第10話 ウラハンの知恵

「ウラハンよ、竜された私の夫を助ける手立ては無いものか?」

サンドラーチェは、手出しの出来ないガルバトス河で竜にされたヤントスを助けたい一心でウラハンに相談した。

ウラハンは魔法こそ使えなかったが、類まれなる知恵とあらゆる技術を授けられていたのだ。

彼の足は、その知恵の一部を人間に与えた事による代償として、雷に撃たれたのである。

彼は足を庇いながらサンドラーチェに歩み寄ってこう言った。

「貴女は偉大なる魔女です」

「ガルバトスに私の力の及ばない事は知っておろう」

「王子の身体はガルバトスにものになりましたので、取り返す事は出来ません、ただし、」

「ただし?」

「全く方法が無いわけではありません」

「どうするのだ?」

サンドラーチェは身を乗り出した。

「先ず、あなた様が竜の身体でも空に舞わせる事のできる大きな翼を魔法で創り出します」

「造作もない事」

「そして木霊を使って、ヤントス殿に背中を水面から出すようにと伝え、貴女と私で両親の身体にその翼を縫い付けるのです。さすれば貴女とヤントス殿は自由に会うことが可能となります」

「なるほど良い考えのようね、早速取り掛かりましょう」

「はい」


サンドラーチェは、魔法で見事な翼を創りあげたので、ウラハンと共にガルバトス河に赴いた。

ほとりの大河まで根を張り巡らせた大木の木霊がヤントスに語りかけた。

「ヤントス様」

ヤントスはまどろんでいたが目を覚ました。

「木霊よ、何か用かな?」

「サンドラーチェ様とウラハン様が、貴方に会いに来られています、顔を合わせる事は叶いませんが、背中を水面から出して頂けますか」

「やってみよう」

ヤントスの身体はガルバトスの呪いによって大河に縛られていたが、それでも力を振り絞って背中を水面から少し出すことに成功した。

「今です、サンドラーチェ様!」

サンドラーチェとウラハンは、ヤントスの背中に素早く跳び乗ると魔法の翼を縫い付け始めた。

全て縫い付け終わった時、背中の鱗で足を滑らせたサンドラーチェが河に落ちてしまった。

異変に気付いたヤントスはサンドラーチェを救い上げて空に舞い、ウラハンと共に館まで運んで二人を下ろした。

「ヤントス殿、女神は河に触れた事によって意識を失っています」

「、、、」

「命は保っておりますが、目覚めさせる方法を私は知りません」

「何という事だ!」

「目覚めさせる方法は天界の長に聞く他ありません」

「どうやって天界に行けるのですか?」

「龍神として500年間務めあげたら行けるやもしれませんが保証はありません」

「500年間!」

「そうです」

「仕方ない私は天界の長にまみえる様、功徳を積みます、それまで彼女の看病をお願いします」

「分かりました、私と森の者達が女神をお守りします」

「500年後に再びお会いしましょう」

「ご検討を祈ります」

サンドラーチェの寝顔を見ているうちに、ヤントスは母の事を思い出していた。

彼はさっそうと舞い上がり、王宮の方角に飛び去って行った。



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