第9話 登校初日
二十一名が結果的に救急車に運ばれ、冒険者専門病院に全員入院したあの事件の三日後。
三日間と言う短い様で長い様な空白の期間に対して、冒険者育成学校は、これ以上のストップは未来ある冒険者の損失とし、再開を宣言した。
俺は、苅野と合流し、軽く世間話をしながら学校に向かった。
校門前まで行くと、颯太と間宮が、嬉しそうに、ある一枚の紙を眺めながら待っていた。
俺達に気づくと、手でこっちへ来てと手をひらひらとさせ、招いてくる。
そして、先程まで眺めていた紙が、右斜め前の方に行けば貰えると言われ、俺と苅野はそこへ向かう。
「新入生の皆さーん!! クラス分け表はこちらで配られまーす!!」
どうやら、クラス分け表を配っている様だ。
颯太と間宮がニヤニヤしているのを考えるに、恐らく……。
「お! 二人とクラスが一緒だ! それに……苅野とも同じだな!」
「そう、だね! とっても、嬉しい、よ!」
そして、俺は間宮と颯太、苅野の四人で、1-Aに向かった。
ちなみに、正樹と花蓮は、1-Bだった。
教室内は、小中学校で見慣れてきた机と椅子の並びに、左側に大きな窓、黒板代わりの大きなモニターが、教室の一番前に貼り付けられ、後ろに人数分(24名)のロッカーが用意された、大きめの部屋になっている。
教室に入ると、既に何名か座席に座っていた。
その中に、1人見覚え……友達がいた。
赤羽夏美である。
教室の左斜め後ろの一番端っこに居る赤羽に、俺は話しかける。
「おはよう!」
「おはよう」
赤羽は嬉しくも無ければ悲しくも無い、普通の挨拶で返してきた。
まあ朝の挨拶はこの程度が十分だろうと思い、その場を立ち去る。
そして、俺は何処の座席に座ろうか真剣に悩み始める。
「……ここ、空いてるわよ? ほら、その、ここ……」
すると、赤羽は顔を赤らめながら、それをバレない様にそっぽを向き、空いている右手でその空いている席を指差した。
何故こんなにも好意を寄せてくれてるのかわからないが……俺は顔を赤らめてまで誘ってくる赤羽のその行為を、無視できるほど、強くなかった。
ありがたく座らせてもらおうとしたその刹那。
なにかが俺の座ろうとした席を、赤羽が誘ってくれた席を、奪った。
俺はなんだかとんでもなく勿体無くとんでもなく腹が立った様な気がして、誰がこんな許されざる行為をしたのかとよく見る。
短く切られた金髪に、いかにもかっこいいイヤリングを耳に付け、目は青色、めちゃくちゃニヤついている。
もう一度言おう、めちゃくちゃニヤついている!!
なるほど、完全に舐めてる。
こいつの腹に〈涼しげな一撃〉を喰らわそうとした瞬間、後ろから声が掛かる。
「太一さーん! ここ、座りませんか?」
間宮からの声で、俺は後ろを振り向く、そこには、既に苅野と颯太が座っているのが見えた。
初日に喧嘩など起こして良い事は無いだろうと俺はそこを離れ、間宮の誘ってくれた方に向かう。
するとそこで、「フッ」と誰かが笑う声が聞こえたが、おそらく気のせいだろう。
俺は、席に付き、授業開始まで雑談を楽しんだ。
赤羽が拗ねて居るのに、少し罪悪感を感じながら。
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