第7話 小林茜 1

 他に何もいらない……ただ、無事に生まれてきてくれるだけでいいの……お願い……


 映像はそんな聴きなれた母の声によるセリフから始まった。


 そんな母の願いが通じて、私が助産師さんに取り上げられて、産声をあげるシーンに変わる。


 おぎゃあ……おぎゃあ……おぎゃあ……


 「お母さん!頑張りましたね!元気な女の子です!」


 助産師さんは、私をきれいに拭いてから、母の胸元まで連れて行ってくれる。


 私は、母の腕に抱かれる。


 「無事に産まれてきてくれて、本当にありがとう!」


 母は、涙を流しながら優しく抱きしめて、私が産まれてきたことを喜んでくれる。


 「やっぱり、誰が自分の母親かわかるんですね。私に抱かれている時は、不安からか泣き続けていたのに」


 助産師さんのいう通り、母の腕に抱かれた私は、安心したように眠りについていた。


 この時、なんとなく暖かい何かに包み込まれるような感じがして安心したことを朧げに覚えている。何でだろう?


 場面は変わり、私を抱っこした母を中心に、父、今は亡くなってしまった祖父母が集まって写真を撮る。


 「お父さん。照れないでもっと近寄ってください。顔が半分見切れてますよ」とカメラマンを務める看護婦さんから注意される父。


 父は後頭部を左手でかきながら


 「いや、初めての子ですから…どんなふうに接したら良いかわからなくて……もしも怪我をさせてしまったらと思うと……」


 父らしいとほっこりしてしまう。


ーーそういえば、大きくなるまではドキドキしながら抱っこしてたって話してくれたことがあったわね。「1日育児を任されたときは心臓が止まるかと思った」って言ってたっけ


 その時の父の様子を思い浮かべると「ふふふ^ ^」と笑ってしまう。


 「もう!早く寄ったよね!」と母に腕を掴まれて強引に引っ張られる。


 「ちょ!」とベッドの枕に向かって倒れる。


 結局、父は母の背中に隠れてしまい、写真に写ることはなかった。


ーーふふふ^_^……本当に2人の子供に生まれて良かったと感じるわね


 それから、私が初めて言葉を発したのが「じじ!」でママやパパと呼ばせたかった2人は泣くほど落ち込んでいる場面や、私が初めてハイハイした時や、歩き出した時の父の心配そうな表情を写した場面なんかもあった。


 父は心配そうにわたしの後ろをついて回るもんだから、母から「邪魔になってるからどきなさい!」と叱られる。


 入園式では、誰よりも大きな声で泣いて、主役の私たちよりも目立っていたと母から聞いたことがあった。


 その様子は私の結婚式の時と同じリアクションで、結婚式の時に流れたビデオカメラの映像はとても恥ずかしかった。


 運動会、参観日、卒園式、小中高の入学式と卒業式もそれは、誰よりも大きな声で泣いて、主役の私たちよりも目立っていた。


 「さすがに恥ずかしすぎるわね……」


 と、誰も見ていないとはいえ、当時を思い出して顔を赤くしてしまう。


 そんな映像は、大学を卒業して、社会人1年目の時に変わる。


 つづく……

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る