第10話 冒険者育成学校

 小中と毎日聞かされてきた、おなじみのチャイムの音が鳴り、その数秒後に、スライド式のドアを開け、フランクな服装に、白衣を纏った1人の女性が入ってくる。

 長く伸ばされた黒髪に、紫色の目をしていて、かなり高身長だ。

 俺は、この女性に見覚えがあった。

 以前、TVに出演した時に、自らの剣は毒と精神攻撃に精通していると言っているのを聞き、ちょっとした衝撃として頭に残っている。

 確か名前は……鏑木巴かぶらぎともえだ。

   

 彼女は教壇に立つと、手に持ったマイクを手のひらでなぞり、わざとハウリングさせ、自らに注目を集める。


「まず、入学おめでとう。そして、ようこそ地獄へ」


 その刹那、彼女の目は今からここに居る全員を呪い殺すのかと言う程鋭い目つきになる。

 思わず、教室にいた全員が萎縮する、なんと、あの赤羽ですら、だ。


「迷宮がどの位恐ろしい場所か、それは説明しなくても分かるだろう。では、この冒険者育成学校はどの様な場所か、どんな場所だと思う? そこの特待生、答えてみろ」


 俺は一瞬自分に回ってきた事に戸惑うが、直ぐに持ち直し、自らの思うベストアンサーを答える。


「その恐ろしい迷宮に対処できる様に鍛える場所だと思います」


 その回答を待っていたと言うかの様に、彼女は微笑む。


「その通りだ。迷宮は恐ろしいからこそ、力や知識、様々なスキルを身に付けなければならない。ではここで問題だ。プロが扱うCランクの剣、素人が扱うBランクの剣。どちらが強いと思う?」


 こんなのは簡単な問題だ、武器のランクは絶対的な差だ。

 1ランクで既に圧倒的、CとBは、B -を挟んでの2ランク差、絶望的な差である。

 そう思って居るのは俺だけでは無い様で、1人の生徒が、手を上げて答える。


「素人の方が強いと思います!」


 周りも、その答えに納得、共感したのか、顔を振り、うなづく。

 がしかし、彼女はガッカリした様な表情で、答えを告げる。


「正解は、プロだ。……何故だと言う顔をして居るな、では少し見せてやろう……〈一蓮托生〉」


 その瞬間、彼女の取り出した剣から、言葉には出来ないような謎のオーラが現れ、彼女を包み込む。

 そして、彼女は人間では到底不可能な速度で剣で、綺麗に、明確に、空間を切った。

 刹那、時空が斬れた、そんな気がした。

 全員が、圧巻した。

 もはや、言葉を喋る事も烏滸がましいと、沈黙が走る。

 やがて彼女は、唱えた〈一蓮托生〉を消し、オーラがなくなる。


「今、私が使った感は、最低ランクのFだ。何がこの剣をここまでさせたのか、それは〈一蓮托生〉だ。これはプロなら誰もが身につけて居る、剣を持つとして必須のスキルの一つだ。今のはその一つに過ぎない。果たして、これだけの技量のあるプロに、強い武器を持っただけの素人が、勝てるかな?」


 全員が、勝てる訳がないと思った。


「この通り、プロは次元が違う、がしかし、これでも迷宮では死ぬ時は死ぬ。だからこそこの場所がある。最高の設備、資料、環境……そして、プロである我々教師陣。後は君達が頑張るだけだ。だからこそ言おう、この場所での妥協は許されない。この場所での堕落は許されない。この場所は、君達を最高の冒険者に導く場所だ、それ以上でも、それ以下でもない!!」


 教室に居た全員が、彼女に話に期待を、興奮を持った。

 その公開に、彼女は、ニッコリとする。


「……君達がその場所を目指す限り、私達は全力でサポートしよう。卒業までの四年間、よろしく」


 話し終えたのが分かると、全員が拍手をする、俺も、溢れんばかりの拍手をした。


「ああ、それと、呼び方は自由だ。鏑木先生、巴先生、ティーチャー呼びは良いが、ともティーとか言い出したら殺す」


 なるほど、これから巴ティーと呼び方にしよう……心の中で。

 声に出そうとしたが、巴ティーの目がマジで殺すそれだった。

 普段は鏑木先生と呼ぶ事にしよう。

 

 様々な教材が配られ、その日は解散となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る