第28話 自分との戦い(物理)
エーヴェルハルトの居城が、少しずつではあるが確実に近付いてきた。
道中、“姿見教会”と呼ばれる廃墟があった。
あらかじめ生成しておいた5本の氷剣を引き連れて、足を踏み入れる。
広い礼拝堂跡地。祈る者も居なくなった筈の長椅子に、誰かが一人座っていた。
宙に、光で複雑な紋様が描画された。
それはカレンの周囲を三面鏡のように取り囲むと、すぐに消失。
【material analysis】
【trace
equipment‥‥‥‥ok
combat log......ok】
そして、椅子に座っていた何者かがゆっくりと立ち上がり、カレンと向き合う。
それは。
カレンと全く同じ姿をしていた。
姿見の
ドッペルゲンガーと呼ばれる、他人の姿と能力をコピーして、オリジナルの人間を殺してしまう魔物だった。
「鏡よ鏡、この世で一番強くて美しいのはだぁれ」
カレンが口ずさむと同時に、姿見の小姓が左手でエストックを抜き放った。
「それは貴女です、カレン様。今から証明致します」
剣と小盾を持つ手の左右が反転しているあたりが“姿見”を名乗る所以だろうか。
「……このようにね!」
カレンが走るよりも早く、コピーが氷剣の陣を素早く展開した。恐怖や道徳と言う余計な雑念が無い分、反応力は向こうが上のようだ。
カレンの氷剣達がコピーへ殺到すると、それに反応した氷剣が正面からぶつかり合い、余さず砕け散った。
弾丸とするには、氷と言う物質は脆すぎる。
しかし、水属性しか存在しない聖水魔術で硬度を追求するには、氷を用いるしか無い。
四散した氷が煌めく中、二本のエストックが切っ先をぶつけ合った。
お互いに半身の構えで剣の先端をぶつけ合い、相手の隙を探る。
カレンが勝負に出た。
コピーの剣を強く叩き払うと、コピーの利き手が大きく弾かれた。
胴体がガラ空きになる。心臓に突き込むチャンスだが……カレンはすぐには追撃せず。
コピーが、逆の手の
もし、カレンが先のタイミングで剣を出していたなら、逆に
盾を無為に振り抜いたコピーに対し、カレンは左手で腰に備えた黙秘剣の月桂樹を取った。
後ろへ跳び退きつつ、刃の鞭を振り上げる。見事、コピーの胴体を擦過すると、その肉を抉り取りながら鋼の枝葉がうねった。
手首のスナップで鞭を切り返すが、流石にコピーの後退する方が速い。
カレンが鞭を振り回している僅かな間隙に、コピーが白く濁った氷の槍を創造。
極限まで最適化された反応力により、瞬時に“溜め”終えたそれを発射して来た。
カレンは最小限の動きでこれを回避。背後で、ドライアイスのような死吹雪が、乾いた音を立てて放射した。
どれだけ素早く葬送の楔を撃てるとは言っても。
カレンの水撃ボールを躱すだけの暇は無かった。
大量の飛沫が弾け、辛うじて受けたコピーの体勢が大きく揺らいだ。
カレンはエストックを切り上げてコピーの左腕を切断。返す刃で唐竹割り、コピーの右腕を瞬時に切り落とした。
トドメにコピーの腹を刺し貫くと、よろよろ後ずさってから両膝をついた。
これまでで最も楽なボス戦だった。
何しろ、こちらの分身である。ノワール・ブーケの幹部の脅威には遠く及ばない。
所詮は、低能力者の悪役令嬢どまりと言う事である。
ちなみに、この場での最適解は、ソル・デでもレモリアでもシュニィでも、誰でも良いので配下を召喚する事だっただろう。
敢えてそれをせず、“同キャラ対戦”を遊ぶ程度のゆとりさえあったと言う事だ。
姿見の小姓が息絶えないうちに、カレンは教化のロザリオを取り出した。
このドッペルゲンガーを、逆ハーレムに迎え入れるために。
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