第5話 進路②

 俺は職員室のドアを3回ノックし、「失礼します」と言いながら、古びれたスライド式のドアをガラガラガラと音を鳴らしながら開ける。


「3-1の上野です。宮崎先生はいらっしゃいますか」


 宮崎先生と言うのは、放課後に俺を読んだ先生のことだ。

 40代位で、メガネを掛けており、黒色短髪に、厳しそうな鋭い黒い目、学校全体で、怖い先生として恐れられている。

 3年の学年主任でもある。

 

 宮崎先生は俺が来た事に気づくと、こっちに来なさいと手でジェスチャーを送る。

 俺はそれを受けて、やや早歩きで先生の元へ向かう。

 職員室で宮崎先生に呼び出された生徒は大体やらかした生徒だと共通認識があり、それを感じた他の先生達の『あ、やっちゃったのねこの子』と言う視線が、何というか、恥ずかしいからだ。

 俺はそそくさと宮崎先生の前に立ち、なに言われるんだと今更ながらに冷や汗を流し、小刻みに震える。

 それを見た先生は、俺にそんなに緊張しなくて良いと声を掛け、『場所を変えましょう』と言って、空いている会議室に入る。


 先生が座ってどうぞと言うと、俺は面接でもするのかと言う位礼儀正しく座る。

 やはり怖いものは怖いのである。

 俺が着席したのを確認すると、宮崎先生は少し悲しげな表情をして話始める。


「君は、本当に冒険者になるつもりですか?」


 突然の質問に、俺はドッキリする。

 そして、俺はその答えを出さない、いや、出せなかった。


「……もし迷って居るなら、私は辞めて欲しいです。10年前、君と同じく冒険者になろうか迷っている生徒がいました……」


 ——10年前——

「宮崎先生! 俺、冒険者になりたい!」

 私は、突然生徒からそんな事を言われたので、どう答えて良いかわからず、取り敢えず、『放課後職員室に来なさい』と言いました。

 言われた通り来た……確か名前は釜谷優樹かみやゆうき君でした。

 その子はとても好奇心旺盛で、とても明るく元気な子でした。

 釜谷君の家がお金持ちで、冒険者としてのスタートダッシュにある程度余裕がある事、ギルドシステムが安定しだし、安全な攻略が進んできた事、そして、運動神経が良く、剣道部の部長だった事。

 冒険者こそ天職である、そう考えた私は、『良い選択だと思う』と言ってしまいました。


 そして卒業後、事件は起きました。

 釜谷君は、初めての迷宮攻略で、『バグ』に遭遇し、帰らぬ人となったのです。

 バグと言うのは、迷宮で極稀に発生する、裏のボスの様な存在なのですが、釜谷君は、不幸な事に引いてしまったのです。

 そうして私は決心しました。

 私の安易な判断が元生徒を帰らぬ人にしてしまったならば、嫌われてでもきちんとした道を歩ませる、と。


「幾らポテンシャルの高い者ですら、迷宮では死ぬ時は死にます。ですが、社会と言うのは、死ぬほど辛くても死にはしません。ですから上野君、君がどうしてもなりたいと言う訳では無いのならば、その道を進むのを、私は断固として許しませんし、認めません。親御さんにも土下座でも何でして止めます。ですがそれ以上にやりたいと、その覚悟が出来たなら、私にその情熱をお話しに来なさい。話は以上です。時間をとらせてしまってすみませんでした」


 俺は、何も言い返せず、会議室を出た。

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