第4話 臆病宰相マンデルの奸計

並み居る貴人たちの中から、一人の凛々しい若者が、王の前に歩み出た。

「父上、私に良い考えがあります。」

若者は、メリナス王の一人息子にして唯一の王子ヤントスであった。

「おお、ヤントス、どうしたら良いかね?」

「私にこの国の、誰もが羨む麗しき財宝の幾ばくかをお預け下さい。私はその財宝を生贄の代わりとして民を救って下さる様、慈悲深きサンドラーチェ女神に懇願してまいります」

「なるほど、流石我が息子である、名案だ。しかしヤントスよ、それであればわざわざそなたが行かずとも、そこにおる宰相が出向けば事足りるのではないか? そなたは大切な王国の世継ぎなのだ、もしもの事が有ってはならん。そう思わぬか、宰相よ!」

宰相マンデルはギョッとしたが、周りに悟られぬ様に平静を装った。

「王よ、いかにも名案にございます、私はすぐにでも喜んで出発致しましょう。しかし、その為にはたった一つだけお願いがございます。」

「何なりと申せ!」

「サンドラーチェの森はとても深く、王国内では決して見ることも無いような大きな怪物や、女神が軍隊を持たない事をいい事に、残酷な盗賊共も潜んでいると噂されております。私が宝物を携えて分け入ったら、たちまち奴らの餌食となり、宝物は奪われ、民は救われないでありましょう。私が無事、女神の元へたどり着けるよう、王国の軍隊をお預け下さい。明朝出発致しましょう」

「良かろう、宰相マンデルよ、王国軍を率い、貢物を携えて女神に懇願してくるがよい」

「はっ!」


王メリナスはマンデルの要求を認めたが、王子ヤントスと将軍タキルスは、マンデルから不穏なものを感じ取っていた。

マンデルはとても臆病な男であるが、頭の回転は良かったので運良く宰相にまで取り立てられたのであった。

軍を率いるとは言えど、喜んでお役を引き受けたとは考えられなかった。

自分が一番頭が良く、気配り上手だと思っていて、裏で王や王子に対する汚い悪口を言うような人物だったのだ。

本人さえ気づいていないようだったが、彼の言動は汚物の悪臭のようであった。

立場の弱い者を捕まえては、その人の人格否定をコンコンと自分の気が済むまでするのだ。

一番の人格崩壊者はマンデル自身なのだが。


会議が終わると、薄汚いマンデルの本当の狙いを話し合うために、ヤントスとタキルスは、マンデルに気付かれ無い様に連れ立って出ていった。

「タキルス殿、何か匂わないか?」

「はい王子、あの臆病者のマンデルが、危険な役をすんなり受け入れたのにはきっと裏があります。

私はかねてよりマンデルの悪臭に気付いておりましたので、行政長官にマルクを推薦して、奴の監視をさせておりました。マンデルは臆病者ゆえ、いつ王様に本性がバレて宰相の座を追われるかビクビクしていたそうです。そして己がさんざん王様の悪口を聞かせていたマルクが、その事を王様告げ口するのではないかと恐れ、マルクが王様の悪口を言って玉座に唾を吐いた等と偽り、不敬罪で投獄してしまったのです。裏があるなら、奴はすぐに動くはずです、私の右腕、副将軍のケーンに特命を命じてマンデルを見張らせましょう」

「分かった、よろしく頼んだよ、タキルス将軍」


その後すぐに、王様は急きょ集まってくれた人達への労いとして晩餐を開いたが、明日の用意があると言ってマンデルの姿が無かった。

ヤントス王子とタキルス将軍はいよいよマンデルを疑った。

「王子、先程私は投獄されているマルクの元を訪れました。マンデルは以前から、王様とソリの合わない5人の領主と、極秘に親密なやり取りをしていたそうです。事の経緯をマルクに話した所、彼はこう言いました。

将軍、マンデルは事の経緯に乗じて謀反を起こすに違いありません、奴は自分の立場が保証される為には王になるしかない等と語っていた事があるのです。私の予想では、マンデルはすぐに謀反の協力を得るために、5人の領主に馬を走らせるはずです。手紙を押収すれば、きっと謀反が明らかになるでしょう、と」「そうか、今姿を見せないのはその為か?」

「可能性は高いですな」

「では、引き続きケーンにしっかり見張らせて動きがあったら教えて下さい」

「かしこまりました、王子」





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