第6話 寒冷期の渡河

鳥達の歌声が聞こえ始めた。

ヤントス王子は、この度のマンデル宰相の1件で彼以外の者達が咎を受けない様に進言する手紙を、王に渡してくれる様タキルスに託して出発しました。

マンデルは重刑に処された、彼の家族はこの様な日が来る事を予感していて、悲しみよりも恐怖に打ちひしがれた。


ヤントス王子は従者8名と貢物のみで出立し、国の安全保障の理由から軍隊は連れて往かなかった。

琥珀の瞳に不安の色は見受けられなかった。


星の欠片が落ちてきて以来、凍てつく度合いが厳しさを増していた。

聖河ガルバトスが近付く程に、従者達の不安はつのった。

大河ガルバトスを渡るには通常、船が必要だったが4人の大工に造船の経験は無かった。

意気揚々と進んでゆく琥珀の王子の様子を見ていた従者達は、彼に偉大なる素質を見ていた。

一行は一日中進んで、日が落ち始めた。

「今日はこの辺で休みとしようではないか」

王子がそう言うと、各自役割に応じて準備を始めた。

「皆の者、明日いよいよガルバトスを渡る運びとなるはずだ、心しておく様に」

「ヤントス様、その事ですが?」

従者の頭が気まずそうに発言した。

「ん、どうした?」

「ガルバトス渡河の為には造船しなければなりませんよ」

「なんだその事か、君達は古の伝えを知らないようだな」

「何をです?」

「王国が出来るもっと昔、ガルバトスには水が流れていなかったそうだ」

「今は流れております」

「そこなのだ、その昔世界はずっとずっと寒かったそうだ、最近の様にな」

「はぁ?」

「つまりこうだ、我々がサンドラーチェ女神に懇願しなければならなくなった原因の飢饉は、星の欠片が落ちてきて日の温もりが弱くなり、極度に寒くなったからだ」

「はい」

「そして、これは学者に教えてもらったのだが、寒さが酷くなると河が透き通った石になるそうだ」

「左様ですか」

「うむ、学者が正しければ、我々は透き通った石の上を土の地面と同じ様に歩いて渡る事が出来るのだ」

「それは素晴らしいことです」

「ただし、渡河の前にガルバトスの社ヘ行き、渡らせて頂く報告だけはしなければならん」

「分かりました」


翌日、一行は渡河の前にガルバトスの社ヘ入った。

あまり見事とは言えない古びた神殿であったが、ヤントスを始めとする一行は、うやうやしく渡河の安全を祈願し、貢物の内からいくつかを奉納した。

ガルバトスの社を後にした時、既に暗くなって来た、日の光が弱くなっていたせいで昼が短くなっていたからである。

ガルバトスに到達すると、なるほど河は狹くなって透明の石になっていた。 

ヤントスは焦る事なくこの場所で夜を明かし、翌朝渡河する決定を下した。


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