第4話 可愛い天の使い

 汽車がライトアップされた建物の前で停車する。それに合わせて、周りの景色も夕暮れ時を思わせる明るさから夜の暗さへと変わった。


 「あの、ライトアップされた建物は映画館ですか?それに、なんで周りが急に暗くなるんですか?」


 どういうことか理解できない私は、佐藤さんに疑問を投げかける。


 「あちらの建物は、私が館長を務めます「人生シアター」と呼ばれる映画館です。それと、周りが暗くなるのは、映画館を強調するための演出だそうです。決して私の趣味ではございませんので、ご承知くださいね!」


 なんだか、最後に強い口調になったけど、聴いちゃまずかったのかしら?


 「おっと!つい、口調が強くなってしまい、申し訳ありませんでした」


 佐藤さんは、口調が強くなってしまったことを謝罪してくれる。


 また、顔に思ってることが出ていたのかしら?


 私に謝罪した佐藤さんは、パチン!と指を鳴らす。


 しばらくすると、私たちのいる客車の扉が開き、入り口に階段が現れる。


 「それでは、ここからは館長として、茜様をご案内させていただきます」


 佐藤さんは、そう言うと、汽車の扉から石畳の地面へと降りて、「こちらです」と、汽車から降りる私の手をもって支えてくれる。


 「ありがとうございます」

 「いえいえ。お礼を述べられるほどのことではありません」


 それから、指をパチンと鳴らす。


 私は、佐藤さんが指を鳴らした後に現れたものに感嘆する。


 「うわぁ!素敵!綺麗!」


 それは、汽車から映画館までの間に赤い絨毯が地面に現れ、その周りを光る何かが飛んでいた。


 私は、その光景を見て、小学生の夏休みに連れて行ってもらって感動した、夜の暗闇に綺麗に輝く、蛍を思い出す。


 私が、心の声を口にすると、佐藤さんはにっこり笑って、「感動してもらえて良かったです」と喜ぶ。


 佐藤さんが喜んだことに呼応するように、光る何かが「良かったねぇ」と声を発する。


 私は、その声に覚えがあった。


 「もしかして、私を汽車まで届けてくれた、「天の使い」さんですか?」

 「そうですよ。彼らが、亡くなられた方達の魂を天国へと導く存在です。童話に出てくる妖精のようでしょう?」

 「なんだか、私は、幼い頃に親に連れて行ってもらって見た、蛍を思い出しました」

 「ふふふ……そうでございますか。茜様は、蛍を思い浮かべましたか!」


 佐藤さんて、気の利く良い人だけど、よくわからないところでテンションが高くなるところがあるわよね……


 「おっと。失礼しました。私、お客様によって毎回思い浮かべるものが違うことが面白くて、つい、興奮してしまい、毎回驚かせてしまうのです。申し訳ありません」


 あっ……また、思ってることが顔に出ていたみたい……


 「早く案内してあげてー」「そうだよー」


 なかなか、映画館へ案内しない佐藤さんを見かねて、天の使いさん達は、佐藤さんを急かす。しかし、姿は、光っていてよくわからないが、声がすごく可愛いな……2歳の子供のような可愛い高音の声。


 「天の使いさん達もすみませんね。では、茜様、こちらへ……」

 「あ、はい……」


 私は、映画館まで続く赤い絨毯の上を、佐藤さんの後について進んでいく。


 天の使いは、「よく頑張ったねー」「ようこそー」「天国へ行くときは私たちが案内するからよろしくねー」など私に声をかけてくれる。


 その可愛くて、のんびりした声を聞いていると、心が何だか、ほっこりした。


 「ありがとう」と私は、天の使いに笑顔で御礼を述べる。


 そんなやりとりをしていたら、あっという間に映画館の前に着いた。


 扉の前に着くと、佐藤さんは恒例の指パッチンをする。


 すると、映画館の扉が開く。


 「さあ!茜様、「人生シアター」へようこそ!」


 つづく……

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