
「一騎討ちとな?」
「はい。聖の神ホリーの化身の末裔と名乗るからには、それ相応の実力はあるのでしょうね」
「そうだな。一応そう名乗っているな。だが、厳密に言えば、聖の神ホリーではなく、母神ミルザの化身の末裔だ」
「え、ミルザ様の!?」
「ああ。一番最初の先祖は、聖属性だったとな」
「……そうだったの?」
衝撃の新事実だ。モモちゃんや、ランドリーさんみたいに、聖属性の、ミルザ様の化身だと。
「だが、俺は、聖属性ではなく、ただの火属性。属性は、遺伝するものではなく、後天的に与えられるものなんでな。構わん、俺と貴様の一騎討ち、乗ろうではないか」
王は、ようやく玉座から立ち上がった。
「この戦争を、決着させましょう」
筆を向けた。
「貴様、何属性だ」
「色属性。いろんな色を操って、なんでもできちゃうの」
「ほう。では、やはり、昼間の黒い奴は、貴様か?」
「そうよ」
「なるほど、つまりこれは、俺にとっては、リベンジマッチになるわけだ。なあ? そうだろ?」
「?」
不自然な笑み。私に向かってじゃない。
「そうです、ピッピ!」
ぱっと後ろを振り向く。聞き覚えのある、特徴的な声や口調。
そこには、鉄のパイプが。誰もいない。ただ、鉄パイプだけが、私に向かって、振り下ろされようとしていた。
突然、誰かの呻き声が聞こえた。
鉄パイプの動きは止まって、ぼとりと落ちた。
私は即座に透明化になった。
そこには、ローカーが。ジョーピエもいた。
「ランさん、お久しぶりですジョー」
ジョーピエは、お気楽に、挨拶をした。
「これは、どういうこと?」
「この場を見れば、だいたい分かると思いますジョー」
強い一発を受けて、倒れているローカー。人間の姿になって、ドンと立っていた。落ちている鉄パイプ。
「王様も、透明化をどうぞ」
これでこの場にいる全員が透明になった。透明になった同士では互いに姿形が見える。つまり、透明化の効力はゼロになったというわけか。
「やっぱり、こういうことだったのね」
モモちゃんが口を開く。
「こいつらは、非常に有能な人材だ。送りこんで大正解だった。でかしたぞ、お前たち!」
「光栄でございますジョー。我々の長年に渡って行なってきた、ミッションも、あともう少しで終わると思うと、感慨深いものがありますジョー」
「アンタらは、最初の最初っから、真っ黒なネズミだったのね。でも、闇属性のアンタたちが、なんでヒューマン王国と手を組んでいるの?」
「それは、あっしらが、この国を大いに気に入ってるからですジョー」
「それもどうせ嘘なんでしょ。魔王ブルーザの差し金かしら……」
すると、ジョーピエは、一瞬にして、モモちゃんのすぐ横に移動し、手を闇の刃へと変えて、それをモモちゃんの首に近づけた。
「モモさん、ちょっとおしゃべりが過ぎますジョー」
「モモちゃん!」
すると、モモちゃんは、後ろへバク転し、体勢を整えて、ジョーピエに蹴りを入れる。それは、かわされた。
「ラン、この二人は、モモに任せて。聖属性は、闇属性に有利なの!」
モモちゃんは、言った。
「ローカー! いつまで寝てるジョー? 早く起きて、戦うジョー!」
ジョーピエが呼びかけると、ローカーはすぐに飛び起きた。
「お待たせ、ピッピー! 完全に回復したピッピ!」
いくら属性で有利だとはいえ、強敵レベルを二人も相手にするなんて、厳しいだろう。
「カスタードくん、モモちゃんの援護をお願い」
「私は、一先ず、様子を見て判断致します」
「分かった。お願いね」
「はい。お任せを」
そして、私は、王様と向き合った。
「さあ、ファ・ランカ。ショータイムとしよう」
と、王は、姿を変えた。被っていた王冠が、コロリと落ちた。
それは——二足歩行の人型ではあるが、ゴツゴツとした赤い皮膚。突き出た、二本のツノに、広々とした翼。シルバーに光る装備から覗く鋭い爪。
一目見て、すぐに分かった。それは、ドラゴンだ。
「なんで……ドラゴンに?」
ドラゴンの……ビーストヒューマン?
「実は俺は、ハーフドラゴンなんだ。母親がドラゴンのビーストヒューマンなのでな。本物のドラゴンにはなれん、この姿が最大だ」
そんなものもいるんだな。これと私は、一騎討ちをするのか。
気後れするな。私が負ければ、全てが終わる。私が勝てば、またみんなの笑顔が見られる。負けられない。絶対に勝つ。
みんな……こんなやつ早く倒して、みんなを守る。
「相手は、このうさぎさん、一人だピッピ? 早く倒してしまって、祝いに
「えぇえぇ、そうしましょうジョー!」
「アンタら、モモの属性分かってるよね? 手加減しないよ」
「さあ、一騎討ちの勝負だ」
「私は、絶対に負けない!」
闘志を燃やす。大好きなみんなの顔を思い出す。みんなのためにも、私自慢の、色の魔法の力で。
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