第46話 本来の髪色
休日の昼下がり。
少しだけ開けた窓から、花の香りを含んだそよ風が吹き込んでくる。
長袖シャツの袖を半分ほど捲り上げて丁度良い気候。少し冷え込む朝晩に比べ、この時間帯は穏やかな温かさに包まれており快適である。
昼食を済ませ、特に出掛けねばならぬ用件もなく、ソファでまったりと過ごすにはもってこいだ。
同じくソファで俺の隣に腰かけるアヤトは、のんびりと本を読んでいる。
元気な笑顔や食べる姿も可愛いが、こうして大人しく読書する姿も可愛いらしくて、ついちらりちらりと見てしまう。アヤトはどんな姿も可愛くて、魅力的で愛おし過ぎて、まるで天使か妖精か美の精霊か……。
「そういえば、さ」
そんな全身愛らしさの塊アヤトが、不意に思い出したように顔を上げて俺を見た。
「 ルークの本当の髪の色って、どんな色?」
純粋な疑問の色を滲ませて、俺の髪を見るともなしに見つめながら小首を傾げ、そんなふうに尋ねてくる。
俺の髪は、髪染めの魔法薬でいつも地味な色に染めている。そういえば、アヤトには本来の髪色を見せたことがないから、疑問に思ったのかもしれない。
俺の本来の髪色は白金だが、見る人によっては銀や金に見えるようだ。少し珍しい色合いのため、街中を歩くとやや目立つ。元勇者だと勘繰られるのも煩わしくてずっと染めていたのだが。
「……見たいか?」
俺が問うと、
「見たい! ルークの本当の髪の色、知りたい!」
美しいチョコレート色の瞳を輝かせ、やや食い気味に答えられた。
髪色を解除するのは、わりと簡単なことである。少しぐらいならば見せても構わないかもしれない。というか、アヤトにまで本来の髪色を隠す必要はないのだ。
「分かった。ちょっと待ってろ」
俺は洗面所へ行き、髪色を本来の色に戻す魔法を施行して、アヤトの元へと戻った。
……のだが。
「ふぁぁぁ……」
アヤトの様子がおかしい。
俺の姿を、目と口をポカンと開けて驚いたように見上げる。それからおぼつか無く口を閉じると、紅潮した頬のまま「かっこいい」と呟いた。
「ルーク、すごく、格好いいね」
もう一度、アヤトは俺を見つめてはっきりとそう言った。少し照れたような、だけどとても嬉しげな笑顔を向けてくる。
「…………あ、ありがとう」
『格好いい』
アヤトからそんな言葉をもらえるなんて。
今までは、目立つことのデメリットにばかり意識が向いていたのだが、実はこの髪色は、とても幸運な色なのではないだろうか? それとも単純に、本来の髪色の方が自分には似合っているということなのか?
……ああ。アヤトがキラキラとした愛らしい瞳で俺を見ている。
こんなことならば、もっと早くに元の髪色に戻せばよかった。同じ髪色を持つ田舎の父に、急に感謝したい気分になってくる。
しばらくは、この髪色のままで過ごしてみようか。
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