Reincarnated
今晩の夕食は、シーフードのカレーラーメンがメイン。デザートに、さつまいものケーキが並んでいる。
「ラブは、シーフード系好きでしょ? カクは、カレー好きだし、
名料理人のマムくんは、すっかりいつもの笑顔を取り戻していた。髪色も、普段の紫色に戻っていた。
「カクの大好きな、スイポテケーキもあるよ〜」
カクタスさんには、やや挑発的な言い方だ。
「ふん。まあ、悪くはねーんじゃねぇの?」
麺を口に含みながら言った。
「素直じゃねーな」
「いや、けっこう素直な方だと思いますけど」
ラブラくんが言う。
「たしかにそうだな」
とマムくんは、笑った。
「ねぇ、ラン、カレーの中に、りんご入ってるよ」
モモちゃんが嬉しそうに言った。
「ほんとだ、良かったね」
「モモちゃんの好きなものだからね」
こういう気配り上手な、マムくん。本当に、最高すぎます!
心をキューンとときめかせながら、麺を
あと、デザートのスイポテも、甘くてとっても美味しかった。
大冒険から、帰ってきたばかりだということもあって、私はひどく疲れていた。カクタスさんに回復はしてもらったが、それでも疲れた。
家に帰って、黄色い畳の色を緑にして、そこにゴロンと転がった。
モモちゃんも丸まって、休む体勢になっていた。開いた障子の向こうには、オレンジ混じりの星空が見える。
和風の風景で、心地よかった。
すると、お庭から、にょきにょきと生えてきたのは、なんと竹。
「なんで竹が!?」
思わず叫んでしまった。
「ラブの仕業だよ」
マムくんだった。マムくんは、縁側で、足を伸ばして座った。
「片付けの方は、クレとかに任せてきたよ。君と話したかったから」
こっちにおいで。と、手招きした。
起き上がろうとすると、冷たい誰かに抱きかかえられた。
それは、姿形の見える、透明人間。厳密に言えば、水で作られた人形だ。ちょっとした恐怖を覚えた。
水の人形は、縁側まで運ぶと、マムくんのひざの上に、頭がくるように置いた。
「ウォーターマン。サボテンマンみたいなものさ」
なるほど、私の技を取り入れたのか。
マムくんに、ひざ枕されている。なんて、幸せな一時なのだろう。
「俺の母さんはね、いつも笑顔で、気のいい人だった。働いてはいるんだけど、俺のことを一番に考えてくれて、いつもこうやって、ひざ枕して話したりしてたんだ」
まるで、そのお母さんのような優しい笑顔で覗く、マムくんの顔は、眩しすぎて、直視できない。思わず顔を逸らしてしまうが、両手で挟まれて、無理やり戻されてしまった。
「父さんは、……働いてはいるけど、酒やギャンブルにつぎ込んで、自分勝手に暴れてばかり。母さんにも、俺にも、暴言暴力で、めちゃくちゃ。誰が描いたかは知らないけど、あの絵本はだいたい合ってる」
あの絵本の、主人公セレスは、モロにマムくんだったんだ。
「母さんは、必死に俺を守ってくれて、荒れた父さんに対しても、明るく接していたな。どんなに辛くても、そういう顔は絶対に見せなかった。俺は、母さんを尊敬してて、『母さんになりたい』って、みんなに言ってた。気持ち悪がられたけど」
「私はべつに、そうは思わないけど」
「ありがとう。母さんもね、『いいじゃない』って、言ってくれて、料理を教えてくれたんだ」
素敵なお母さんだな……。
「そのうち、料理が大好きになって、近所の人たちにも振る舞ったんだ」
『みんなー、マフィン作ったから、よかったら食べてー』
すると、子どもから大人まで、たくさんの人が家から出てきて、俺の周りに集まってきた。
バスケットいっぱいに積み上げたマフィンは、すぐに数を減らし、みんな笑顔で食べていた。
その光景が大好きだった。
『兄ちゃん、何してんだ?』
ある日、いつもと同じように、クッキーを配っていたら、キャンディー咥えた男の子に声かけられた。
『クッキー作ったから、みんなに配ってるんだよ。君も食べる?』
『……食べる!』
一袋渡すと、咥えていたキャンディーを俺に持たせた。
可愛い。
「なんだか、マイペースで可愛いかったんだよな……」
マムくんは、その子に惚れたわけか。
その子は、メイズという名前で、あの日以来、よく一緒に遊ぶようになった。
俺には兄弟はいなくて、メイズには年の離れた兄が二人いるんだけど、あまり遊んでもらえなくて、いつも一人で過ごしていた。
末っ子のメイズは、性格もまさに末っ子って感じで、俺によく甘えてくるし、マイペースだったりして、すごく癒された。
「俺、甘えられるとトコトン構いたくなるんだよな」
うっとりと頬を押さえていた。これぞ、マムくんの母親心。
一緒に遊んでいくうちに、それぞれの家族とも関わるようになって、近隣にすむ人たちからも、仲良し青兄弟と、親しまれていた。二人とも水属性で、髪や瞳が青系の色だった。
「あの、メイズくんて、もしかして……」
「うん、クレだよ。大国にいたころは、メイズって名前なんだ」
薄々気づいていったが、クレームくんだった。そこまでの末っ子気質だったとは、驚きだ。お母さん気質なマムくんとは、相性が良すぎる。
「それで、あの事件のことだけど」
マムくんの視点から見た、あの事件の詳細を話してくれた。
殺されたこと、殺したこと。夢魔メアーの支配によって、暴れ回ったこと。大騒動になって、クレームくん(メイズくん)が駆けつけて、それで少し冷静になれたこと。虎隆さんがやってきて、救出されたこと。
「この町に来て、しばらくは精神がぶっ壊れたままで、動けなくて、急に大声出したり、頭とかガンガンぶつけたりしてた。常にクレが一緒にいてくれて、宥めてくれたから、少しは安心だったけど」
二人はもはや、切っても切れない関係にある。
「正気に戻ることが出来たのは、カクが来たことがきっかけだった」
「あぁ、酷いこと言われたんですよね」
「そう、あのヤロー、人が精神やられてるってときに、無神経なことばっか言いやがってよ!」
ぷんすかと怒るが、すぐにそれは収まって、暗い顔になった。
「でも、真実も言ってて、嫌なんだけど、何も言えなかった。俺とカクとじゃ、価値観が全然ちがう」
君の言うことも分かるよ。でも……でも俺は……。
『お前、なんかムカつく』
『奇遇だな、俺も今同じこと思ってた』
あの後、虎隆さんがやってきた。
『レインホークは、あの国とはちげんだ。あの国がどうだろうが、ここじゃ関係ねぇ。命をどう見ようが、お前らの好きにしろ。だが俺は、喧嘩にゃそそられるが、人殺しは別だ。必要以上に殺しまくるのも、汚ぇヤツも、面白くねぇ。そーゆー真似をするヤツぁ、俺がぶっ潰す』
『あとマム、いくら他のヤツの言うことが納得できても、好きになれなきゃ、無理に従う必要はねぇ。そんな義務はねぇんだ。お前の信じたいモンを、最後まで貫き通してみろ』
虎隆さんは、まるで太くて頑丈な、柱みたいだ。どっしりしていて、まったくブレない。
かっこいい。と思った。
「かっこいい虎隆さんのおかげで、すっごい元気が沸いたんだ。だから、虎隆さんには、感謝してる。……一応カクにもね」
良い着地点に着けたようで、安心した。
「虎隆さんは、聞いた通りのすごい人なんだね」
「“聞いた通りの”って、どういうこと?」
「私がこの世界に来る前に生きていた世界で、虎隆さんの話をよく聞かされされたんだ」
「誰にだ?」
いつの間にか、虎隆さんが座っていた。
「わあっ、虎隆さん!」
マムくんは、驚いた。
「それ、俺も気になる!」
と、ラブラくんも走ってやってきた。
私は起き上がって、虎隆さんに向けて話した。
「中学一年の時に、
「知ってる。中三の時、担任だった」
今更ながら、衝撃だ。私と虎隆さんにそんな繋がりがあったとは。
「お前、中学どこだ?」
「
答えると、虎隆さんは動揺した。
「俺もそこ行ってた」
なんと! 同じ中学の先輩だったとは。先生、言ってたっけ。
「マジっすか!?」
「虎隆さんって、20年前に、この世界に来たんですよね?」
「そうだけど。学校なんて、そう簡単に廃れるモンじゃねーかんな」
まあ、たしかに、結構長い歴史をもつ学校だったけど。運命的な出会いだ。
「てか、先生、まだ八木田にいたのかよ」
「さすがに、二回目とかだと思いますけど。でも、私が二年に上がるときには、他の学校に行っちゃいましたけど」
「お前、死んだのいつだ」
「二年生の修了式の翌日です」
「それが原因か」
「……先生が行っちゃったのは、一つの大きな絶望でした。そこから、どんどん、絶望が大きくなって、光は少しあったけど、それ以上に、暗闇の方が大きくて、重くて、耐えられなくなった」
「その先生は、どんな人だったんだ?」
ラブラくんが尋ねた。
「竹端先生は、美術部の顧問の先生で、私の描いた作品を見て『面白いね』って言ってくれたの。私はあんまり、人から褒められることがないから、とっても嬉しかった。
色やメルヘンなものが好きで、 それを追究していったら、先生が、十何年前に教えていた子に似てるって」
バリバリのヤンキーで、学校の番張ってるくらいに強いんだけど、いい子で、真面目で、授業もちゃんと受けていた。この世のあらゆることに、興味津々で、本をよく読んでいたり、エジソン並に質問していたって。
「そうだな、他の先公には、嫌がられたな」
「まさに、エジソンですね」
「不良だったしな。そういや、おめぇら、エジソン知らねぇだろ」
私たちとは、違う世界の住人であるマムくんとラブラくんは、当然エジソンも知るはずがない。
「はい、まったく」
「俺らが、前に生きてた世界で、大天才の偉人なんだぜ」
「はー」
あんまりピンと来ていない様子だ。
「とくに、食べ物に関することに熱心だったそうですね」
「ああ、食うことって、毎日絶対にやってることだし、食いモンにも、いろいろ種類があるだろ。俺のねーちゃんが、料理好きで、朝、昼、晩と全部の飯をねーちゃんが作っててな。作ってるのを近くで見てるの好きだったんだ。そんで、食いモンには、めっぽう興味持ったな」
「俺が作ってるところも、よく見に来ますよね」
「そうだなー、ガキん頃からの名残だな」
微笑しい話だ。そして、私とも気が合いそう。
「虎隆さんは、どうして殺されちゃったんですか?」
「それ話すには、男の熱い話を語んなきゃいけねぇな」
「ぜひ、話してください!」
「女のお前にウケるかどうか知らねぇっけど、いいぜ」
〜
俺の家族は、親父に母ちゃん、四つ上のねーちゃんと俺の四人家族だ。
家族の仲は悪くなかったぜ、俺は小せぇガキの頃から、いろんなものに興味を持った。
毎日、三回は食う飯や、公園でちょろちょろ動く虫や、空を飛ぶ鳥などの動物。空はなぜ青いのか、雨が降ったり、冬には雪が降るのはなぜか。デッカイ音が鳴る雷は、何なのか。ウンコが出てくるのは何でかとかな。
俺が何に興味を持ったとしても、両親は嫌な顔を一つもせずに、それに関する本を買ってきたり、休みの日に、科学館や動物園とかに連れて行ったりと、とことん付き合ってくれたんだ。
ねーちゃんとは一つ上で、幼なじみで、イイ関係になっていて、俺とは五つ上の、
アキくんは、絵に描いたような “
両親が留守の時には、アキくんが俺やねーちゃんの面倒を見てくれて、兄貴みたいな存在だった。
カリスマ性も高く、近所の公園や、学校などでは、いつも皆に囲まれていた。今はどうかは知らないが、当時は不良がたくさんいて、アキくんも自然と不良に憧れ、そういう漫画やアニメを見まくっていた。俺にも勧めて、小学校高学年辺りから、髪を金に染め、リーゼントをキメだした。
不良デビューを果たしても、アキくんはカッコよかった。喧嘩も強く、“ 漢 ”
であるため、他の不良たちからの憧れの的。そんな中でも、俺とねーちゃんが第一優先だから、シビれる。
次第に増えていった不良仲間にも、世話になって、彼らの後を追うように、俺も中学に上がると、不良デビューを果たした。アキくんのように、リーゼントをキメて、色は黒の方が好きだから、何も染めていない。
喧嘩じゃ負けねぇ。でも、学校の方もちゃんと行った。これまで知らなかった知識を得るのは、面白い。これまで通り、興味が沸いたものがあれば、徹底的に触れまくる。不良仲間や取り巻きたちの協力もたくさん得た。
そんな俺を、「天才の卵」だと高く評価してくれたのが、美術の教科担、三年の時の担任であった、竹端美嘉子先生だった。
気になることがあれば、細かいことでも何でも教師に質問した。質問に答えられないのか、答えられるが面倒いのかは知らないが、大抵の先公からは、疎まれて、しょっぱい顔で応対された。「何しに学校来てんだ、先公が」と言ってやった。
バリバリヤンキーの格好をして、真面目に勉強して、質問もよくするから、他の生徒からは、変な目で見られることもしばしばあった。
不良の野郎共からは、笑われた。もちろん、そいつらは、即座にノシてやった。
しかし、竹端先生は、少しもしょっぱい顔をしなかった。純粋な眼差しで、俺の疑問にも、日にちが経とうが、しっかり答えてくれた。
俺が手放しで尊敬できる、唯一の先生だ。
中学卒業後は、己の腕力をさらに高めるためにも、近隣で最も有名な、ヤンキー高校に、敢えて行った。
竹端先生からは、「もったいない」と惜しまれた。アキくんたちからは、ガンガン鼓舞された。
高校に入ると、一年生ながらに上級生をも圧倒し、すぐに天辺の座で、胡座をかいていた。
一応、勉強も真面目にやった。俺の圧力で、不良だらけの教室も、静かな空間と化した。成績面でも、クラス及び学年のナンバーワンに、躍り出た。なんせ、不良高校だから。真面目にやっていれば、成績上位になることなんて、難しいことではない。恐らくは、学校全体でもナンバーワンな気がする。
こうして、輝かしい高校生活を満喫していた。
ところが、一年の秋。まだ腐敗していなかった、三年のグループとの抗争の時だった。俺率いる、一年チームが有利で、イケイケだった。
一対複数で、孤軍奮闘している最中、横から大きなダメージを入れられた。見ると、ナイフで刺されていた。致命傷に至るほどの深い傷で、動けなくなった。それをいいことに、他の三年の連中も、俺を亀のようにボカスカ蹴ったり殴ったりしやがった。
一年の仲間が助けに入ったが、俺の意識は徐々に薄くなって、消えた。
死んでから、どんだけ立ったかは知らないが、意識が戻った。
そこは、青い空が広がって、天国のような、神聖なところだった。
そこには、背の高い女性や、年下ぐらいの男女三人と、一匹の獏のような生き物がいた。
彼らは、神だと言い、俺が転生して、これから生きていく世界について説明をした。俺は、転生前のクセで、気になることは細かくきいた。神たちは、一度も嫌な顔をせずに、一つ一つを丁寧に答えてくれた。
背の高い女神が、この世界では、誰しもが持つ魔法の属性を授けると言った。
俺は、こう答えた。
「魔法なんていらねぇ。俺が欲しいのは、超人並のスーパーパワーと、遠くの音でも聞こえるような鋭い聴覚くらいだ」
女神は、困った顔をしながらも、了承してくれた。
こうして、新たな世界で、新たな人生が始まったのだった。
「というわけ」
いろんな意味で、すごい話だった。
「竹端先生とは、卒業したあとも連絡取ってたな」
そこまで、信頼関係厚いんだな。
「もし、俺が死んでなかったら、たぶん今でも、取り合ったりしたんだろうな。そんで、お前の話を聞かされて、実際に会ってたかもしれねぇ」
たしかにあり得そうだ。
「……そしたら、お前を絶対ェ死なせなかった。お前は死んでいいやつじゃねぇよ」
竹端先生の今の心情を思えば、心が痛くなる。先生だけじゃない。大畠くんや菊谷さん、美術部の皆は、私が死んで、どのような心境になっているだろう。死んでおいてそんなことを思うのは、図々しいか。
でも、私は死んだ。生まれ変わった。あり得そうなことも、絶対にあり得ないのだ。
「私も、心苦しく思います。でも、私は死にました。それで、この世界に転生した。この事実は、変わりません」
厳しいけれど、これが現実。
「ですから、私はもう、二度と死にません! 永遠に生き抜いて、悔いのないように生きてみせます」
ドンと、胸を張って言った。
「そんじゃあ、俺がランちゃんを守るよ。たとえ、誰に狙われようとも、絶対に守りぬく」
「俺も、ランちゃんの、永久のナイトだかんな!」
マムくんとラブラくんが言った。
「だから、もう何も怖がる必要はないですよ。プリンセス・ランカさま。安心して」
心がキュンとときめいた。プリンセス〜。
「虎隆さんも、俺らやみんながついてるので、大丈夫ですよ」
「そうっすよ!」
虎隆さんは、温かに笑った。
「ありがとな、マム、ラブラ」
緑の竹林の隙間からは、キラキラ瞬く綺麗な星がちらついていた。
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