Collègue
第26話 それも愛
当然ながら、試合後のエルチェの行動は広範囲に「二人が恋仲だ」と印象付けた。次の日、兵舎の先輩後輩にたかられながらの冷やかしにエルチェが否定しても、「では片思いか」とにやにやと受け流される。城に来てから浮いた話のひとつもなかったエルチェは、いいおもちゃだったようだ。
一応ローズに謝罪はしたものの、さすがにオランジュリーでの手伝いもしにくくなっていた。
「自業自得」
レフィの言うことは無味乾燥でもっともだ。
「家に帰ることはないだろうから、別に困らないだろ」
午前中の訓練を終えて、座学の準備を始めながら興味もなさそうに言い放たれる。
それは、そうなのだが、と自分もノートを用意して、エルチェは胸の片隅に居座るローズへの小さな罪悪感を見ないようにした。
準備の終わったレフィが、じっとエルチェを見つめる。
「……なに」
「僕が叙任を受けるまで、最低三年。エルチェは頑張れば来年には騎士になれると思うけど、そうする?」
「まだ従騎士にもなってねえけど?」
「なるよ。大丈夫」
「それで、お前の騎士として働けるのか?」
「難しいかもね。僕は兄さんの従騎士だから、兄さんの護衛騎士の誰かにつくか、城の騎士団に入った方が稼げる。周りはそう配置したいだろうし」
「稼ぎはどうでもいいよ。食えりゃあいい。別に、急がねぇ」
「でも、そうすれば騎士爵が手に入る」
「は? 身分も別に欲しがってねえだろ?」
「……君はね」
先生がやってきて、レフィはそこで話を切り上げた。
午後からは北の森に向かう。
祭の浮ついた雰囲気が収まってきて、人の出入りも減っていた。世間話を装って、旅人風の人物に話しかけるテオを見本に、怪しい人物の見分け方などを覚えていく。
隊服や兵装で声をかけるのだ。一般人でも一瞬警戒する。それとは別に挙動不審だったり、逆に妙に落ち着いているのは怪しいという訳だった。行商人なんかは街道を行った方が商売になる。よほどの理由が無ければ森の中は通らない。そういうことに加えて、狩猟が解禁される前に武器を持って森にいる人物にも注意をするよう教えられた。
祭り後は森を巡回する正規の兵がいるので、テオもチェックはしても深追いはしない。小さな視線の動きや手の動きで人を見定めるテオは頼もしかった。
そういうのはレフィが得意そうだなとエルチェは彼を見るが、レフィは眉間に皺を寄せて舌打ちした。
「見えない」と呟いたのを拾って、エルチェは思わず吹き出す。アイスブルーが睨んでいるのがわかるが、しばらくそちらを向けなかった。
「常時必要になるのか……」
諦めのように吐き出された言葉は、こればかりはエルチェに頼れない(おそらく期待もできない)と思ってのことだった。テオもこれにはくすりと笑う。
「落とさないよう、鎖も付けるべきですね」
渋々と頷いて、レフィは光がちらちらとこぼれ落ちる木々を見上げるのだった。
*
造作の整っている奴は何でも似合うなと、新しい鎖の付いた眼鏡をかけるレフィを見て、エルチェは思った。本人は特に感慨は無いようだが、しばらくは周囲の視線にイライラしていた。「何が珍しいんだ」と。
目に入るのでそう思うのだろうけど、今までだって視線は集めていたのだが。無関心でいられたのは見えていなかったから、というのも大きかったのかもしれない。
秋が近づき、新人を迎え入れる準備で兵舎も騎士団もどこか忙しない雰囲気になってきたある日、エルチェは久しぶりに昼食を持ってオランジュリーへと向かった。そろそろほとぼりは冷めたかなと思ったのだ。
入ってすぐのところにテオが立っていて、エルチェはギョッとした。
「レフィも昼食いに行ったんじゃなかったのか?」
一緒に部屋を出て、てっきりいつものように
「ちょっと、確認したいことがあっただけだ。昼からは森に行くからな。寝過ごすなよ」
穏やかに笑っただけのテオの影から、レフィがやってくる。軽く手を振って去っていく背中を見送って、訝しみながら視線を戻した。
テーブルの端の方にローズが赤い顔をしたまま座っていた。
エルチェは彼女へと近づいていく。
「またなんか言われたか?」
訊いたものの、ローズが赤い顔のまま微笑んだのを見て、不快な話ではなかったらしいとホッと……しかけて、小さくもやついたものが頭をもたげた。あれ、なんだろうと顧みる前に、ローズが口を開く。
「ううん。なんか、レフィ様大人っぽくなったよね。あ、前から年齢よりはずいぶん大人っぽかったんだけど、見かけが追いついてきたっていうか……すごく冷たく見えるけど、いつも、結果、優しいな……って」
「わかりづらいんだよな。優しいかどうかは、まあ、微妙? 合理主義なだけのこともあるし」
「そうね。あ、エルチェ、オレンジの実の形の良くないの見つけたら摘んでおいて? 大雑把には終わらせてるんだけど、目の届かない部分もあるから」
「わかった」
座ってパンを頬張るエルチェを、しばらくにこにこと眺めていたローズは、思い出したように立ち上がる。
「いけない。別の仕事あるんだった。久しぶりに二人に会えて嬉しかったわ。良かったらまた来てね」
「おぅ……噂、もう大丈夫そうか?」
「エルチェが心配することはないって言わなかった? みんなに一目置かれるようになって、過ごしやすくなったくらいよ」
ぺろりと舌を出して手を振ると、ローズは去っていった。
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