第9話 村の儀式

数々の花が咲き始め、今年も龍神様のお祭りがやって来ました。

ただ祭りと言っても、残酷な風習を繰り返すのみでしたが、誰も変だとは考えませんでした。

ヤントスは何をするでも無かったが、河に息づく生命達の営みを見守っていた。

ふと、彼に呼びかける声を微かに感じた。

竜のになったばかりで聞き取りづらさもあったのだ。

「偉大なる河神様、今年も村一番の乙女を捧げに参りました。豊穣と河の安らかなることをお恵み下さい」

仰々しい白装束の数名を先頭にして、うら若い乙女、作物の捧げ物、そして沢山の村人達がぞろぞろと古ガルバトスの社に集まっていた。

ヤントスが竜の姿となって村人達の行動を見ていると、目隠しをされた少女が男に両腕を掴まれて本殿に連れて来られた。

白装束の長らしき女祈祷師が少女に言った。

「セルン、そなたは光栄にも河神への捧げ物として選ばれた、最後の言葉を述べ恭順の証とするが良い」

「はい、わたくしは喜んで河神様に命を捧げます」

沈んだ表情ではあるが、しっかりした口調で少女は言った。

女祈祷師が目配せで合図をすると、大きな剣を持った屈強な男が現われた。

何が行われるかを悟ったヤントスは、力強く叫んだ!

「やめなさい!」

その声は誰も聞こえ無かったが、大きな地響きの様なものがあり、本殿を強く揺らした。

一同は怯んだが、女祈祷師の言葉で気を取り戻した。

「これは河神様が喜んでおられるのじゃ、続けるが良い」

(サンディー、力を貸してくれ!)

ヤントスは、龍になったのですっかり忘れていた婚約者の女神の事を咄嗟に思い出して強く念じた。


サンドラーチェは、行方不明になっていた夫の声にすぐに気付いて水晶を覗いて見た。

彼女は慈悲深い女神であったので、一瞬で事の成り行きを理解した。

ガルバトス河は唯一干渉できなかったので、これまで分からなかったが、ヤントスの呼びかけで繋がる事が出来たのである。

サンドラーチェは森の獣達に命じて儀式を混乱させるようにした。

森中の獣達がガルバトスの社に集い、吠えたり暴れたりしたので、儀式は困難となった。

女祈祷師が叫ぶ。

「これはサンドラーチェ女神様の思し召しに違いない、儀式は延期じゃ、神意を確かめねばならん」

この叫びに呼応した様に獣達は森へ引き返して行った。

可哀想な少女は父母の元へ駆け寄って、いっときの安堵を得た。


「ありがとう、サンディー」

「ええ、竜にされていたなんて、、早く気づいてあげられなくてごめんなさい」

「いいんだ、仲間を助ける為に仕方なくて、僕の方こそ連絡しなくて済まなかったよ」

「王宮の貴方の身体に入っているのはガルバトスね」

「そうなんだ」

「あいつめ、私の力の及ばない事をいい事にこんな残酷な儀式を村人に強いていたとはね」

「全くだよ、今後こんな事は辞めさせたいんだけど、どうしたらいい?」

「それなら心配ないわ、この後祈祷師達が私にお伺いする為の占いをするはずだから、私と一緒に行き貴方から直に生贄の廃止を宣言するといいわ」

「分かった」


村では火が焚かれて、占いが始まっていた。

「森の女主人サンドラーチェ女神よ、此度の現象の意味する事をお示し下さい」

サンドラーチェは、女祈祷師に語りかけた。

「龍神が直接語るであろう」

「ははっ!」

ヤントスが女祈祷師に語りかけた。

「毎年乙女の犠牲を払っていたようだが、これからはその様な事はしなくて良い。犠牲が無くとも豊穣と河の安らかなることを約束しよう。命を大切にして仲良く暮らしなさい」

「ありがとうございます、犠牲は廃止しても貴方様への尊敬は一層強くなりましょう」


女祈祷師が村人達にヤントスの言葉を述べると歓声が上がった。

女神と龍神の協力によって、恐ろしい悪習が廃止された。

ガルバトスの社は綺麗に建て替えられて、女神と龍神の社として村人達の尊敬を集める事になりました。


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