第10話 あったかいは正義だよ
リディアお姉ちゃんの解説を聞きながら廊下を歩いている時だった。
わたしは不思議なマークが入り口に描かれた部屋を発見する。
「うん? リディアお姉ちゃん! あそこはなに?」
「あそこはお風呂よ」
「お風呂! じゃあじゃあ! みんなでお風呂、入ろ~!」
せっかく見つけたお風呂だ。
スルーすることなんてできない。
お風呂の入り口でみんなの反応を待てば、フィユとチトセも足を止めた。
「異世界のお風呂かぁ。私も入ってみたいよぉ」
「私も後で入ろうと思ってたから、ちょうどいいかな」
どうやら二人も乗り気みたい。
こうなれば、リディアお姉ちゃんも足を止め、片腕を上げて言い放つ。
「よおし! それなら、みんなでお風呂に入りましょう!」
「わーい!」
願いが叶い、わたしは駆け足でお風呂の入り口をくぐった。
入り口の先にあったのは、たくさんの棚が並ぶ部屋だ。
棚の中にはカゴが置かれている。
遅れてやってきたリディアお姉ちゃんは、お風呂場に突撃しようとするわたしを捕まえ教えてくれた。
「服はここで脱ぐのよ」
この棚がいっぱいある部屋は更衣室らしい。
ここでタオルに身を包むのかな。
なんて思っていたら、チトセとリディアお姉ちゃんはなんの躊躇もなく服を脱ぎ出す。
何も隠されていない二人の裸を前に、わたしは思わず叫んだ。
「チ、チトセ!? リディアお姉ちゃん!?」
「どうしたの?」
「何かしら?」
「全部脱いじゃうの!? 人前なのに!?」
すると、リディアお姉ちゃんは裸のまま腰に手を当て、いつものように教えてくれる。
「チトセちゃんの故郷では、お風呂に入るときは人前でも全部脱ぐらしいの。ライラではその様式でお風呂に入るのよ」
「そうなんだ……」
ずいぶんと大胆な様式だね。
でも、それがライラでの様式なら仕方がない。
意を決して、わたしも服を脱ぎ捨てた。
「えい!」
恥ずかしいと思ったのは一瞬だけ。
いざ全部をさらけ出してみると、もうなんか、どうでもよくなってきた。
わたしは堂々と仁王立ちをしてみる。
そんなわたしの背後で、フィユが服を脱ぎながら鼻息を荒くした。
「はわぁ……ここは天国だよぉ……」
こうしてわたしたちは全員、隠し事なし。
それにしても、フィユとリディアお姉ちゃんの胸、すごく大きい。
対するわたしの胸は、スイカ売り場に紛れ込んだ板みたいだ。
ちょっぴり悔しい気持ちを抱えてチトセに視線を向ければ、そこにもちっちゃな胸が。
どことなくわたしと似たような表情を浮かべるチトセに向かって、わたしは言う。
「……あのさチトセ」
「うん」
「わたしたちは仲間だよね!」
「もちろん」
力強くうなずくチトセ。
頼れる仲間と一緒に、わたしはいよいよお風呂場に突撃する。
更衣室とお風呂場を隔てる扉を開ければ、湯気に包まれる、池のように広いお風呂がわたしたちを待っていた。
「おお~! お風呂場、広い!」
白のタイルを踏み込み、わたしはお風呂に飛び込もうとする。
けれどもリディアお姉ちゃんは、そんなわたしを捕まえ、優しい笑みを浮かべた。
「まずは体を洗いましょ」
ずるずると引きずられ、わたしは鏡の前に置かれた小さな椅子に座らされる。
隣では、チトセがボトルから泡を取り出していた。
真似してボトルから泡を取り出してみると、わたしの手はあっという間に泡の中に。
「おお~! あわあわだ~!」
見たこともないようなあわあわにプチ感動。
そこでふと思い立ち、わたしはチトセの背後に立つ。
「ねえねえチトセ! 頭洗ってあげる!」
「え? ああ、うん、お願い」
チトセは目をつむった。
わたしはあわあわでチトセの頭を包み込む。
あとはここをこうすれば――
「できた! ねえチトセ、鏡を見てみてよ」
「うん? どうして鏡を――プフッ」
2本のツノが左右にまっすぐ生えた自分を見て、チトセは盛大に吹き出す。
しばらくして泡をお湯で流せば、チトセは涙目になりながら拳を握った。
「こんなので笑っちゃうなんて、なんか悔しい。次は私がクーノの頭を洗う番!」
「えへへ~、なんか楽しみ」
目をつむると、さっそくチトセの手がわたしの髪をいじり出す。
だんだんと頭が泡に包まれていく感覚に、わたしはゆったり気分。
ゆったり気分に浸っていると、チトセが自信ありげに言った。
「ほらクーノ、鏡見て」
「ほえ?」
言われた通り鏡を見てみれば、わたしの髪はごちゃごちゃとしていた。
ごちゃごちゃ、としか形容できない髪型に、わたしは首をかしげる。
「ううん? この変な髪型、なに?」
「頑張ってボケたんだから笑って! なんか悔しいじゃん!」
再び拳を握るチトセ。
そんなわたしたちを眺めるフィユとリディアお姉ちゃんは、ほんわかとした表情だ。
「あの二人、楽しそうだねぇ。裸の女の子が二人でイチャイチャ……ムフフゥ」
「悔しそうにしてるチトセちゃん、かわいいわ。なんとかして撮影を……グヘヘ」
すっごく怪しい笑みを浮かべてるけど、まあ気にしない。
頭を洗い、体を洗ったわたしたちは、いよいよお風呂に浸かった。
全身がお湯に包まれ、いつの間に溜まっていた疲労は一瞬で消えていく。
「はあぁ……あったか~い」
「やっぱりお風呂は気持ちいいな~」
「そうね~」
「天国だぁ~」
びっくりするぐらいの夢心地。
わたしはふんわりとしながらチトセに話しかけた。
「チトセ~」
「なに~」
「泳いでいい~?」
「ダメ~」
「え~」
「当然でしょ~」
こんな感じで、わたしたちは十数分間を天国のふんわり空間で過ごすのだった。
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