第7話 入学式①

 俺は、扇子をケースにしまいいざとなった時の為に身を包む制服のポケットにしまう。

 そして、フユを指輪化し、指に嵌める。

 母さんに「いってきます」と伝え、「いってらっしゃい」と手を振り見送るのを確認すると、俺はドアノブに手をかけ、開き、入学式への一歩を踏み出す。


 道中、俺はフユと話す。


『ご主人様〜! 遂に入学式だね!』

『ああ、……お、あそこに同じ制服の生徒がいるな、アイツも冒険者育成学校の生徒だろう。話しかけてみようかな』

『良いんじゃない? でもご主人様特待生だしね〜、驚いちゃうかも?!』

『それはそれで反応が楽しみだな』


 俺はニヤニヤしながら、その生徒に話しかける。


「おはよう」

「むぁっ?!」

「食パン咥えてる?!」

「むぅ!」


 なんと、話しかけた生徒は、食パンを咥えていた。

 良く女子高生が食パンを咥えながら走って、角で男子高生とぶつかり、恋が始まる事はあるが……。

 急いでるわけでもなく、ゆっくりと歩きながら食パンを咥える男子高生は聞いたことがなかった。


 生徒は、口に咥えたパンを大口で食べきり、もぐもぐして、食べ切ると、こちらを向き、自己紹介をする。


「ごめん、僕、パン好きで、なんか、暇な時ついつい咥えたくなっちゃうんだよね……あ、名前は苅野健太かりのけんたて言うから、出来れば……覚えてもらえると」

「勿論! 俺は上野太一だ、入学試験の時に戦ってたんだけど……分かるかな?」

「あ、それ、見たよ! めちゃくちゃ、かっこよかった。確か、盾、使ってたよね」


 そのまま、あの戦いについて語りながら入学式に向かった。

 学校に着き、体育館に入り、用意されていた座席に座る。

 落ち着いた所で、改めて苅野の事を見る。

 先程は食パンのせいでよくわからなかったが、よく見ると、かなり美形だ。

 サラサラの茶髪に、半開きの黒目、なんだか抱きつきたくなる。

 俺の視線が完全にそれになり、苅野が「ひっ」と怯える。

 その後暫く雑談を楽しんでいると、試験日以来に、颯太と間宮が来る。

 颯太は俺の隣に、間宮は更にその隣に座った。

 そこからは、俺と颯太、間宮に苅野の四人で盛り上がった。 

 

 そして、入学式が始まった。

 理事長は、手慣れた様子で、マイクを持ち、一礼し、一歩前に出る。


「皆のもの、まずは入学おめでとう。この学校は、プロの冒険者を目指す君達を、心より応援し……死すら生優しいと思える程の、厳格なる指導を施す事を誓おう。迷宮とは、いつ何が起こってもおかしくない、だからこそ、諸君ら生徒には、その覚悟を持って、1日1日の授業、課題、試験、部活、校外活動、あらゆる事に全力で取り組んで欲しい。全力で取り組まない事に意味など無い。以上」


 覚悟と生徒を思う本心から来る、その挨拶は、一人一人の心に響き、大きな拍手が起きる。

 そして次に、特待生挨拶……俺に回ってくる。

 俺は、颯太や間宮、苅野に少しニヤニヤされながら、席を立ち、壇上に向かう。

 設置された階段を、一歩一歩緊張しながら登る。


『ご主人様、緊張してる?』

『そりゃ当然緊張するさ』

『緊張してるご主人様……楽しみ』

『完全にポケかますと思ってるなお前?! よし、見てろ、俺の完璧なスピーチを見せてやるから』


 フユとの会話で、完全に緊張が解けた俺は、軽快な足取りで演台の前に立つ。

 先程理事長の使っていたマイクに顔を近づけ、俺は、スピーチを始める。

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