第13話 亀式流星群
赤羽は、一瞬で距離を詰められたことに、心底疑問を持っていた。
何故なら、陽炎を発動しているのに、何処にいるかがバレたからだ。
だがしかし、これは実はよく見ればわかる話なのだ。
陽炎は、発動中自身のいる場所が少しブレるのだ、これは熱気によるものだ。
夏の猛暑日に、視界がぼやけて見えるのが分かるだろうか? まさにそれが赤羽の周りでだけ起きているのだ。
俺は、それを見極め、中心を叩き、見事赤羽に詰め寄れたと言う訳だ。
一つアドバンテージを得た俺は、余裕を持って一撃を振りかざす。
が、赤羽はこのくらいのアクシデントでは倒せない、やはり何年も迷宮に潜っている経験からの技術だろう。
最初は余裕をかましていたが、それは経験から来るものなのだろう、確かにボコボコにするなど失礼な事を言ってしまったなと思い、激しい剣の混じり合いの中。
「最初はすまなかった。遂興奮していてな」
と話しかけた。
すると赤羽は少し機嫌を直したか、厳しい顔を少し緩める。
「今更何? 命乞いなら受け付けないわよ」
がしかし、完全に許してもらえるわけではなく、今尚潰す気まんまんの様だ。
俺はこの時、そんな相手に勝ってみたいと、心から思った。
だから俺は、その勝てる可能性を掴む為、後ろにバックする。
すると吸い付く様に赤羽が追ってくる。
この時点で、俺は勝利を確信した。
「〔炎孤の舞〕」
距離を詰め今度は自分の番だと思った赤羽は、1秒間に10回、それが10秒間続く、100連撃技、〔炎孤の舞〕を放ってきた。
だが、俺はそれ程焦って居なかった。
何故なら赤羽の炎孤の舞は、まだ一撃一撃に炎を浴びて居ない、ただ速いだけの未発達段階だったからだ。
不幸中の幸い、俺はその100連撃を、自分の持ちうる全ての身体能力を発揮して捌き切る。
これには今まで太一の事をただのコネで入ってやつだと思ってた観客からも、お〜! と言う関心の声が聞こえ、見る目が変わる。
「これを捌き切るなんて……貴方やるわね」
「まあな、こんなでも特待生だからな」
「……ええ、そうね。確かに貴方の実力は特待生に相応しいわ……でもその席は私のものよ、だから意地でも勝つわ。見せてあげる、〈不死鳥〉と呼ばれた私の力——!!」
その刹那、彼女の目が、幻覚でもなんでもなく、濃い紅色に変わった。
そして、地面を蹴りその場から消え——俺の首元に剣を突き立てた。
俺は激しい危機を感じ、後ろにバックステップをしようとするが、それでは座標がずれてしまう為、下に屈み、そしてアッパーを掛けるように、剣を突き上げる。
赤羽はそれを顔を逸らすだけで避け、次の攻撃をしてくる。
体制を立て直した俺は、それに対応できる様に構え、剣が迫ってきたその刹那、筋肉をフル活用し、それを返す。
そしてそれは何度も繰り返され、俺はその度に全身の筋肉をフルで使った。
そして一分後。
激しい剣の混じり合いの末、俺の筋肉は限界を迎え、その場に膝をつく。
「貴方は特待生に足る人物だわ、でも約束は約束。降参しなさい、初日で人殺しはしたくないの、私」
赤羽の言葉に、俺はつい笑ってしまう。
赤羽は何を笑っているんだと、不思議に見つめているので、俺は教える事にした。
「俺は空に何かを投げたよな? あれ、なんだと思う?」
赤羽は、今更なんの話をしてるんだと、俺を見つめる。
「実はあれさ……盾なんだわ」
その瞬間、赤羽は何かを察したかの様に、冷や汗をかき始める。
「この1分間、俺が何も仕掛けなかったのはなんでだと思う……この位置に、お前を持ってくる為だ!!」
その次の瞬間、空から何かが降ってくる気配を、赤羽は感じた。
避けようと去ろうとしたが、本人は無駄だと悟った。
何故なら、その降ってくる物は、先程見た盾……瞬間移動した盾なのだ。
この場に一瞬で来る事が分かったのだ。
赤羽は太一を見る。
太一は剣を持ち、スキルを発動する、〔絶対防御〕と。
推薦剣は、二つのスキルを兼ね備えている。
一回きりしか使えないスキルなのだが、この内〔絶対防御〕は、どんな攻撃でも一回防ぐと言う物だ。
太一はこの衝撃を受けないと言う事だ。
赤羽は受け切る方針に変え、剣を構えて、自身の持てる最高の技を発動する。
〔不死鳥〕と。
そして、空から異次元のスピードで降りてきた盾は、地面に衝突すると、まるで第一次カラパスを思い出させるような、大地震を起こした。
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