第5話 母メリッサ
「タキルス将軍、見張っていたマンデル宰相に動きがありました。」
ケーン特命使は、落ち着いた様子で将軍に告げた。
「どんな状況か?」
「はい、奴は先程、配下の者を使って5頭の馬を走らせました」
「君の言った通りに成りそうだな、追手を着けたか?」「もちろんです、手紙を回収すればマンデルの悪行が明るみに出るでしょう」
「そうだな。サンドラーチェ女神の所へは、ヤントス王子が行って下さるようだ、夜明け前にマンデルの罪を暴いて投獄するのだ」
「分かりました、将軍」
王妃の間には、王子ヤントスの姿があった。
ヤントスは母メリッサに事の次第を説明し、森へ行くのは自分になるだろう事を告げた。
王妃はサンドラーチェ女神が、慈悲深いどころかとても恐ろしい魔女で、若者を魔力で取り込んで殺してしまうと言う話を信じていたので、心配で息子を止めようとした。
「ヤントスや、森へ行くのは辞めておくれ。私の血を分け、私と同じ瞳を持った息子はお前たった一人しかいないのだよ、お前に何かあったら、私はこの先なんの為に生きるのでしょう?」
「お母様、私は貴女と父上から生まれたこの王国の王子です。何より民が苦しんでいるこの状況を変えるのは私の仕事ですし、私が失敗するなどありえませんよ。きっと無事に帰りますから心配しないで下さい」
「そうかい、決心は硬い様ですね。息子を信じて危険な旅に送り出すのも母の努め、王妃としての努めかもしれません、あなたは私の誇りにして気高き息子、無事を祈ります私の琥珀の瞳の王子」
ヤントスは、メリナス王が惚れ込んで王妃に迎え入れたメリッサと同じ琥珀色の瞳を持っていたので、別名、琥珀の瞳の王子、又は単に琥珀の王子とも呼ばれていた。
見目麗しい事も麗しかったが!何よりその精神的資質に定評高く、皆に愛されていた。
見目悪くずる賢いマンデルは、王子を憎んでいた。
空が白み始めた頃、城内が慌ただしくなった。
マンデルの謀反の証拠が押収され、罪が暴かれたのだ。
マンデル始め、謀反に加担したと思われる者達が次々と投獄された。
タキルス将軍から報告を受けたメリナス王は大変驚いたが、証拠の手紙を目にして納得した。
臆病宰相マンデルの悪運もここに尽きたのであった。
王はマンデルを信頼していました、マンデルは、王と女性達には細心の注意を払って接していたので、善良で信頼の置ける人物だと思われていたのです。
王妃メリッサは、マンデルの疑いが晴れて、予定通り彼が森へ行く事が望みであったので落胆した。
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