第41話 違うやり方

 今夜も俺は、ルークの手で全身を慈しむように撫でられ擦られ最終的には擦りつけ合いとなり、気持ちよく果ててベッドに沈んだ。

 ルークが濡れタオルで俺の身体を丁寧に拭き清めてくれる。なんだか申し訳ないと思うけれど、ルークとの抜き合いのあとは、俺はいつもぐったり疲れてしまって動けなくなる。

 ぼんやりと薄目を開けて半裸のルークを見ていると、引き締まった男らしい肉体はどの角度から見てもかっこいい。優しいし、男前だし、勇者だし、その上家事もできるのだから、実は超ハイスペックなのだ。

 それに対して俺はというと、薄っぺらい貧相な身体だし、平凡地味で魔力も少ない。こんな俺が相手で、ルークは本当に満足なのか? という、根本的な疑問が脳裏を過りそうになる。世の中には、綺麗な女の子や若くて魅力的な美少年とかいくらでもいるのに。

 ……へっくしょんっ! あ、やべ。鼻水出ちゃった。

「アヤト、寒いのか?」

 心配したルークが鼻水を拭うための薄紙を俺に手渡してくれ、身体に毛布を掛けてくれる。そして艶めく瞳で俺の顔色を観察するかのように見る。

「あ、ありがと」

 俺はちょっとだけ恥ずかしくなりながら鼻水を拭き、そのまま目元まで毛布に隠れた。

 はっきりいって、俺は性的魅力に欠けていると思う。でっかいくしゃみはするし、ごはんを食べこぼしたりするし、げっぷもするし、髪はだいたい寝癖がついてる。

 なのにルークは毎晩のように俺の身体を撫でたり舐めたりして興奮している。若干不思議ではある。


 洗面所で手を洗って戻って来たルークが、再びベッドの俺の隣に潜り込んでくる。

「……アヤト」

 俺の身体を両腕で抱え込むようにして横になると、すんすんと髪や首筋の匂いを嗅いだ。

 大きな手のひらが、俺の背中や腰のあたりを揉むようにして撫でさすり、さらには頬や耳たぶに口づけを落としてくるから、俺はちょっと笑ってしまった。

 くすぐったいってば。

 肩を竦めながらのん気にクスクス笑っていた俺だけど、太もものあたりに微かに硬いモノが当たるのを感じて、笑いは少々引っ込んだ。

 ……ルーク、勃ってる。 

 お互いに先ほど抜いたばかりだというのに。

 ……物足りないのだろうか。

 もしかして、立派な大人の男であるルークにとっては、あの程度の抜き合いでは全然満足できないのだとか……?

 少しだけ顔を上げてルークを見ると、気怠げに眇められた翡翠の瞳と視線が合った。

 その瞳があまりにも艶やかで美しかったから、俺はどぎまぎして視線を逸らした。


 触れたり舐めたり擦り合う、以上のことを、ルークは決して無理強いしてこない。

 たぶん、俺がいろいろと不慣れだから、遠慮をしてくれているのか。それとも、俺を相手にはこれ以上のことをする気がないのか、どちらかだと思っていたけど。

 本当はしたいのだろうか?

 しかし、これ以上のコトといったら、どうやるんだ? 俺たちは男同士だぞ? 

 お尻を使うっていう朧気な知識はあるけれど、具体的にどうやるのかは分からない。

 それに、今日はもう眠くて身体がくたくたで、これ以上の行為には参戦できそうにない。

「……俺、寝るね」

 遠慮がちに俺が言うと、

「ん。おやすみ」

 ルークは優しげな表情のまま、触れるだけのキスを俺の唇に柔らかく落とした。

 自制の効く大人の男だ。勃っていたってやっぱり勇者だ。

 

 

 基本的に、俺はモテない人間である。

 だけどどうしたわけか、最近はちょくちょく人から物をもらう。

 小さな甘いお菓子とか、花を一輪とか、野菜を少しとか。と言っても、くれるのは一部の気の良い神官達や、よく行く文房具屋のおばちゃんだとか、花屋の親父とかだけど。

 だけどその日はちょっと違った。

 仕事帰りに街を歩いていたら、若い女の子が駆け寄ってきて、リボンのついた小さな包みを手渡して来た。

「これ、どうぞ! お仕事頑張ってくださいね!」

 元気のいい可愛い笑顔だ。それに優しい言葉まで添えられている。

 若い女の子からプレゼントをもらう日がくるなんて。そんなこと想像もしたことのなかった俺は、すごく驚いて、それからとても嬉しくなった。


 というわけで、もらったお菓子は夕方に仕事から帰って来たルークと一緒に食べることにした。ルークがもらって来るお菓子も、いつも一緒にいただいているからだ。

 俺が女の子からお菓子をもらったことを興奮気味に話すのを、ルークは笑いながら聞いてくれる。

 頻繁にプレゼントをもらってくるルークに比べたら、しごくささやかなものだけど、プレゼントをもらうって、なんだか存在を応援されているみたいですごく嬉しい。

 そういえば、前の世界にいた時にも、こんなふうにお菓子をもらったことがあった気がする。近所に住む幼馴染からの義理チョコだったり、お母さんからの手作りクッキーだったり……。

 俺はプレゼントのクッキーを、ほんの少しの感傷とともにありがたく味わっていたのだけれど。

 ふと見ると、ルークは笑っていなかった。少し考え込むようにして、俺のことをじっと見ている。

「……ルーク?」

 心配になって声を掛けると、ルークはすぐに我に返って「なんでもないよ」と誤魔化した。そうして呟くようにして、「アヤトは純粋なヘテロだったな」と言う。

 ヘテ……?

 それってなんだろう? と思って聞き返したのだけど、やっぱりルークは「なんでもないよ」と言って、曖昧な笑顔で誤魔化したのだった。



 夜にはいつものように擦り合いをする。

 いっぱいキスをして、下半身だけ裸になって、お互いのモノを擦り付け合うようにして性感を高め合う。最初の頃は気恥ずかしさや戸惑いが大きかったけれど、最近は気持ち良さに負けて頻繁にしている。

 その夜は、俺がルークの膝の上に乗り、対面座位のような感じで抜き合いをしていたのだけれど、

「アヤト」

 快楽が高まってきたところで、不意にルークに両肩を掴まれ動きを止められた。

「……アヤト、今日はもう少し、違うやり方をしてみないか」

 少し躊躇いがちに、囁くような声音でそう提案をされた。

 俺は息を乱し頬を紅潮させたままルークを見上げた。

 違うやり方?

 ルークは思いのほか真剣な、どこか緊張気味な表情で俺を見ていた。

「そう」

「……いいけど」

 寝る前の行為はいつもルーク主導でやっている。ルークが違うやり方を推すというなら、べつに断る理由は特にない。

 だけど違うやり方って、どういうやり方? 

 ルークは俺の身体を抱き抱えるようにして、優しくシーツに横たえさせた。

 そうして妙に思いつめたような眼差しで、

「身体を繋げさせてほしい」

 と言った。

 ……身体を、繋げる? ……それって……。

 戸惑って、即答できないままでいると、俺の胸元にルークがそっと指先を伸ばす。

 形の良いルークの指は、俺の夜着の前ボタンを、一つずつ丁寧に外し始めた。俺の身体から、ゆっくりと夜着を脱がしてゆく。

「……身体を繋げれば、互いの魔力値をより高い状態で維持できる。体調も崩しにくくなるはずだ。それに、今まで以上に魔力の絆が強まって、他者からの介入を受けにくくなる。……決して悪いようにはしない。おそらくもっと気持ちが良くなる」

 露わになった俺の頼りない胸元に、溜息交じりの甘い口づけを這わせながら、ルークが説明をしてくれる。

「ん……っ」

 ぞくぞくとした甘い感覚に襲われて、俺も少し溜め息を吐いた。

 気持ちがいい。

 ルークに口づけられていると、俺のつまらない薄い胸が、まるでエッチな場所であるかのように思えてくる。豆粒のような乳首が、卑猥な果実のように思えてくるのだ。

 唇や舌で俺の胸を弄びながら、ルークは指先でそっと俺の臀部の狭間に触れた。

 ここを使うんだよ。

 囁かれ、その場所を撫でられて、俺はピクンと背をしならせた。

 ルークはいつも、俺の全身を所かまわず舐めてくる。その場所も、行為の際にはよく舐められる場所だったから抵抗はなかった。

 ……もっと、気持ちが良く、なる……?

 今までだって十分過ぎるほど気持ちがいいのに、これ以上って、いったいどんな風だろう……。

 未知の期待に、俺は思わずごくりと唾を飲んだ。

 そういえば、ソコの穴は慣れればすごく良いものだって、何かの本で読んだことがあった気がする。

 ルークがそんなにも勧めるのなら、ちょっとぐらいだったら、試してみてもいいかもしれない。

「……うん。いいよ」

 俺が小さく承諾すると、ルークの翡翠の瞳の奥底に、美しく強い煌めきが灯った。



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