第13話 恋語り

 写真撮影をした後、俺と澪は川沿いにあるおしゃれなレストランで食事をした。

 女性とディナーなんて初めてだったけれど、今日一日で打ち解けていたから、緊張も特になかった。ただただ楽しい時間だった。

 ちなみに、食事の途中でこんな話もした。


「そういえば、一途な人は意外と上手くいかない、みたいなこと言ってたけど、あれ、どういう意味だったの?」

「ああ、あれはね、女性って、『付き合う相手なんてあなた以外にいくらでもいるよ』って感じで振る舞う男性を好ましく思いがちなんだってさ。恋愛心理に関する動画で見た話なんだけど、確かにそうかもしれない」

「うん……? それ、どういうこと?」

「結局さ、女性は本能的に優秀な子供を産みたいと思ってるんだって。だから、付き合う相手なんていくらでもいるような、かっこ良かったり強かったりする男性と付き合いたい。逆に、『自分にはあなたしかいない』なんて思っている男性を、情けないとさえ感じるんだって」

「へぇ……。奥が深いというか、残酷というか」

「ある意味残酷だよね。恋愛感情は何か尊くて神聖なものに捉えられることもあるけど、突き詰めればとても動物的な感情なのかもしれない。

 だから、女性にアピールするときは、『自分にはあなたしかいません』って感じでいるより、『あなたに好かれなかったとしても別の人のところのいくだけです』って感じでいる方がいい……らしいよ?」

「……なるほど。でも、らしい、ってことは、澪としては少し違うと感じるのかな?」

「難しいところだけど、確かに、すがり付くように自分を求められると、いまいちその人には魅力を感じないかもしれない」

「そっか……」

「かといって、私のことを本気で好きでいてくれない人も嫌だから、バランスは難しいところ」

「……本当に難しいな」


 どんな男性であればいいのか、イメージが掴めない。


「そうなんだよねぇ。

 他にもさ、女性が魅力的に感じる男性像って、かなり動物的な部分があるの。優しい人なんて求めていなくて、強くて優秀であることを求めている、とか。深く知っていくと、うんざりしてしまうこともあると思う」

「……優しい人じゃダメなのか」

「うん。そう。男性向けのラノベとかでは、ちょっと優しくしただけで主人公を好きになっちゃう女の子がたくさん出てくる。けど、実際には、優しさに触れても女性の恋心は芽生えにくい。もちろん、人として好意的に思うことはあるけどね」

「……その話を聞いただけで、俺のライフゲージが半分以下になった」


 落ち込む俺に、澪は苦笑い。


「夢を壊してごめん。ただね、動物的な部分で魅力的に感じる男性って、実のところ現代では単なるダメ男だったりするんだよ。強く、たくましく、優秀で、女性に不自由しない……。そういう男性って、自信過剰で身勝手、しかも浮気を平然とする嫌な人になりやすいと思う。

 そういう人と付き合ったら、恋心は刺激される面があるかもしれない。でも、一緒にいても女性は嫌な思いをしやすい」

「……悩ましいね」

「そうなの。だからさ、恋愛をするときには、本能的に魅力を感じる相手を選ぶばっかりじゃなくて、少し冷静な目で人を判断することが大事だと思う。

 特別に優秀な人ではない。だけど、優しくて面白くて、一緒にいる時間を心から楽しいと思える……。女性は、そんな人を選ぶと幸せな恋ができると思うんだ」


 澪が目を細めて俺を見つめる。その視線に何か意味があるのかは、俺にはわからない。


「男性もね、とりあえず見た目可愛い女の子ばっかり追いかけるんじゃなくて、女性の中身をよく見た方がいい。可愛い子って、ワガママだったり、男性を見下していたり、性格歪んでることも多いよ。

 そして、一緒にいて幸せを感じられる相手って、容姿の美しさとは無関係なことも多いはず」

「……確かにそうかも。ただ、例外というか。少なくとも澪の性格は、歪んでないと思うよ」

「……ありがと。そうありたいとは思ってるよ」


 にこりと微笑んだ後、澪は締めくくりにこう言った。


「イメージの中の恋愛と、実際の恋愛には、かなりギャップがあると思う。

 恋人がいるからって必ず幸せになれるわけでもない。初めて付き合った相手と相性抜群なんてこともほとんどない。失敗して苦い経験をしない恋愛も存在しない。

 それに、自分と本当に相性のいい相手を見つけるのには、色んな人と真剣に付き合ってみなきゃいけない。純情一途であれば良いわけじゃなく、たくさんの恋をすることは、浮気をしない限り、奨励されるべきこと。

 恋愛をしていくうち、色んな幻想が壊されることもある。それでもさ、好きな人と心を通わせるって、すごく幸せなこと。夢見た形とは全然違う恋愛を、それでも目一杯楽しんでほしいな」

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