Rich variety
ヒューマンの住む大国、ヒューマン大国のゴミとして、国の外に捨てられたヒューマンをはじめとする、いくつもの種族が集まり、形成された組織、ダストホーク。その総大将である、
ダストホークの幹部たちが集まって、話し合いをする、幹部会は、毎回虎隆さんの豪邸で行われるという。
そこはいつか見た、時代劇にあった光景にやや似ている。目の前には、虎隆さんとケンジャさん。横には、五つの部隊の隊長さんと副隊長さんが勢揃い。しかし、……特にかしこまった感じではないというか、ビシッとしている者もいれば、してない者もいる。第一、虎隆さん自体が、ぐでーっと横たわって、目を半分閉じていた。今、ふわあっとあくびをした。どごぞの大仏を思い出す。
私は少々、呆れてしまった。
「あの人、なんて格好してんのよ。あの人がみんなを呼んだのでしょう?」
肩にのるモモちゃんが呟く。奇遇だね、モモちゃん。私も同じことを思っていた。
「あのまま、闇にでも引きずりこまれて、死ねばいいのに」
「「「それは言い過ぎじゃない?」」」
私だけでなく、マムくんとクレームくんも同時に言った。これぞ異口同音。
「虎隆さんはいつもあんな感じだよ。硬い雰囲気は好きじゃねぇ、って」
「でも、あれはやりすぎじゃ?」
すると虎隆さんは、口をへの字に歪ませた。
「あ゛? んだよ、おめーら、さっきから。俺のこと好き勝手言いやがって。この姿勢もまあまあ楽じゃねんだよ」
じゃあ、やめればいいのに!
「……イチバンのトップが、ああいう気さくな感じだと、こちらも変に気を使う必要もないし、いいんじゃない」
「まあ、その考えもあるか」
「いや、虎隆さんがどんな姿勢しても、こちらの姿勢は変わんねぇでしょ」
「それは確かにな」
他の隊長さんか……水隊の二人以外に会うのは、今回が初めてだ。
「そろそろ、いいかー」
「ウッス、ボース!」
今、声をあげたのは、女の子だった。濃い赤髪の、ポニーテールの、褐色肌。見るからにワイルドで、強そうだ。
「よし、じゃー、本題にはいろう」
その寝転んだ姿勢は変わらないみたいだ。
「昨日の夜に、闇エルフに会った」
「闇エルフ?」
私を襲ったやつだ。
「んーと、全身がグレーで目が赤くて、完全に闇って感じのエルフ。ランが昨日、そいつに襲われた」
「え?」
「そうなの?」
「ラン!」
マムくん、クレームくん、モモちゃんには、そのことは話していない。
「俺がすぐに片付けたから、平気だったよ」
それ故に、たったちょっとのアクシデントくらいだったし、話して変に心配される必要もないと思った。
「でも、なんか妙なやつだった。後にでっかいモンでも起こるかもしれねぇ」
私もそんな気がする。野放しにはできない事案だ。
「あぁ、それ、俺らも見たぜ」
そう言ったのは、淡い緑髪の、クールな男の子。
「カクタス、それ、本当か?」
「はい。ちょうど、三日前の夕べに見かけて、少し戦いもしました」
クールな彼のすぐ隣にいる、明るい黄緑の髪の男の子は真面目な感じだ。
「んで?」
「ですが、すぐに逃げられました」
「何だ、ただの腰抜けかよ。大したことないヤツなのな」
「いや、そういうのじゃねぇ」
「ビビって逃げたってわけではない感じでした。だから後に何かしら、仕掛けてくるとは、予感しています」
「……そうか。昨日、俺が見たのも夜だったな」
夜に活動してるのか。闇エルフだからかな。
「そのエルフたちは、間違いなく闇属性でしょうね」
モモちゃんが言った。
「やっぱそうなんだ」
「ええ。闇っていうだけあって、暗闇の中の方がその魔法の力はうんと上がるし、エルフ自体のステータスも大きくあがるの」
「じゃあ、夜闇の中の闇エルフは、とっても強いってこと?」
「うん、昼の時よりはずっとね。だから、より力が発揮できる夜に、動くことが多いの」
「それなら、夜に警戒していればいいってこと?」
「まあ、そうなるけど……」
簡単な話ではないな。いつの夜なのか、どの時間に来るのかもわからない。
「では拙者共が、夜間の見張りを厳重に行いましょう」
青みがかった灰色の、鋭い目つきのイケメンが申し上げた。
「ヌクレオ、いいのか?」
「はい」
「よし、任せた。じゃー、もし何か見つけたら、大声で知らせてくれ」
「はっ」
「おーぅし! とりま、これでいこう」
「虎隆、これでもういい?」
「ああ」
「これで、幹部会は終わりだよ。皆、解散〜」
え、もう終わったの? 怒涛の勢いで過ぎていったけど。
「今回も早く終わっちゃったな」
「いつも大体、こんな感じだよ」
この幹部会、ゆるゆるすぎでは?
「あと、あのイケメン、すごい自信満々だった」
なんの迷いもなく「はい」って。
「あぁ、ヌクさんは超有能で、虎隆さんからの信頼も超厚いと思うよ」
「顔もハンサムで、行動力も、自信も半端ねぇ。あの有能な鷹様は、恐ろしい」
なるほどな。
「……あれが、有能ってやつか!」
あのイケメンみたいなやつがか。私の体内で、熱き炎がメラメラと燃えたぎるのを感じた。今まで覚えたことのない、べつの感情の炎を。
私だって、やれるんだ。
「ランちゃん?」
「あれ? ラン?」
「……あ!」
すっと立ち上がった。
「ランちゃん、どっかいくの?」
「幹部会は終わったから、修行の続きを」
そう言って、小走りで座敷から去っていった。
「ちょっとまって」
「モモもついてく〜」
肩にモモちゃんがのるも、さほど気にならなかった。眼中にあるのは、ヌクレオさんとかいった、あのイケメンみたいな、有能な私になってやるだけ。
「待ってって、ランちゃん」
マムくんが、腕を掴んだ。メラメラの炎が、私を苛立たせる。しかし、ここで怒るのは優美なプリンセスではないと、呼吸を整え、辛くも冷静さを取り戻す。
彼の顔を見た。私とは正反対に、ただっぴろい海のような、大らかな表情をしていた。
「まあ、ちょっと、落ち着きな」
声も、全くの無風で、少しの波も立っていない。
「ジェラシーに燃えて奮闘するのもいいけど、その前に一風呂浴びてきたら? お嬢さん、ここに来てから一度もお風呂入ってないでしょ」
は! そういえば、確かにそうだ。お風呂なんて、この世界に来てから、一度も使って。
「町には、お代不要の風呂屋があるからさ。溜まった疲れを癒してきな」
「お風呂屋!? そんなのあるんだ」
「虎隆さんのこだわりが詰まった、安らぎの場さ」
そっか、虎隆さんは日本人だった。
「うん、いく!」
「じゃあさっそく、行こうぜ」
『火於駒湯屋』と書かれた暖簾が下げられた、いかにも昭和の銭湯って感じである。
「ひおく? これなんて読むの?」
「
ほおくって、ホーク(鷹)ってことか。当て字すごっ。
暖簾を潜ると、懐かしさを感じる、昭和レトロな雰囲気だ。実際にこういう銭湯に足を運んだことは一度もないが、不思議と「懐かしい」と感じてしまう。前々世くらいの私は、もしかしたら銭湯通の人だったのかもしれない。
「そういえば、モモちゃんも入るの?」
「うん、入るよ」
「てか、入れるの?」
動物が湯船に浸かるって、オッケーなのかな。
「人の姿であれば、入れるよ。モモちゃんだって、ビーストヒューマンになれるでしょ?」
「うん、なれるよ」
と言うと、うさぎのモモちゃんは、なんとも可愛らしい、幼い女の子に変身した。身長は、100センチ程度と低く、髪は穏やかなキャラメル色のツインテールだ。肌は私と同じような、ベージュカラー。
「おお! 可愛い」
「へへんだ。じゃあ、いこー、お風呂」
「うん、行こう行こう!」
マムくん、クレームくんと別れ、モモちゃんと二人で、いよいよお風呂へ。
カポーン。まさか、ヨーロッパな世界だと思っていたこの世界で、日本のレトロな銭湯の湯船に浸かれるなんて、思いもしなかった。まったく、人生というのは、本当に先がみえない。
「よぉ、さっきの女の子ちゃん」
「どうもです」
幹部会で見た、女子組二人。赤髪の褐色の子と、もう一人、青みがかったライトグレーの、ややボーイッシュな真面目そうな子。目は、鋭い感じだが、穏やかな雰囲気につつまれている。
二人は、私とモモちゃんの両隣に腰を下ろした。モモちゃんは、なぜか異様に怖がって、私のひざの上に座った。
「どうしたの? モモちゃん」
尋ねても、震えてばかりで返事が来ない。
「あー、えっと、私は、
二人に自分の名を言った。
「アタイは、イナ。ダストホークの
「わたくしは、チドです。風隊の副隊長を任されていて、鷹のビーストヒューマンです」
二人とも、ビーストヒューマンなんだな。ライオンと鷹……
「ああ! モモちゃん!」
思わず叫んでしまった。だからこんなにも怯えているのか。
「そんなに叫んだら、隣に聞こえんぜ?」
「大丈夫ですよ。取って食べたりはしませんから」
文字通りの取って食べるか。
「絶対ですよ?」
「はい!」
「おうおう!」
気のいい人たちみたいだ。まあ、とりあえずはよかった。チドさんはともかく、イナさんは荒々しいし、ちょいと危なっかしそう。
「そういや、ランちゃんさ、さっきは何をそんなに焦ってたんだ?」
「あー、それは、その……。私、有能になりたいんです」
「有能?」
「はい」
「なんだそれ」
「え、ええと」
予想外の問いが飛んできた。有能とは何? それはあの、
「ほら、積極的に動けて、自信があって、幹部会のあのイケメンな人みたいな、皆に尊敬される人だよ」
思い返してみると、あの時覚えたメラメラが、再び燃焼してくる。
『ヌクさんは超有能』『あの有能な鷹様は、恐ろしい』
グッと唇を噛む。
「ヌクレオ様ですか」
「……はい」
「わたくしも、あの方を尊敬しています。本当に凄いです。ヌクレオ様は」
「……」
「わたくしだって、ヌクレオ様のように、テキパキと判断を下して、行動を取れるような、立派な者になりたいです。ですが、生憎、わたくしは、鷹のくせして鈍感で、失敗ばかりして、ヌクレオ様の足を引っ張ることもしばしば。全く思うようには行きません」
そうなんだ。チドさんも、ヌクレオさんのことを尊敬して、羨んでいる。
「そんな私に、ヌクレオ様は ——『チドには、失敗しようが、また立ち上がろうとする、強い心を持っている。それは、拙者にはない。チドだけに持つ強みだ』—— と仰ってくださいました。ですから、ランさんにも、ヌクレオ様にはない、ランさんだけが持つ強みもあると思います」
ヌクレオさんにはない、私だけの強み……か。それは一体、何があるのだろうか。
「つーかさ、ヌクレオって、失敗したことあんの?」
「あー、わたくしは見たことないです]
は?
「あと、さっきの言葉の続き —— 『拙者には、失敗した経験は、まだ持ち得てござらぬからな』と、カッコ良いです……」
はあ!?
「それ、ただ有能さのアピールをしてるだけじゃない!!」
もー、憎たらしい!! あのイケメン、絶対に許さない!!
「わぁ、ランのジェラシーが、また派手に燃えてる」
「これも、彼女の魅力の一つかもしれないね」
「まー、ランちゃん、風呂ん中でせかせかすんなよなー」
イナさんが、私に大胆にくっついてきた。彼女の巨大な胸の中に、顔を沈められる。彼女の力は強力で、抗うこともできなかった。
「ヒヒン、とくと見やがれ! アタイの乳のでっかさを!」
「んん!」
彼女はすぐに手を離して、立ち上がった。そして、堂々と仁王立ちで、どっしり構えた。
「ヒューマンの女の特徴つったら、乳っしょ。アタイの乳のデカさは、並じゃねぇぜ!」
わぁ、野生的な考えだ。
「……ボスにも、見せてーけどよ、『それは気安く、人に見せるモンじゃねぇ』って、拒んでくんだ」
虎隆さん、男前だー! 私の彼への好感度が数段アップした。
「で、チドのは、ずいぶん小さいよな」
チドさんの体型は、かなりスマートな感じである。しかし、いくらなんでも、人の体型のことをはっきり口にするのは、いかがなものか。私のイナさんへの好感度は、少しダウンした。
「あまり大きくすると、飛ぶときに邪魔になると思って」
まあ、確かにそれは一理あるな。大きな胸は、見栄えのボリュームは増すが、実用的ではない。一方、スリムな胸は、当然ボリュームはないが、楽である。そのどちらを取るかだな。
ちなみに、この世界の魔法の中に、自分の体型なんかを自由に変更できるものがあり、それを使って、生身の自分を自由にカスタマイズすることができる。私は特に興味はないが。
「まあ、チドは鷹だし、よく動くもんな」
そういう他人のことを理解する心はあるんだな。私のイナさんへの好感度が、再びアップしたところで、そろそろ湯船から上がった。
「いったー!」
風呂から出たところで、チドさんが滑って転倒。
「だ、大丈夫?」
「へ、平気です」
「お前は、よく転ぶよな」
彼女もなかなか危なっかしい存在であるようだ。
脱いだ衣服は、レインホークの町の洗濯係に回収されたということだ。代わりに用意された、新しい衣服を
赤い暖簾を潜ると、男子たちはすでに上がって、ゆっくりしていた。
「お、ランちゃん。どう? 一本飲まね?」
マムくんとクレームくんが、牛乳片手に、こちらに手を振った。
「何飲んでるの?」
「フルーツ牛乳」
わあ、懐かしの銭湯名物だ。過去に一度も飲んだことないけど。
「俺もフルーツ牛乳。モモちゃんも一杯飲むか?」
「飲む飲む!」
私は牛乳は大嫌いなため、りんごジュースにした。モモちゃんは、二人と同じくフルーツ牛乳だ。
入浴後の、乾いた喉に流れるは、キンと冷えて、透き通った黄金の、爽やかなりんごの風味。
ぷはー。これは最高だね〜。
「てか、みんないるんだね」
幹部会のメンバーがほとんど勢揃いだ。
「うん、みんな来てた」
「ここは、皆の
「そうだ、せっかくだから、改めて、ダストホークのメンバーをざっと紹介するよ」
まずは、我らのボス! 総大将の
「え、ホント!?」
「ホントさ」
「さすがにそこまで聞こえんのは、よほど騒がしいときぐらいだけどな」
とご本人。それでもすごい。
そんなスーパーパワーを持ちながら、その人柄はまさに男の中の男で、
でも普段は、腕白なガキみたく、好奇心旺盛だったり、だらけたりしてるぜ。
次は、副大将の
その中身は超温厚で、おおらか。いつも虎隆さんのそばにいて、サポート(お世話)係さ。
で、その次が、土隊だな。隊長は、あの緑のツンツンしたやつ、カクタス。土属性。
性格は
土隊の副隊長は、
カクタスさんに忠誠を誓っていて、俺と同い年で、仲いいぜ!
一応、水隊も紹介しておくけど、隊長は俺、マムな。水属性。
レインホークの料理係を担当していて、町のみんなの母的存在。特に、ヒューマン大国から捨てられて来た人たちにとっちゃあ、ムーちんの優しさはめちゃめちゃしみるんだよな。
んで、副隊長のクレーム。水属性。クレも料理係の一員さ。
配膳手伝ってるだけだけどな。
クレは、俺の昔っからの親友で、もはや兄弟みたいなモン。よく俺に甘えてくる。
ムーちんはとことん甘えさせてくれるからな♪
さ、次。火隊だな。隊長は、赤い髪のイナ。火属性。ライオンのビーストヒューマンで、野性的な女の子。
それだけあって、大好物の肉の食いっぷりは見事だぜ。
副隊長は、イナと同じ赤髪のイオ。火属性。こっちもライオンのビーストヒューマンで、イナとは姉弟の関係にある。
イナとは対照的にクールな面持ちだけど、ライオンのワイルドさは、健全さ。
風隊の隊長は、ヌクレオ。青っぽい顔の超絶クールな男な。風属性で、鷹のビーストヒューマン。ダストホークの象徴的な存在。
完璧なまでに美しい顔、体、声もで、いつでも虎隆さんのお役に立っているし、いつどんな場面を切り取ったって、完璧なんだよな。まさに非の打ち所がない。俺だって嫉妬しちまうぜ、あんなの。
で副隊長のチドちゃん。風属性で、鷹のビーストヒューマン。ヌクレオさんとは夫婦の関係にあるんだ。
ヌクレオさんの背中を追っかけていて、見ていて応援したくなる努力家。
あとは、今ここにはいないけど、闇隊。これは、一番最近にできた隊。隊長は、ローカー。闇属性。仮装とかではなく、本当に生身のピエロって感じで、肌も真っ白で、小さくて太い。話し方とかも独特で、正直、怪しい。
でも、虎隆さんからは、面白いって気に入られているぜ。
副隊長は、ジョーピエ。こっちも勿論、闇属性。ローカーとは対照的にノッポで、ピエロよりかはトランプのジョーカーみたいな感じだな。
こいつも、同じく変な話し方で、怪しいけれど、虎隆さんには気に入られてる。
「ざっと、こんな感じかな」
「闇隊は気になるところだけど、なんだかんだみんな、虎隆さんを慕っているんだぜ!」
バラエティーに富んだ、仲間たちの集う、この組織。私からすれば新鮮で、面白そうなところだなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。