第27話 龍母艦、投下!
魔泉の活動は弱まった。
けれども、魔泉封鎖作戦が終わったわけじゃない。
龍騎士団・騎士団と魔物たちはまだ戦っている。
魔泉が活動を弱めているのも、あと数分だけ。
だからこそ、無線を通してレティス艦長の言葉が響き渡った。
《こちらライラ、魔力のカーテンが弱まったのを確認した。これより作戦は第二段階に移行する。龍母艦、投下!》
鋭い口調と、なんだかとんでもない内容。
レティス艦長が口にした龍母艦とは、あの龍母艦だ。
たくさんのドラゴンと龍騎士を乗せて空を飛ぶ、あの大きな船だ。
あの大きな船を、もっと大きな船であるライラが投下したんだ。
信じられない話だけど、夜明けの空を見上げれば、遥か遠くの空に浮かぶライラと、そこから落ちてくる龍母艦が見える。
「来た来た! 龍母艦だよ!」
魔泉に向かって真っ逆さまに落ちてくる龍母艦こそ、魔泉封鎖作戦の主役だ。
要塞ぐらいに大きな龍母艦を空に浮かべるのは、龍母艦の船内に置かれた巨大魔法石。
その魔法石に魔法陣を彫り込み利用すれば、大規模石化魔法が発動できる。
そして大規模石化魔法を発動した龍母艦を魔泉に投げ込めば、魔泉を封鎖できる。
つまり、空から落ちてくる龍母艦こそが、魔泉を封鎖する鍵になるんだ。
絶賛落下中の龍母艦を眺めていると、フィユが教えてくれる。
《あの龍母艦ってぇ、魔泉暴走初日の戦いでぇ、クーノが助けた龍母艦だよねぇ》
「え!? そうなの!?」
《そうだよぉ。損傷が激しくてスクラップが決まってたけどぉ、まさかこんな使い道があったなんてねぇ。あの時にクーノが命令違反してくれてぇ、助かったよぉ》
「でも、せっかく助けたのに、なんか複雑だよ……」
ま、あの龍母艦に乗ってた人たちは助かったんだし、それで良しとしよう。
これからは、龍母艦を守るのがわたしたちのお仕事だ。
さっそく龍母艦を守ろう、と思えば、チトセが付け加える。
《元の世界に戻る2機の輸送機も来てるからね》
「あ! そうだった!」
《やっぱり忘れてるよ……確認しておいて良かった……》
危ない危ない。
チトセたちが元いた世界に戻るための輸送機も、龍母艦と一緒に魔泉に突っ込むんだよね。
うん、輸送機たちも守らないと。
新しいお仕事を前に、リディアお姉ちゃんの掛け声が無線機を巡った。
《龍母艦と二機の輸送機、なんとしてでも守り通すわよ!》
《了解したよぉ》
《了解》
「分かった~!」
掛け声と同時、わたしたちは散開する。
目指す先は、龍騎士団と戦っている魔物たちだ。
魔物たちの背後につけば、握りしめた炎魔杖で攻撃、魔物たちを霧に変える。
眷属さんたちも戦場にやってきて、わたしたちをお手伝いしてくれた。
さっきとは違って味方もたくさん。
ふらふらと自由に空を飛んでいるだけでも、魔物の数は減っていく。
「わたしたち航宙軍に第3飛龍隊、エヴァレットさんの第1炎龍隊、騎士団のみんな! これなら勝てるよ!」
《そう楽観したいところだけど、『紫ノ月ノ民』も本気を出したみたいだよ》
クールなチトセの言葉を聞いて、わたしは魔泉に視線を向けた。
すると、魔泉の孔の縁から、落ち葉の絨毯に風が吹き付けたみたいに大量の魔物が飛び立つ光景が目に入る。
あんまり魔物が多すぎて、眷属さんたちの印をつける作業は追いついていない。
データリンク装置は赤一色だ。
これにはみんなも呆れたり驚いたり。
《めちゃくちゃな数だねぇ》
《これだけの数の魔物、一体どこに隠していたのかしら!?》
もしかして、本当に世界を滅ぼすつもりなのかな。
そう思っちゃうくらいに、魔物の数は多かった。
青い魔力のカーテンに代わって現れた、黒い魔物のカーテンに、みんな絶望気味。
ただし、レティス艦長だけは余裕っぽい。
《大丈夫だ。今回は我々がいるからな》
その言葉と一緒に降ってきたのは、緑色の光の雨だった。
光の雨は大量の魔物を貫き、霧の壁を作り出す。
「わわわ! な、なに今の!?」
《ライラの攻撃だよ!》
「え!? 今の光の雨みたいなのが、ライラの攻撃!?」
もしかしてライラ、めちゃくちゃ強い?
うん、長距離戦ならきっと、ライラは無敵かも。
《異世界からやってきた、航宙軍の戦力はすさまじい、な》
英雄エヴァレットさんまで驚いてるんだから、やっぱりライラはすごいんだね!
ライラの攻撃のおかげで、魔物たちは数を減らした。
それでも、生き残った魔物は数百匹いる。
なら、わたしたちの出番だ。
「チトセ!」
《うん》
わたしたちは魔物を追って高度を上げた。
そんなわたしたちに続いて、龍騎士団のみんなも高度を上げる。
魔物たちは、わたしたちには目もくれずに龍母艦へ直行。
となれば、まずは魔物たちを引きつけないとだね。
「魔物さんたち! こっちだよ~!」
「がう~!」
がむしゃらに炎魔法を散らせて、わたしは魔物さんたちを挑発する。
さらにチトセの戦闘機が猛スピードで魔物たちを追い越し、龍母艦から距離を取る。
いよいよ魔物たちは我慢できなくなったらしい。
一部の魔物たちはチトセの戦闘機を追った。
これはチャンスだ。
「龍母艦は壊させない!」
すかさずわたしは炎魔法を乱発する。
それを合図に、龍騎士団のみんなも炎魔法や爆裂魔法を放った。
夜空を明るく照らす魔法の束は魔物を包み込み、チトセの背後はお祭り状態に。
これで魔物の一角の殲滅に成功だね。
「次はこっち!」
《オッケー》
続けて同じように、魔物の注意を引き、魔法の一斉発射で魔物を殲滅。
これを何度か続けて、龍母艦に迫る魔物の数を順調に減らしていく。
夜明けの静かな空とは思えない派手な空に、わたしは楽しさでいっぱいだ。
「眷属さんたちも無人戦闘機も、ライラも大暴れだね!」
《それ以上に、私たちの方が暴れてるけどね》
「うん! チトセの言う通り!」
空を盛り上げるために、もっともっと暴れちゃおう!
わたしはみんなを置き去りにし、チトセと一緒に炎魔法をばらまいた。
「うりゃうりゃ!」
見えた魔物は全部、霧に変えていく。
それでも魔物は、魔泉の縁から次々と湧いて出てきた。
だったら、次々と魔物たちを攻撃しちゃえばいい。
わたしは右手に炎魔杖、左手に爆裂魔杖を握り、同時に炎魔法と爆裂魔法を放った。
「うおりゃー!」
空を駆け抜ける炎と、空を飾る火球。
勢い余ったわたしとユリィは、うっかり魔物の群れを追い越しちゃう。
すると、わたしたちのすぐそこを龍母艦がすれ違った。
《龍母艦の魔泉到着まで、あと3000メートル》
ライラからの報告を聞いて、わたしは急いで急降下する。
矢継ぎ早に、今度はリディアお姉ちゃんの報告が。
《龍母艦に魔物が張り付いたわ!》
リディアお姉ちゃんの言う通り、魔物が龍母艦の側面を闇の魔法で削っている。
きっと龍母艦が魔泉に近づけば近づくほど、魔物の攻撃も激しくなるはず。
「させない!」
もっと速く、もっと容赦なく。
龍母艦に追いついたわたしは、龍母艦に張り付いた魔物に炎魔法を食らわせた。
焼かれた魔物は霧となり、龍母艦の側面から魔物はいなくなる。
だけど、フィユは焦ったように言った。
《まずいよぉ、龍母艦、炎上中だよぉ》
これは本当にまずい。
今のわたしに、龍母艦の炎を消す術はない。
どうしようどうしよう、と思っていると、一人の龍騎士さんがやってきた。
「トリオン!?」
《私だって、これでも龍騎士学校首席卒業なんだから!》
力強く叫んで、トリオンは水魔法を発動した。
トリオンの魔杖から吹き出した水は、龍母艦を燃やす炎の勢いを弱めさせていく。
これで危機は脱したね。
《龍母艦の消火はトリオンに任せよう!》
「そうだね! わたしたちは魔物を倒そう!」
わたしとチトセは、急降下を続けたまま魔物の撃退を再開させた。
さあ! もう龍母艦を燃やさせはしないよ!
《あと2000メートル》
部品をばら撒き落ちていく龍母艦と一緒に、わたしたちは魔物を攻撃し続ける。
辺り一面は魔法が飛び交い、霧が漂っていた。
地上の大きな孔――魔泉はどんどんと近づいてくる。
《こちら輸送機! 敵が殺到してきた!》
「待ってて!」
少し龍母艦から離れ、輸送機に群がる魔物に炎魔法を打ち込む。
攻撃は間に合ったみたいで、輸送機は無傷のまま魔泉に向かった。
《あと1000メートル》
地上から〝降ってくる〟魔物の数は増えるばかり。
でも、だからなんていうことはない。
わたしはいつも通り、楽しく空を飛ぶだけ。
《あと500メートル》
このままだと、わたしまで龍母艦や輸送機と一緒に魔泉に突入しちゃう。
だからそろそろスピードを緩め、水平飛行に戻らなきゃいけない。
それなのに、魔物のカーテンはさらに厚くなった。
「また魔物の群れ!?」
「がう!?」
あの魔物の群れ、放置して大丈夫かな?
《あと100メートル》
たったそれだけの距離を前にして、魔物は魔泉に蓋をするように広がった。
まさか、自分たちの体で龍母艦を受け止める気!?
「させるかぁあああ!!」
《クーノ!?》
「うおりゃああぁぁ!」
わたしはユリィを急減速させながら、魔物たちに向かって爆裂魔法を放つ。
爆裂魔法は、大規模石化魔法を発動し光り輝く龍母艦を追い越した。
そして、魔泉を蓋する魔物の群れの中心にぶつかり、大爆発を起こす。
と同時に、2機の輸送機が魔泉の孔に消え、光の塊となった龍母艦が魔泉に到達した。
《龍母艦、突入!》
そんな報告が聞こえた時、わたしとユリィはなんとか急上昇をはじめる。
背後に迫る光は、大規模石化魔法の光だ。
あの光に巻き込まれたら、わたしたちは石に変えられちゃう。
「わたしは、あの空に、戻るんだああ!」
手を伸ばせば届く場所に、楽しい空があるんだ。
なら、手を伸ばせばいいんだよね。
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