Together

ランさん対、竜人と化した国の王の一騎討ち。こちらでは、モモさん対ローカー、ジョーピエの一対二の戦い。私は、モモさんの方に参戦すべきだと思うが、竜人と化した王も侮ることが出来ない。ランさんの方に参戦するべきかもしれない。


「絶対に負けない」

「来い!」

 ——相手は、火属性。だから、青の水の技を中心に攻撃していこう。水技なら

得意だ。なんせ、私は、水隊の二人と仲がよくて、二人と一緒に、水の技をよく試して、開発してきた。水に関する知識もそれなりにある。

(青——水——【湿潤しつじゅん空間くうかん】)

 この空間の湿度を高めて、火の威力を少しでも弱くする。

「居心地の悪い空間になったな。小賢しい」

 王が迫ってくる。ここは、交わして、すぐに次の一手に入る。

「——【魚群ぎょぐんガトリング】」

 青色で作った、イワシのような、サメよりもっと小さい魚を、一斉に大量に放って、竜の顔面をタコ殴り。威力は、強烈にしてあるから、王にも結構なダメージが入っているはず。

 だが、竜と化した王は、その翼で上空に上がった。

「ランさん! 私に、お乗り下さい!」

 カスタードくんが、加勢にきた。

「カスタードくん」

 私は、すぐに背中に乗ると、危機一髪のところで、王の攻撃をかわした。互いは、空中戦へと突入した。


「ずっと、蹴ってばかりじゃないですピッピ?」

「そろそろ見切ってしまいますジョー」

 一方、モモの攻防。体力も消耗してきたのか、呼吸の動きも大きくなる。

「もちろん、聖属性の魔法は、これからよ。この属性のほんとの力はね、ミルザ様さまをはじめとする、神々のお力をお借りした魔法を操るの。それは、善人にとっては、とても心地の良いものだけど、アンタたちのような悪人、闇属性にとっては、致命傷を負うかもね♡」

 最後にウインクでキメた。

「舐めてもらっちゃ困るッピッピ!」

 ローカーは苛立ち、モモに向かっていった。

「ダーク=【ティアーヒューム】」

 目一杯、息を吸い込んで、モモに吹きかける。白い煙幕のようだ。

「ホリー=【ピース】」

 しかし、モモは、白い煙幕を跡形もなく消してしまった。

「な、何が起こったッピッピ!?」

 予想外の事態に、ローカーは慌てた。

「これは、ピース様のお力。自分が脅威と感じるものを、消去することができるのよ」

「そんなのありかピッピ!」

「当然、アンタたちもモモにとって、脅威だから、一瞬で消せるよ」

「ちょー、そんなのナシだジョー!」

 これには、ジョーピエも慄く。だが、容赦することなく、モモは、次の一手に出た。

「怖い二人、消えて。ホリー=【ピース】」

 直前、ローカーは、ニヤリと笑った。

「ダーク=【ミラー】」

 手のひらをモモに向けると、ダークパープルの鏡が現れた。鏡は、モモを映す。

 その瞬間、モモの姿が消えた。

「ヒヒヒヒ。この勝負、わっしらの勝ちだッピッピ!」

「これで一歩、平和に近づきましたジョー」

 

 ……そんな。モモちゃんが、消えた。

「何をよそ見してるんだ?」

 しまった。気を抜いてしまった。声が聞こえて、パッと見ると、目の前には、鋭い眼光。針で頭を貫かれたように、何も考えられなくなっていた。

「ファイアー=【ブレス】」

 パカっと大きく開いた口から、炎が吹き出た。

 間一髪、カスタードくんが避けてくれたおかげで、なんとか助かった。と思ったのも束の間、隙を逃さない王の横からの砲弾攻撃をモロに喰らって、隕石の如く弾き飛ばされた。

 くっ……ここまでの大ダメージを喰らったことなんて、そうそうない。

 まずい。……強敵過ぎる。負けるわけにはいかないのに。

「ランさん、大丈夫ですか」

 後頭部と背中に、優しく手が置かれた。そのエリアを中心に、熱くなっていた。熱い。けれど、ちっとも苦しくない。むしろ、癒された。負ったダメージを回復していく。

 カスタードくん。人間になっていたが、ツノと翼は健在だ。

「ランさん、もうしばらく休んでいてください」

 そう言うと、立ち上がって、スタスタと前に歩いていった。携帯する、細く長い剣を手に持って。

 ある程度の距離が空くと、私の目の前には、高く燃え上がる炎が。メラメラの赤い炎のその先に見える、騎士の影。

「ご安心ください。その炎は、ランさんには、害を与えません。そちらのピエロたちには、大火傷ですが。竜王は、私が倒します」

 待って。二人は、火属性同士であるはずだ。火属性は、火の攻撃は利かない。

「は? おいおい、なんの冗談か」

「私は、一つも冗談を言った覚えはありません」

「お前の炎攻撃なんぞ、俺には利かないぞ」

「貴方の炎攻撃も、私には利きません。炎以外は、別ですけど」

 そうか。火の攻撃は利かないけれど、火以外の爆発とか、物理攻撃とかなら、利くのか。だから、火属性同士であっても、戦えないことはない。

「選手交代だ。相手になれ」

「忌々しい、イッカク野郎だ」

 カスタードくんが戦っている、今のうちに、調子を整えておこう。

(青——冷静——サファイアパワー)

 頭を冷ます。落ち着いて、落ち着いて、今の私を分析する。

 ダストホークの大将張っている私のくせに、だいぶ頭が、硬くなってしまっていた。これでは、勝てるものも勝てない。集中しろ。「勝てない」なんて考えに囚われていては、挑む前に、尻込んで諦めてしまう。

 ……そうだ。好調の時の私って、純粋に、色の魔法を楽しんでいた。今の私に、そんな思いはあったか。

 何を成し遂げようと、意気込むよりも、私らしくいけばいいんだ。私の“好き”に正直になっていけばいい。その方が、ずっと気楽で、楽しい。

 試しに何か、私の好きなものを作ろうか。私の好きなものを思い浮かべてみると、真っ先に浮かび上がったのは、マムくんたち、みんなだった。

 一先ず、マムくんを、澄んだ青色で作ってみた。一色単ではあるが、マムくんであった。

 すごい、マムくんが出来た。それから、何をすればいいか分からなかったが、とりあえず、ギュッと抱きしめてみた。マネキン人形を抱いてるような感じだ。すると、マネキンマムくんも、そっと私を包んでくれた。

 すごい! イメージした通りに動いた! そして、離れると、マムくんは、にっこりと笑って、

「行ってこい、ランちゃん」

 用意は整った。炎を通り抜ける。


「貴様、優美な騎士を気取るくせに、ずいぶんと貧相なサマだな」

「ハァ、ハァ」

「いい加減、諦めたらどうですピッピ?」

「何度挑もうが、結果は同じなのにジョー」

「……まだだ」

 宣言した。我があるじの為にも、私がここを突破させる。

「忌々しい奴だ」

 立とうと力を振り絞っているときに、王が迫ってきた。間に合わなかった。横から拳を入れられ、扉のすぐそばまで飛ばされる。

 ……クソ、絶対に諦めるな。

 己を回復させ、竜王を睨む。

 そのとき、強い光が現れた。眩んで、目が開けられないほどの。

「カスタードくん!」

 ランさんの声。目を開けて見ると、彼女がいた。

「申し訳ございません……私の力が足りないばっかりに」

「いいえ。あなたは、とっても最高よ。ありがとう。今度は私の番」

「ランさん……」


 カスタードくんには、本当に感謝だ。私のために、ここまで踏ん張っていてくれた。彼に回復魔法をかけると、数歩先に出た。

「選手交代よ」

 相手方に、筆先を向ける。ポンと、肩に手が置かれた。

 その顔を見て、「えっ?」と思わず声を漏らしてしまった。

「マムくん!?」

「ごめん、ランちゃん。遅くなったな」

 マムくんだ……。やはり、本物は格別だ。

「俺も参戦する」

 王たちに言い放った。

「随分と気合が入っているようだが、生憎、我々は一対一の一騎討ちの最中だ」

「は? お前ら、三人いるくせに、何言ってんだ」

「わっしらは、ただの傍観者だッピッピ」

「それに、俺とランちゃんで、一人だかんな」

 マムくんは、私を見た。

「どういうことだ?」

 私には、すぐに分かった。マムくんの考えていること。

「ランちゃん、例のやつ、やろうよ」

「うん、いいよ!」


 それは、私とマムくんとの合体技。

 

『ねぇ、ランちゃん』

 提案したのは、マムくんからだった。

『俺とランちゃんの合体技みたいなのあったら、良くない?』

『合体技……うん、すごく良いと思うよ!』

 憧れるし、ましてや、マムくんとのだなんて、素敵だ。

 そして、森の中。クレームくんとラブラくんに見守られながら、二人の合体技を編み出した。


 私は、大筆を仕舞い、目を閉じて、パンと合掌する。

「オレンジ——サンライト——【阿修羅アシュラ】」

 オレンジは、太陽の光を表す色。日の光を用いて、背後に阿修羅像を形作る。

 日光であるため、当然、直視すれば、目はやられる。王も、ローカーもジョーピエも、目を伏せる。

「ウォーター=【コーティング】」

 同じく目を閉じて、合掌するマムくん。私は、目を閉じているけれど、分かる。

 すると、日光の阿修羅の形は崩れ、公園で見るような噴水の如く、膨れ上がる水と、ぐるぐる混ざり合って、飛大ひだいな阿修羅を完成させた。

「「【レインボーアシュラ】」」

 

『虹色って、普通に出すことってできねーの?』

 クレームくんが尋ねた。

『できるはできるんだよ。……でも』

 虹色で人の形を作ってみた。しかし、少し経つとすぐに消えてしまい、私はひざから崩れ落ちた。

『……一度に複数の色を出すと……一気に力がなくなるの』

 まるで、銅像と化したかのように、体が重くなって、立つこともできない。

『あぁ、ゴメン』

『色の魔法も、無限じゃねーのな』

『でも……この方法なら……オレンジの一色だけだし……いつも通りとかわらないよ』

 マムくんが背中に触れて、回復魔法をかけてくれた。

『つまりこの技は、ランちゃんと水属性の俺がいることで出来る、超大技ってことだな〜』


 感じる。オールミックスしたような、特別な力が。

 見える。目は閉じているはずなのに、目の前の光景が見えていた。

 高いところから、相手三体を見下ろしている。これは、アシュラの視界だ。

 アシュラは、私たちの前に出ると、今度は縮小して、王たちと真っ直ぐ向き合った。

「こいつらが、私の敵だな」

 アシュラは、私らとは別に、自我が芽生えている。

(殺さない程度に、やっつけて)

「了解! どいつもこいつも、コテンパンに叩きのめしてやるぜ! ヒヒヒヒ」

 魔女の如く、下衆げすく笑う。どうして、こんな好戦的な性格なのかはわからない。性格までは、イメージしていない。

「さあ、ヤろうぜ、テメェら」

 突如現れた、妙な謎のモンスターに、三者ともおののく。

「な、なんだ、貴様! 竜の王であるこの俺に、敵うと思うなよ!」

「へぇ、竜王ね。面白ェじゃねーか。やってやんよ!」

 アシュラの鼻っ柱は折れない。それどころか、より熱く燃えている。

「ローカー、ジョーピエ! 彼奴を早く仕留めろ!」

「わっしらが、ピッピ!」「貴方様がやればいいですジョー!」

「だまれ! 下衆げすがこの俺に歯向かうな!」

 王は、敵わないことが分かったのか、見苦しく騒いでいた。

「まずはテメェからだ! 竜王様よォ!」

 アシュラは、そんな戯言ざれごとには耳を貸さず、超人的なスピードで王に近づいた。

「【千烈せんれつ正拳せいけん】!」

 六本中、四本腕をフルに動かし、王の顔や腹に、拳を喰らわせまくった。

「ウォォオラァァア」

 勇ましい声を上げた。隙を見て攻撃を仕掛けようとする、ローカーとジョーピエにも、残りの二本を伸ばして、強烈なパンチを喰らわせた。なんと器用だ。

「オラァ!!」

 頃合いを見て、残りの一撃を放つ。

「ぐあぁぁ!」

 王は、唸り声を上げて、吹っ飛んだ。強い衝撃で、玉座を破壊し、壁に激突した王は、もう動かない。超強烈な一発を喰らった、ローカー、ジョーピエに関しては、何処かへ消えてしまった。アシュラの真横に位置する壁には、大きな穴が開いていた。

 アシュラは、腰に手を当てて、ヒヒッと笑っていた。

「お仕事完了!」

 終わった。私たちの勝ちだ。

(ありがとう。アシュラ)

 そして、力を抜いて、目を開く。

 アシュラの目で見ていた光景と、全く同じだ。王は倒れ、両側の壁には、穴が開いていた。

「勝ったね」

 マムくんが息を切らして、言った。

「うん、そうだね」

 私も疲れて、息が切れている。

 二人共々、床に腰を下ろした。私は、マムくんに、そっともたれた。

 マムくんは、その頭を、優しいひざの上に置いた。ひざ枕。

「お疲れ、ランちゃん。カスタードも、お疲れ」

「はい」

「マムくんも、お疲れさま」

 頭を撫でてくれた。優しい冷たさが、体中に染み渡る。水属性の、回復魔法だ。

 そこへ、宮殿の扉が開いた。

 現れたのは、チドちゃんだ。風隊副隊長。

「チドちゃん」

「……ん? マムくん?」

 あ、そうだ。皆、透明化してるんだ。

 私は起き上がって、すぐに解除した。

「あ、そこにいたんですね」

 チドちゃんは、ハッと気づいた。

「ずっと透明になってたんだよ」

「で、どうしたの?」

 マムくんが尋ねると、チドちゃんは再び慌てて、パニックになった。

「落ち着いて。ゆっくり話して」

 マムくんは、はっきりと指示をだした。

「は、はい。あの、その……助けてください。ダストホークの隊長、副隊長は、みんな、地下に連れ去られました!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る