第3話 関係者への事情聴取
さて、そうと決まれば、まずは関係者への事情聴取が必要だ。
僕は、探偵らしく自分の部屋の中を行ったり来たりしながら、お母さんに尋ねた。
「指輪が無くなったことに気がついたのはいつなの?」
「ついさっきよ。気がついて直ぐにここに来たから」
なるほど。
要するに、指輪が無くなって真っ先に僕のことを疑ったわけだ。
不服に感じた僕は、唇を尖らせながら
「じゃあ、ちゃんと探してもいないじゃない。どこかに落ちてるんじゃないの?」
と言ったが、お母さんいわく、その可能性はない、そうだ。
普段、お母さんは指輪を外すことはない。
お風呂に入る時も、寝る時も、いつも指輪をしている。
それなのになぜ今日は指輪を外したのかというと、晩御飯の支度中に左手の薬指を包丁で切って怪我してしまったからだった。
絆創膏を貼ろうと指輪を外し、その時、指輪は間違いなくリビングの机の上にあるアクセサリー入れの中に置いたのだという。
「絶対の絶対?」
「絶対の絶対、間違いないわ。普段指輪を外さないから、外す時はかなり気をつけるようにしているのよ。だから、絶対の絶対、間違いなく指輪はアクセサリー入れの中に置いたわ」
なかなか説得力のある話である。
お母さんの供述に納得した僕は最後に、指輪を外したのはいつなのかを尋ね、1時間ぐらい前との答えを聞くと、お母さんへの事情聴取を終えて現場に向かうことにした。
僕の部屋から出て階段を降りると、リビングがある。
大きな掃き出し窓の外には小ぢんまりとした庭があるが、道路に面していない上に少し高めの塀もついていて、ここから泥棒が侵入するのは難しそうに見えた。
しかも、リビングは台所と繋がっていて、指輪を外した後もお母さんはずっと台所でご飯支度をしていたらしいから、余程の技術を持った泥棒でない限り犯行は不可能だ。
僕は何か手がかりを探そうと、リビングを見渡した。
アクセサリー入れの中には、真珠のネックレスとイヤリングがいつもと変わらず置かれている。
指輪を盗んだ犯人は、指輪以外のアクセサリーには興味がなかったということか。
僕は腕組みをしながら、ふむふむと頷いた。
机の上には、アクセサリー入れの他に、昨日僕が読んでいた漫画雑誌が置いてあって、掃き出し窓のところには、取り込んだばかりの洗濯物の山。
−洗濯物の山?
「ねえ、お母さん。お母さんは指輪を外した後もずっと晩御飯を作ってたんだよね?洗濯物はいつ取り込んだの?」
「え?洗濯物?ああ、それは絆創膏を貼るのにリビングに来たから、その時ついでに取り込んだのよ」
まったく、供述は正確にして貰わなければ困る。
お母さんは、指輪を外した後もずっとご飯支度をしていた、と言ったはずなのに、なんと洗濯物を取り込んだらしい。
それを指摘すると、
「そんなついでの行動まで説明してられないわよ。それこそ無意識にやってるんだから」
と開き直ってしまった。
なんてけしからん依頼人であろうか。
だけど、真相解明のためには登場人物の話に耳を傾ける必要があることを良く知っている僕は、根気強く、他に何か忘れていることはないか尋ねた。
すると、
「ああ、そういえば、洗濯物を取り込んでる最中に荷物が届いたわ」
と、これまた最初の供述を覆す証言が得られた。
まったく、こんな大切なことは初めから教えておいて欲しいものである。
僕は文句を言いたくなる気持ちを抑えながら、次なる手がかりを求めて台所に移動した。
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