第2話 依頼人がやって来た


 おっと失礼。


まだ君たちにこの事件について説明していなかったね。


事の発端は、僕が中学校から帰宅し、自分の部屋で真面目に勉強をしていた時だった。


僕の部屋の扉が、突然ノックもなしに開かれた。


そして、扉を開けたその人、僕のお母さんは、苛立ちを隠しもせずに僕に詰め寄った。


「さとし、あんた、また私の結婚指輪隠したでしょ!もう、いい加減にしてよね。」


何が何だか、状況が掴めないでいる僕に、お母さんは畳み掛けるように、


「あ、それに!帰ってきたら、まず宿題終わらせなさいっていつも言ってるでしょ!またゲームばっかりして!」


と、ゲーム機を手にベットに寝転がる僕の姿を見て、さらに怒りを募らせたようだった。


 これ以上お母さんを怒らせると、危険だ。


僕のお小遣いが、また減らされてしまう。


僕はベットから起き上がり、何とかお母さんの怒りを鎮めようと、


「ただのゲームじゃないよ。推理ゲームなんだ。僕、将来は探偵になるんだ。だから、これも立派な勉強なんだよ」


と釈明した。


しかし、その言葉を聞いたお母さんの眉が更に吊り上がったように感じた僕は、話題を反らそうと、


「それに、指輪って何のこと?僕知らないよ」


と、間髪入れずにそう答えた。


「嘘おっしゃい!前もネックレス隠したじゃない!」


「いや、あれはー」


 そう、確かに僕はお母さんのネックレスを隠したことがある。


ネックレスと引き替えに、隠し場所を記した暗号のカードを残して。


学校の読書の時間に読んだ、怪盗と探偵の物語がおもしろくて、ついつい試してみたくなったのだった。


「でも、そんなの僕が小学4年生の時の話だよ。僕ももう大人になったんだから、そんなことしないよ」


この四月から僕は中学生になった。


今でも探偵とかの推理モノは大好きだけど、お母さんの指輪を隠すようなことは流石にもうしない。


 お母さんは納得いかない様子で僕の目をじっと見つめた。


そして、嘘はついていないと判断したのか、ふっと視線を反らして、


「分かった、信じるわ。でも、じゃあ指輪はどこに行ったのかしら。まさか、泥棒でもー」


と、一人でぶつぶつと呟いた。

 

 とりあえず疑いが晴れてほっとした僕は、さっきまでの推理ゲームの内容を思い出し、「次は街に出て、あのキャラクターに話し掛けてみるか」などとぼんやりと考えていた。


 すると、突然お母さんがぽんっと両手を叩いたかと思うと、


「そうだ、良いこと思いついたわ。さとし、お母さんの指輪探してよ」


と、全然良くないことを言い出した。


「えー、いやだよ」


「なんでよ。いいじゃない。探偵になりたいんでしょ?」


 確かに僕は探偵になりたい。


だけど、僕が興味あるのは、もっとハラハラドキドキするような事件で、決してただの指輪探しなんかではない。


そんなことに時間を使うよりも、早くゲームの続きがしたかった僕は、


「やだよー。宿題だってあるし」


と言ってはいけない言葉を発してしまった。


が、それに気がついた時にはもう手遅れで、お母さんの眉は再び釣り上がり、今にもその口から


「もともと宿題サボってゲームしてたじゃない!」


と発せられようとしているのは、明らかだった。


 僕は、お母さんの口が開く前に、


「あー、でもやっぱりやってみようかな。指輪探し」


と言いながら仕方なく立ち上がった。

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