第7話 課外学習④

 太一は、受け止めた笑う道化師の一撃を、めいいっぱい弾き返し、吹っ飛ばす。


「怪我はねぇか?」

「今後の攻略に支障が出るような怪我は、一切無いわ」

「そうか、そりゃ良かった。怪我負った状態で攻略なんて……命取りだからな」


 太一は、そう言って微笑み、赤羽も微笑み返す。

 そうして、笑う道化師に段々と近づきながら、太一は集中力を高め、〈一蓮托生〉を発動する。

 太一の纏うオーラは、共鳴の時見せた、白いオーラ。

 先程赤羽の見せた、120%と同じく、限界を超えた状態と言って差し支えないだろう。


「まずは一発」


 太一は、握りしめた拳を、笑う道化師の腹をぶち込む。

 笑う道化師は、それを避ける事も防ぐ事も叶わなかった。

 ただただ、それを食らうことしか出来なかった。


「もう一発」


 笑う道化師は、それも防げない。

 そうして何発も殴られた末、笑う道化師はようやく気づいた。


 太一が信じられない程の怒りを持って戦っている事に。


 何故か? それは、釜谷優樹のことが関わっていた。

 太一は、進路相談の後帰宅し、宮崎先生から聞いた話が気になり、あの時調べていたのだ。

 何が釜谷優樹の命を奪ったのかと。

 バグの出現記録を見れば、すぐに分かった。


 No.7 笑う道化師


 太一はその時、仇だとか、そういう事を思った訳ではないが、どうしても許せなかった。

 迷宮なんて、いつ死ぬかわからない。

 だから、一々人が死んだからってブチ切れるのはおかしな話だ。

 ましてや、同じ中学なだけの他人に。

 だが、10年間も苦しめられた恩師がいるのは事実だ。

 こんな、不気味に笑いを浮かべながら、まるで戦いを、殺しを楽しんでいるやつに、10年間も苦しめられた恩師がいるのは事実だ。

 

「どこまで行っても、結局は綺麗事だ。迷宮の非常識だ。だからこれは、俺の個人的な恨みだ。どうか、ご了承してぶっ殺されてくれ」


 太一は、どこまでも冷たく、凍った、殺意に満ちた目で、笑う道化師を見た。


「……ギギ……ギィィィィィィィィィ!!」

 

 すると笑う道化師は、声を張り上げて、一層不気味な笑顔を見せる。

 太一はそれに腹が立ち、一層速度を上げて笑う道化師を殴る。


 殴って殴って殴って殴って殴って……殴りまくっても、笑う道化師は顔色一つ変えなかった。


 太一は、段々と不安になってきた。

 なんなんだろうか、このなんとも言えない感覚は。

 無理矢理言い表すなら、不気味。

 まるで、何かを待っているかのように。


 そして、それは太一が致命打を与えようと、顔を殴った瞬間、それは起きてしまった。


 笑う道化師の、その顔についた立派な赤鼻が、見惚れてしまう程綺麗に、赤く光る。

 そして気づけばそこには……


「楽しもうねぇ〜! ショーはここからだからねぇ〜!」


 顔はピエロの様に、服は黒いタキシードを着た、底知れない不気味さを感じさせる。

 笑う道化師だった何かが居た。

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