第42話 繋がっている

 ルークはベッドサイドの引き出しの中から、丸みを帯びた小さな瓶を取り出した。

「あ。それ、ハンドクリーム……?」

 先日、俺がプレゼントしたハンドクリームの瓶だ。

 するとルークは、俺に優しい眼差しを向けて頷くと、瓶の蓋を開け、人差し指と中指で、乳白色の中身をとろりと掬い取った。

「これはローションとしても使えるんだ」

 ローション? 

 ローションって、エッチの時に使うぬるぬるのやつ?

 ルークはローションを纏わせた指で、俺のそこにぬるりと触れた。

「んっ」

 ローションは、ほんのりとした温かみがありぬるぬるしている。ローションを纏わせた指でゆっくりと撫でられると、すごく気持ちがいいことが分かった。

 俺が戸惑いながらもそこを撫でられて感じ入っていると、ルークが身をかがめてきて、舌を絡めるキスをしてくる。優しく甘く、あやすようなキスだ。そうしながら、指先はゆっくりと俺の中に侵入してきて、

「あッ、ぅあッ、んん……っ」

 思わず仰け反ってしまう俺の身体を、キスでやんわりと抑え込みながら、ルークは丁寧に俺の隘路を解してゆく。

 初めのうちは違和感があった。けれど、時間を掛けてゆっくりと慣らされるうちに、じわじわと快感が滲み出てくる。

 ルークは意外と手先が器用だから、もしかしたら凄く上手いのかもしれない。途中からは、俺はたまらない気持ちになって、腰をぴくぴくと揺らしてしまった。

 やがて指を引き抜かれたので、俺はほっとして息を吐いた。

「アヤト、少し力を抜いていて」

 ルークが囁くような声を掛けてくれる。少し休憩を挟むのかもしれない。

 俺は目を閉じてわずかに力を抜き、内側に残る疼きに吐息を震わせた。

「アヤト」

 突然、ルークの大きな両手が、立てていた俺の両膝を掴んで、ぐい、と押した。

 必然的に、俺は赤子のように両膝を大きく開かされ、会陰の奥をルークの眼前に晒すこととなった。

 え? と思って、目を白黒させる俺の視界に入ったのは、ルークの完勃ちした立派なそれだった。それは俺のひくひくする後ろ穴にあてがわれている。

 え。無理。

 俺は瞬時に悟って怖気付いた。だって、そんなでっかいものが俺のおしりに入るはずがないのだ。

 だけど、

「はうぅ…………ッ」

 容赦なく入り込んでくる熱量に息が詰まった。

 狭まりを拡げながら、ルークの熱が身体の内部に圧し入ってくる。

 痛みと苦しさで、本能的に身体が逃れようとして、両手がシーツの上で藻掻いた。

「ぅあッ、ゃあぁ……ッ」

 悲鳴を上げそうになる口は、だけどすぐに深い口づけで塞がれた。両手首は大きな両手に捉えられ、シーツに押し付けるようにして固定される。

 全身に圧し掛かってくる重みが苦しい。キスをされながら、相手の荒々しい呼吸が伝わる。強引に侵入してくる肉欲は、熱くて硬くて大きすぎる。

「……っ、く、るし、ぃ……」

 俺は必死に息をしながら訴えた。

 本来は受け入れるべきではない場所に受け入れているのだ。こんなの無理に決まっている。こんなに辛いだなんて聞いてなかった。 

「あと、少し、……だけ……」

 ルークも何かに耐えるように苦し気で、喘ぐような呼吸をしている。そうして、挿入したものを少し引き抜くと、再びぐっと、さらに奥へと押し込んできた。

「んあぁ……ッ」

 俺はたまらず身を反らせ、ビクビクと腰を跳ねさせた。

 痛い。熱い。苦しい。

 と同時に、腰の奥底に、蕩けるような重い快楽が侵襲してきた。

「ぅあぁぁ……」

 気持ちがいい。苦しくて辛いのに、すごく気持ちがいい。

「入った……」

 言葉をなくしてはぁはぁと息をする俺に、少し上体を起こしたルークが、荒々しい呼吸のまま熱の籠った真剣な表情で囁く。

 俺は思わず自分の下腹部へと目をやった。

 ルークの一部が俺の中に入り込んでいるのが、朧気に分かった。

 ……俺たちは繋がっている。

 己の身体の内側に、相手の身体の存在を感じる。ドクンドクンと脈打っている。

「動かす、よ」

 苦し気に掠れた声がする。

 男らしいルークの眼差しが、切なげな色を帯びて俺を見つめる。

 ……うごかす……、これを?

「やっ、だめぇ……っ」

 思わず必死に首を振った。そんなことをしたら、気持ちいいのと苦しいのがもっとひどくなってしまう。

 だけどルークは、俺の胸元に口づけながら、ゆっくりとした律動で、熱に浮かされたように身体を動かし始めた。


 喘ぐような呻くような、ルークの息遣いが聞こえる。

 ルークの身体の動きに合わせて、俺の身体も否応なしに揺すり上げられる。

 濡れた卑猥な音がする。気持ちがいい。変になりそう。

 繰り返し、繰り返し、ゆっくりとした動きだけれど、苦しいほどに、狂暴な快楽の波を送り込まれる。濡れた卑猥な音は、俺とルークの結合部分から聞こえてくる。

「……アヤト、アヤト……」

 怖いくらいに真剣な翡翠の瞳は、そうするあいだも時折喰い入るように俺を捉える。ルークの肌はひどく熱く汗ばんでいて、たまに汗が滴り落ちてくる。

 うわ言のように名を呼ばれても、俺はとても返事を返す余裕はなくて、動きに耐えるので精いっぱいだ。たまにキスをされるのも苦しい。

 なのに、初めはゆっくりだったリズムが、だんだん強く速くなって、

「んッ、あんッ、ぁんッ、ッ」

 俺はルークの手に掴まり、必死に呼吸をして耐えた。苦しくて身体が悲鳴を上げる。と同時に、それをしのぐ恐ろしいくらいの快楽がある。 

 互いの接合をより強めようとでもいうかのように、俺の身体に己の形を覚え込ませようとでもいうかのように、ルークの律動が熱を帯びて激しさを増す。

 アヤト、アヤト……。

 繰り返し、繰り返し、まるで何かに突き動かされるよう。

 苦しさに藻掻いても、身を捩って喘いでも、とても逃れることはできなくて。

 俺はルークの身体に必死になってしがみつき、離れないように爪を立てた。

 ああ。

 セックスって、こんなに凄い行為だったのか。

 果ての見えない熱情がある。

 惹き合う身体が苦しいほどだ。同じ律動で揺れながら、お互いの高揚が上り詰め白熱の中に混じり合ってゆくのを感じる。

 

 もう、何も考えられない。




 


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