第8話 課外授業⑤
笑う道化師は、太一に拳をお見舞いする。
その一撃に、太一は激しく混乱した。
それは、この一撃が、絶対に捌ききれないと、太一の脳が判断したからだ。
何故この一撃が、ゆっくりとまで、目で捉えられるまで、ゆっくりに感じるこの一撃が!! 避けられないのだ?
そして遂に、その拳は、太一に当たる。
何故だろうか、笑う道化師のパンチは、とんでもなく弱そうに見えた、例えるなら、赤ちゃんがおふざけで殴るかの様な、そんなか弱いパンチ。
それなのに今の一撃は、まるで隕石が自分にピンポイントでぶち当たったかの様な、そんな想像もつかない、途方もなく威力のあるものだった。
「あれあれぇ〜? こぉ〜んなノロマな攻撃を喰らうなんてぇ〜! もしかして演技ぃ? 同業者の方ぁ? だとしたら演技上手だなぁ〜!」
「……そうだよ、演技だ。まさか、テメェのそんなノロマなパンチで致命打になるなるて、俺の拳をさっきまで散々受けてきたテメェが一番あり得ないって分かってんだろ」
「そぉ〜だよねぇ〜! じゃもぉ〜一発ぅ〜!」
今回のパンチも、ノロマで、威力のなさそうなものだった。
がしかし、太一はそれを避ける事も叶わず、何故か大ダメージを負う。
太一は段々と、何が起こって居るのか掴んできていた。
何故あんなノロマなパンチで避けられないのか、それは、必ず理由がある。
太一はその理由に気がついたのだ。
『思い込み』と言う事に。
例えばだが、気分が良くても、『気分が悪い』とずっと思い続けると、気分が悪くなる事がある。
これは、プラシーボ効果と言う。
笑う道化師の進化系と思われる今の姿には、プラシーボ効果を極端にした、究極の思い込みを起こす能力があるのではないかと、太一は推測する。
ならばと、太一は目を閉じ耳を塞ぎ息を止め、外環との関係を切り、限りなく無に近づく。
すると、先ほどまで絶対に避けれないと思っていたパンチが、なんでこんな弱いパンチをして居るのだろうと言う感想を言う程度の評価になるまで認識が変わった。
そして、試しに受け止めてみるが……まるでなにも感じなかった。
笑う道化師は、激しく困惑し始める。
自信の最終奥義がこんなにも早く破れてしまうなどとは、誰が想像できようか。
最後の意地だと、笑う道化師は、ボス部屋に向かって逃げる様に走りだす。
「まずい?!」
「スピードなら任せて!!」
赤羽は急いでボス部屋まで追う。
しかし、紙一重で、笑う道化師はボス部屋に入ってしまった。
太一と赤羽は、血が滲む程手を握る。
何故か、それは、バグがボス部屋に入ると、ボスとバグが合体して、バグが超強化されてこのボス部屋に居座り続ける事になってしまうからだ。
バグ×ボスなど、対処する事は、容易ではない。
しかし、ここで攻略を止めるわけにはいかないので、太一は一つ確認を取って入る事にした。
「これは警告なんだがな。この先は命を懸ける覚悟以上で行かないと行けない。遺言でも書いた方がいいレベルだ。それでも付いて来てくれるか?」
それに対して、颯太達は、ただ頷き応える。
他に言葉が、見つからなかったから。
太一もそれを分かって居るからこそ、それで十分だと前を向いてドアを強く押す。
「今度こそ……ぶっ殺す!!」
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