第5話 専属鑑定契約

 私の名前は我路独歩がろどくほ、東京都支部のギルドマスターだ。

 外見は、短く切ってある茶髪に、掛けられたメガネの奥にある深くを見つめているかの様な黒目、自己評価は、『そこそこ』位である。

 突然だが、ギルドでは無料で鑑定をするというサービスがあるが、なぜ無料で行うのか知っているだろうか?

 これは本部である東京都支部、そして京都支部、ギルドの重役などしか知り得ない事なのだが、鑑定結果はギルドで記録されている。

 何が言いたいのかって? じゃあとても詳しく説明しよう。


 装備品にはランクがある、F→E→D→C→B−→B→B+→A−→A→A+→準伝説級→伝説級→準神話級→神話級→神器の順だ。

 F〜Dまでは、大体100万〜100億で買える。

 この程度ならば、まだ買える。

 がしかし、Cから雲行きが怪しくなる。

 Cは1000億、B−は1兆、Bは10兆、B+は100兆、A−からは本当に意味のわからない金額になってくる。

 ここで質問だ、いくらギルドが設けてるとはいえ、ぽんぽんと何兆も出せるだろうか? 無理だ。

 がしかし、ギルド側としてはなんとしてもより多くのスキルを知っておきたい。

 そして出来たのが、無料鑑定だ。

 実はあれ、一回100万円位の費用が掛かる。

 だがそれがなんだと言うのだろう? 何億何千億何兆の世界で、その程度の出費がなんになると言うのだ?

 まあつまり要点だけ言うと、ギルドはより多くのスキル収集の為に無料で高額鑑定をやっていると言う事だ。


 私が今日何をしたいのか、それはずばり、期待のルーキー、上野太一との『専属鑑定契約』だ。

 先程話した通り、無料鑑定で高ランク武器を鑑定できるのがベストなのだが、この事実を察して避ける、勘のいい奴がいる訳だ。

 こう言う奴らに限って、いい武器を持ってたりする。

 だが、ギルド側としてはその武器の情報は絶対に手に入れておきたい。

 そこで出来たのが、専属鑑定契約。

 毎月100万円の契約料を払う代わりに、契約者は月一回の鑑定と、ギルド以外での鑑定をしないと言う契約だ。

 無料で受けられ、更にお金を貰える、ギルドを敵に回してもなんの意味もない現状で、これに乗らない手段は無い……。

 なのにこの目の前の少年は……


「んー、いや、ちょっと考えさせて下さい」

「だから何故だ?! いいか、一時間程このギルドの裏事情まで話したんだぞ?! そこらのギルド員すら知らない情報を!!」

「いやそれ話しちゃダメでしょ?! 何やってるんですか?! 俺トップシークレット知っちゃったんですけど?! え、殺される? 始末される?!」

「いやそんな事はしない、これから君が書くこの『専属鑑定契約』の契約の一つに、ギルドの秘密は守る事があるからね。なんの問題もない」

「いや契約させる気満々じゃねぇか!!」


 私と彼は激しく睨み合う。

 ここで私は、切り札を出す。


「実は……今契約して頂ければ、こちらの剣を差し上げ……」

「いらないです」

「ですよね! 要りますよ……、え、要らない……?」

「はぁ……『見通す者』……なるほど、その剣は遠距離攻撃が多くて、盾で自らを守りながら攻撃できると言う相性の良さで攻めるつもりだったんですね」

「……心を読まれた? いや、もしや?!」

「『見通す者』はステータスを見る事ができます。フユの『テレパシー+』で情報共有も出来ますし、正直何に利用されるか分からない所に大事なペットと、親父からのプレゼントを託したくないんですね……はぁ、こんな事なら最初から鑑定に出さなければ良かった」「なるほど……」


 私はもうそれしか言えなかった。

 確かにそうだ、私は本部の長であるが、理事会やさらに上はどうなってるのか分からない。

 確かに目の前の彼が言っていることは正しい。

 ならばと、私は他の事を提案する事にした。


「ギルドとしてでは無く、私個人としてお願いしたい。『公認冒険者』になってはくれないかい?」

「公認冒険者って……ギルドに十人までしか置けない、随分と待遇の良い?」

「ああそうだ」

「それ俺がやっていいんですか?」

「何を言っているのか……君は金の卵だ、孵化しているつもりならそれは間違いだ、まだまだスタートにすら立っていない。だからこそ君をサポートしたい、正しく孵化し、化け物に育ってほしい」

 

 すると目の前の彼は、少し考えたようなそぶりを見せた後、目を瞑り何度か頷き、「お願いします」と言い、契約は無事結ばれた。


 手続きが終わり、彼が帰ろうとした為、一時間の仕返しをする事にした。


「ああ、そういえば、公認冒険者の契約にも秘密にする約束はあるからな……守れよ」


 すると彼は、先程結んだ契約書を睨むように見て、それが無いのを確認すると、こちらを睨む。


「ハハハ、嘘だよ。冒険者が騙されやすいのは命取りだ、そこら辺もしっかり鍛えてやるから楽しみにしてろ」


 彼は最後に、呆れたのか、もしくはこの出会いに満足したのか、笑ってギルド施設から出ていった。


「さてと……マニュアルでも作るか」

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