第8話 入学式②

『うわァァァァァァァァァァァァァァ!!』

『ご主人様、あの、その、……事故だよ、きにしないで』

『うわァァァァァァァァァァァァァァ!!』


 なんでこんな事になったのか、全てはスピーチせいだ。

 スピーチなんて大嫌いだ、スピーチなんて嫌だァァァァァァァ!!


 ゆっくりと、俺はあの恐ろしい、恐ろしいスピーチを思い出した。



「みなさん初めまし『キィィィン』失礼しました、皆さん初め『キィィィン』……みな『キィィィン』……」


 初手ハウリング三連続、これを耐えれる奴は居ない。

 俺は冷や汗をかく。

 一旦落ち着き、マイクの電源を切り、入れ直す。

 再度声を入れる。


「みなさん初めまして、上野太一と申しま『してっ!!』五月蝿っ?!」


 今度はとんでもなく音量がデカくなった。

 よく観察してみると、音響のすぐ近くにいた先生が、ついつい音量を上げてしまった様だった。

 誰しもミスはあると、俺はしょうがないと諦め、スピーチを再開する。


「この冒険者育成学校に、光栄な事に、特待生として、こうしてスピーチ出来た事、非常に嬉しく思います」

 

 今度は何事も無く喋り切った……とでも思ったのか?

 俺は、一人も俺の方を向いてない事に気づく。

 よくみると、遅刻した二人組が、ペコペコしながら席に向かっているでは無いか。

 

 なんなんだろう。

 体育館あるあるでもやられてるのか。


 俺は邪念を振り切り、咳払いをし、注目を集める。


「私の武器は、盾です。主流である剣とは、かけ離れている存在でしょう。ですが……ん?」


 又邪魔が入るか、今度はなんと、一人の生徒が体調不良で椅子から崩れ落ちた。

 当然周りの生徒は驚きと心配でザワザワとする。

 俺のスピーチなど聞く筈もなく。

 そして、感染したのか、周りの生徒、計21名が倒れた。

 二十一名って……もう意味がわからない。


「今すぐ彼らを保健室に! 状態次第では救急車を呼びなさい!」

「わかりました! あ、スピーチは中止です!! 入学式は後日開催いたします!!」

 

 こうして、俺のスピーチは、なかったかの様に、忘れ去られた。

 解散の指示が出た後、俺は体育館の近くにあった広場のベンチに腰を掛けた。

 そして今に至る。

 俺は何かする予定も無い為、ボーっとする。

 

 すると、目の前から突然、とても良い香水の香りがする。

 俺は、どこかでこの匂いを、どこかで嗅いだ事がある気がした。

 赤羽夏美である。


「飛んだハプニングだったわね、上野太一」

「赤羽……なんでここに?」

「あら? 覚えてないの? 約束したじゃ無い、なんでもしてあげるって」

「あれ……そんな約束したっけ?」

「……」


 俺は記憶を掘り返してみる。

 そして思い出す、試験の時、賭けの条件として、なんでもしてあげると赤羽が言っていたのを。

 何をお願いしようか、そういえば考えてなかった。

 俺は分かりやすく悩む様に顎に手を当て考える。


「え、何か無いの?! 私令嬢よ?! あの、赤羽財閥の! 赤羽夏美よ!? 何か、何かして欲しいこととか無いの?!」

「いや無いよ?! あ、あったわ」

「なにかしら?! は! で、デートとか?!」

「いや方向がおかしいわ!? ちょっと武器のトレーニングに付き合って欲しいんだよ!」

「わかったわ! 恥ずかしいけど貴方とな……は? 武器のトレーニング?」

「いや……この鉄扇にな、〈挑発〉ってスキルがあってだな」

「そんなのどうでも良いわ! 兎に角、賭けは賭けよ! もうちょっと、私にしか出来ない様な事を言って見なさい!

「……じゃあ、とりあえず仲良くしてもらえるか?」

「……本当にそんなのでいいの?」


 赤羽はもっと良いお願いを……と言おうとしてるのが俺はわかった。

 だから俺は、ゴリ押しする事にした。


「なんでもするって言ったよな? 俺はお前とどーしても仲良くなりたいんだが……だめか?」


 これ以上の説得は無駄だと、赤羽はそこで食い下がる。


「わかったわ、でも、何かお願いしたい事があったらいつでも言いなさい」

「ああ、……そういえば、さっきデートだとか言ってたけどあれは」

「忘れて!!」

「デー」

「忘れてぇぇ!!」


 俺は赤羽に一発殴られた気がする。

 それ以降? 何故か記憶が無いんだ。

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