第69話 送信
「安心してください。タオルの下には何も身につけていません」
流美が飄々と言ってのける。
「何を安心すればいいのかな!?」
「ちゃんとこの下は無防備だとわかっていた方が、男性的には盛り上がるのではないですか?」
「盛り上がるけどさぁ!? これは流石に卑怯じゃない!? っていうか、なんでこんな写真撮ったの!?」
「景色が綺麗でしたので。ちょっと恥ずかしいですけど、撮らなきゃもったないと思いました」
「確かにこの写真は素敵だけどね!?」
「あ、もう一つ、安心してください。これはわたしが十八歳を過ぎたときの写真ですから、持っていても児童ポルノなどの問題はありません。なので、送っておきますね?」
「それは良くないと思うよ!? 俺がこの写真をどうするかなんてわからないだろ!?」
「例えこれをネットにアップされたとしても、大事な部分は見えていませんし、普通に綺麗な写真だと思われるだけでしょう?」
「そうかもしれないけどさー……」
わかっている。流実は俺をからかってこんなことを言っているのだ。
本当に俺に送りつけるつもりなどなくて、断られるまでがワンセット……。
「送信しました。とはいえ、やはり無闇に他人に見せるものではないので、燈護さんだけで楽しんでくださいね?」
「本当に送ってるー!?」
自分のスマホを確認すると、確かに写真が送られていた。
いや待て、これは保存せずに削除を……。
「あ、間違って自分のフォルダから消してしまいました。大事な写真なので、ちゃんと保存しておいてくださいね?」
「だったら送り返すよ! それを流美が大事に保存してくれればいいから!」
「ブロックしました」
「そこまでして俺に持っていてほしい写真なの!?」
くつくつと流美が体を揺らす。
寝ようとしていたはずなのに、一体何をしているんだか。
「とにかく、それは持っていてください。言っておきますけど、こんなことするの、燈護さんに対してだけですからね?」
「……もう、わかったよ。保存して、誰にも見せないようにしておく」
「お願いします。……ちなみに、燈護さんがそれをどう使おうと自由ですよ?」
「言われなくても察してるから、言わないでいいよ! っていうか、寝るんじゃなかったの!?」
「……燈護さんは、もう寝てください」
「流美は?」
「どうせ眠れませんよ。こんな状況で、眠れるわけないじゃないですか」
「……そう」
流美がスマホを置き、こちらを向く。俺の手からスマホを奪い、画面を消した。
スマホの明かりに目が慣れていたせいで、何も見えなくなる。目が暗闇に慣れる前に、流美が俺の右手を両手で包み込んだ。
「……わかっているとは思いますが、改めて言いますね。
わたし、燈護さんが好きです。こうして隣にいるだけで、胸の高鳴りが止まりません。
今夜は眠れないだろうことは予想がついていて、それでも、燈護さんを少しでも長く感じられるのならいいんです。むしろ、眠りたくないと思ってしまいます。
燈護さんは、ゆっくり休んでください。わたしは、燈護さんを想うこの時間を、じっくり味わっていますから」
暗闇で良かった。明かりが点いていたら、この告白にどうしようもなく赤面しているのが、ばれてしまったはずだから。
「……ありがとう。そんなに想ってくれるのはとても嬉しい。身に余る光栄って奴だよ」
「嬉しいだけですか? キスくらいしてくれてもいいんですよ?」
「……それは、だから」
「わかってます。ダメなんですよね。けど……」
流美は俺の手を引き寄せて、そっと唇を押しつけてきた。
「これくらいはいいですよね?」
「……たぶん」
「良かったです。それでは……燈護さんは先に寝てくださいね。というか、早く寝てください。わたしにも予定があるんですから」
「なんの予定!? 俺が寝ている間に何をするって!?」
「他の人たちもどうせしてるだろうことですよ」
「それは一体何!?」
「秘密です。さ、早く寝てください。子守歌でも歌いましょうか?」
「……なら、子守歌、頼むよ」
「ふふ? 意外と母の愛を求めるところもあるんですね?」
「母親だったら、こんなこと言わないよ」
「確かに」
一呼吸置いて、流美が子守歌を歌い始める。なんだか懐かしい響きで、先ほどまで興奮していた心も落ち着いてくる。
すぐには眠れそうにないけれど、この時間は心地良くて、ずっと続いてくれればいいのにな、なんてことも思った。
……まだ、流美を選んだわけではないのだけれど。
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