第11話 最後にベッドで寝たのはいつだろう?
お風呂を出たわたしたちは食堂にやってきた。
街にあったご飯屋さんは有料だけど、この食堂なら無料でご飯が食べられるらしい。
食堂の机には、お米と謎の茶色いソース(?)が並んだご飯が置かれる。
リディアお姉ちゃんとチトセはスプーン片手に笑顔を浮かべた。
「今日の夕ご飯はカレーね」
「そっか。今日って金曜日だったもんね」
この謎のご飯、カレーとかいう名前らしい。
カレーから漂ういい匂いに、わたしのお腹が鳴った。
もう我慢できない。
わたしとフィユはおそるおそる、カレーを口に運んだ。
カレーを口にした瞬間、わたしもフィユも表情を変える。
「あったかい! 辛い! 美味しい!」
「スパイスが効いてるねぇ。この複雑な味、クセになりそうだよぉ」
こんなに美味しいもの、はじめて食べた。
今までに味わったことのない美味しさに、わたしのスプーンは止まらない。
気づけばお皿は空になっている。
「おかわり!」
「もう食べ終わったの!?」
「私もぉ、おかわりぃ」
「フィユも早い!」
なんだかチトセが驚いているけど、仕方ないよね。
こんなにおいしいご飯、おかわりしなきゃ絶対に損だよ。
2杯目のカレーもあっという間に平らげ、お皿はまた空に。
「美味しかった~」
「私はぁ、もう1杯欲しいなぁ」
異世界の料理は想像以上の美味しさだった。
カレーがある世界で育ったチトセが羨ましい。
ライラでの生活がはじまったら、なんだか太っちゃいそうな気がしてきたよ。
さて、フィユが5杯目のカレーを食べ終え食事の時間が終わると、リディアお姉ちゃんが立ち上がった。
「夕ご飯も終わったことだし、二人の新しい自室に案内するわ」
「私は寝る準備するから、またね」
チトセは手を振り食堂を出ていく。
わたしとフィユは、言われた通りリディアお姉ちゃんに自室へ案内してもらった。
* * *
案内してもらった自室は、飾り気はないけど快適そうなお部屋だった。
けれどもわたしは、パジャマに着替え、お布団を担いで自室を出る。
ライラの地図とにらめっこしながら向かったのは格納庫だ。
戦闘機がずらりと並ぶ格納庫の扉は開かれ、格納庫内は白ノ月明かりに照らされていた。
開かれた扉、夜空の近くでは、ユリィがワラに寝そべりくつろいでいる。
「やっほ~ユリィ」
「がう~」
「なんだかミニ龍舎ができてるね」
「がうがう~」
水飲み場に餌置き場、ワラのベッドに、ユリィお気に入りの飾りが置かれた棚。
龍母艦にあったユリィの龍舎が、そのまま引っ越してきたみたいだ。
翼をたたみ尻尾を丸めたユリィは快適そう。
布団を担いだままユリィのそばに近寄れば、チトセの声が聞こえてきた。
チトセは布団を担ぎ、ユリィの隣に駐機する戦闘機に寄りかかりながら、ミニ龍舎を眺めて言う。
「そのミニ龍舎、レティス艦長が魔物退治を手伝う報酬として龍騎士団からもらってきたやつだよ」
「へ~」
またレティス艦長に感謝しないといけないことが増えちゃった。
と同時に、ちょっとした疑問が爆発する。
せっかくだから、戦闘機のそばで布団を担ぐチトセに質問してみよう。
「質問! レティス艦長はなんでそこまでして、わたしたちを航宙軍に呼んだの?」
「レティス艦長によると、クーノはわたしと一緒に完璧に飛べたから、フィユは第3飛龍隊で最も他人に合わせて飛ぶのがうまいから、だって」
「どうして? どうしてクーノと一緒に飛べたり他人と合わせて飛べたりしたら、航宙軍に呼ばれるの?」
「私もあんまり詳しくないんだけど、レティス艦長は将来的に龍騎士団との統合部隊を作りたいらしくて、その準備段階としてクーノとフィユを航宙軍に配属させた、ってのが理由だってリディアから聞いたよ」
「そっか、よく分かんないや」
「だろうと思った」
チトセはおかしそうに笑う。
わたしとしては、空を飛べればなんでもいいんだ。
なんでレティス艦長がわたしたちを航宙軍に呼んだのかは、ふわっとした答えで十分。
それよりも気になるのは、戦闘機のそばで布団を担いだチトセだよ。
こっちについても質問してみよう。
「ところで、チトセは何してるの? なんで布団を担いでるの?」
「それは私のセリフ。クーノだってかわいいパジャマ姿で布団を担いでるじゃん。リディアに自室を案内されたんじゃなかった?」
言われてみれば、わたしもチトセと一緒の状態だった。
まあ、これにはきちんとした理由がある。
担いだ布団を体に巻き、夜空に視線を向け、わたしは答えた。
「わたしね、ユリィと一緒に空を眺めながらじゃないと眠れないんだ」
「ああ、なるほど。クーノは本当に空が好きなんだね」
「うん! その通り!」
力強くうなずき、続けてわたしはもう一度、チトセに尋ねた。
「で、チトセは何してるの?」
すると、チトセは戦闘機に手を当て答える。
「私もクーノと似たような感じ。私、戦闘機の近くで寝たいんだよ」
「つまり、チトセは戦闘機が大好きってことだね!」
「まあ、そうなるね」
小さく笑ったチトセは、輝いた瞳を戦闘機から離そうとしなかった。
まるでドラゴンと一緒にいる龍騎士さんみたい。
ここでふと、わたしは何の脈絡もなくポケットの中身を思い出した。
ポケットから取り出したのは6本足玉ねぎだ。
「忘れてた! はいユリィ、大冒険のお土産だよ!」
「がう? がうぅ~!」
「本当に6本足玉ねぎもらって喜んでるよ」
チトセの言う通り、6本足玉ねぎを見たユリィは翼をパタパタさせて喜んでいる。
こんなに喜んでくれると、わたしまで嬉しくなってくるよ。
6本足玉ねぎを棚に置けば、わたしはお布団に巻きついたままユリィのお腹に横たわった。
「よいしょっと」
「がうがう~、がうがう~」
「今日もお疲れ様」
「がうぅ~」
「はわ~」
ユリィのもふもふに埋もれると、なんでこんなに幸せなんだろう。
チトセは、ユリィのもふもふに埋もれていくわたしをじっと見つめている。
でもすぐに、戦闘機の翼の下に置かれたデッキチェアに横たわり、担いでいた布団にくるまった。
わたしは、もふもふに沈みながらチトセに言う。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
挨拶が済むと、チトセはあっという間に眠りについた。
ユリィも寝息を立て、一人になったわたしは空を眺める。
これからライラでどんな生活が待っているんだろう。
これから飛ぶチトセとの空はどんな空なんだろう。
いろんな楽しみを胸に抱いているうち、気づけばわたしも眠りについていた。
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