第11話 龍神ヤントス

ヤントスはサンドラーチェの昏睡を哀しんでいたが、母に会う喜びを胸に王宮を目指して飛んでいた。

ガルバトスの東の村人達には、それが金色の丸太が飛んで進んでゆく様に見えた。


メリッサ王妃は王宮の屋上で西の空を眺めて髪を風になびかせていた。

遠くから光るものが近づいて来る。

(何かしら?)

それはどんどんと近づいて来る。

(、竜だわ!、なんて美しいのかしら)

王宮の屋上に母の姿を確認したヤントスは、雷鳴のようなひと吠えを発した。

「ゴォォォーー」

雷鳴は王妃の全身に行き渡り、竜と目が合った。

「ヤントス!」、王妃は叫んだ。

竜は王妃の頭上でいっとき強く羽ばたき、優しい眼差しを向けた後、もと来た西の空へ帰って行った。

王妃の足元には一枚の羽根が落ちていた。

彼女がそれを両手で包み込んで顔に近づけると、それは息子の匂いがした。


母への挨拶を終えたヤントスは再び大河と一つになり、500年間大河に息づく生命と村人達を見守ってゆく決心をするのでした。

ガルバトス河は改名されてヤントス河と呼ばれる様になり、社にもヤントスの社に変更されて村人達に厚く信奉された。

ヤントスは人々の生活が豊かになる様に、ウラハンに多くの技術を人々に教えてくれる様に頼んだので、人々の生活はみるみる豊かになっていった。

豊かになってゆくにつれ、人々の足はヤントスの社から遠のいてゆき、自立していった。

500年と言う歳月は途方なくもあり、また一瞬の様でもあった。

人々の関心が薄れる程にヤントスの意識も薄らいでいって、彼はもはや自分が居るのか居ないのか分からなくなってきていました。

神を離れて自立した人は、自分がどこから来て何処に向かっているのか分からなくなり、各々が対立する様になっていました。

ヤントスは竜の身体が溶けて蒸発して、上昇してゆきました。

暖かく心地よい空間の1点から眩い光と共に声がした。

「よくここまで来た、ヤントス」

ヤントスは自分の名前も忘れかかっていたが、霧の様に薄くなっていた身体を一つ所に集めて竜の姿になって答えた。

「もしやあなたは天界の長ですか?」

「いかにも」

「私は何故ここに?」

「サンドラーチェを覚えているかな?」

「あゝ、私の婚約者の女神ですが、運命が私達を引き裂いてしまったのです。」

「運命と申したか?」

「はい、申しました」

「よかろう、してこれからどうするつもりかね」

「婚約者を昏睡から目覚めさせる方法をあなたに尋ねに来たのでした」

「今でも彼女を助けたいか?」

「もちろん」

「では、こうしなさい」

「どうすれば良いですか?」

「お前は再び人として生まれ、人々に間に生じている敵意を消して来なければならない」

「どうやって?」

「一見対立するかの様に見える片方に、自分の足りない部分があり、それと融合する事が出来る」

「、、、?」

「今一度人生を生きてその理解を得て、サンドラーチェと結婚するのだ。人々がそれを見て彼等も理解する為である」

「一つだけ教えて下さい」

「何だね?」

「私は女神と対立していませんが」

「知っているが人々にとっては対立の構図として理解されるのだ」

「分かりました」

「ではゆくがよい」

ヤントスは意識がなくなり、農家の三男として生まれる事になりました。


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