第4話 異世界人、はじめて見た!

 チトセと一緒に飛んだ空のことを師匠に教えると、師匠は目を輝かせた。


「すごいじゃん! クーノと一緒に空を飛べる人なんて、それだけで驚き!」


「わたしもびっくりした! あんな風に空を飛んだこと、今まで一度もなかったもん!」


「そりゃそうでしょうね。クーノはあたしが鍛えた自由奔放な龍騎士さん。そんなクーノについていける子なんて、そうそういないって」


「えへへ~」


 褒められたわたしは、後ろ頭をかきながら照れてみる。

 師匠は白い歯をのぞかせ腰に手を当てた。


 今の師匠は、わたしよりも別の物に興味があるみたい。

 せんとーきを見つめた師匠は、子供みたいな顔をしていた。


「それにしても、このせんとーき? とかいうのは、どんな仕組みで飛んでいるの? ドラゴンじゃないんでしょ? 鳥でもないんでしょ?」


「生き物じゃないみたいだよ! ってことは、この鉄の鳥さんは機械?」


「機械が空を飛ぶ、か。いいね、あたしも乗ってみたい」


「わたしも!」


 せめてせんとーきに触ってみたい。


 でも、チトセに黙って触ってもいいのかな?

 いやいや、触るぐらいなら大丈夫だよね、きっと。


 わたしと師匠はゆっくりとせんとーきに手を伸ばした。

 と同時、背後から声が聞こえてくる。


「二人は昔から、お空が大好きですねぇ」


 いきなり声をかけられてビクッとするわたしと師匠だけど、声の主はフィユだった。

 安心したわたしと師匠は、フィユの呆れたような言葉に答える。


「もちろん! だって、空は未知の世界だもん!」


「そんな空で戦う楽しみ……むしろ好きにならない理由が分からない!」


「さすが龍騎士団の問題児と混沌ですよぉ」


 これでフィユの苦笑いを見るのは何度目だろう。


 フィユに苦笑いを浮かべられているうち、甲板にイケメンな女の人が戻ってきた。

 イケメンな女の人の隣に立つ龍母艦の艦長は、船員たちに向かって大声を出す。


「皆の者、聞いてくれ!」


 大声を聞いた船員たちが集まると、艦長は話をはじめた。


「異世界人、と言えば皆も聞いたことぐらいあるだろう。膨大な魔力のいたずらにより、異世界の人間がここアオノ世界に転移してしまった事例だ」


 それならわたしも聞いたことがある。

 たしか龍母艦の概念を作り出したのも異世界人だったはず。

 う~ん、学校の授業は真面目に受けたことないから、それ以外のことはよく分からない。


 艦長は話を続けた。


「どうやら、あの謎の船は異世界転移によって現れたものらしい。少なくとも、このレティスさんの話を聞いている限り、そうとしか思えない」


 待って、それってつまりは、チトセやイケメンな女の人は異世界人ってこと!?


「異世界人!? すごい! はじめて見た!」


「クーノ、大はしゃぎだねぇ」


「あの巨大船とせんとーきが異世界からやってきた乗り物……面白い話ね」


 異世界人と謎の船が繋がり、みんなも納得した様子だ。


 艦長の話が終わると、イケメンな女の人が一歩前に出る。

 そしてマントを風になびかせ、鋭い笑みを浮かべた。


「あらためて、地球連合航宙軍オリオン第7艦隊旗艦ライラの艦長レティスだ。先ほど彼女が述べたように、我々はどうやら異世界転移をしてしまったらしい。おとぎ話のような話だが、おとぎ話のような景色を見る限り、これは認めざるを得ないだろうな」


 イケメンな女の人――レティス艦長も、自分が異世界人であることを認めている。

 すごい、わたしは本当に異世界人と出会っちゃったんだ。


 みんなもザワザワしはじめる中、レティス艦長は言葉を続ける。


「元の世界に戻る方法は不明、というより、異世界人が元の世界に戻れた事例はないと聞く。ならば、我々はここアオノ世界で暮らすことを考える必要がある」


 そこまで言って、レティス艦長は空を眺めた。


「どうやらこの世界には魔物という存在の脅威があると聞いた。我々もすでに魔物と交戦したが、なかなかに手強い相手だ。そこで我々は、龍騎士団に力を貸すと決めた。龍騎士団のみんな、共に戦おう。なあに、我々と龍騎士団が組めば魔物など相手じゃないさ」


 鋭い笑みと余裕の表情、力強い言葉。

 なんだろうあの人、すごくかっこいい。


 船員のみんなもレティス艦長の笑みにメロメロだ。

 特にフィユは鼻息が荒くてちょっと怖い。


 龍母艦の艦長は咳払いし、話を再開させる。


「コホン。それでだ。航宙軍と共闘するにしても、お互いの戦い方を知らなければどうしようもない」


「こういうとき、お互いに相手のことを知るいい方法がある。それは、模擬戦だ」


 そう言ってレティス艦長が手招きすると、チトセがレティス艦長の隣に立った。


「我々の模擬戦代表は、このチトセだ。チトセは強いぞ。我々の期待の新星だからな」


「よろしくお願いします」


 褒められているのに無表情を貫き通して挨拶するチトセ。

 レティス艦長は龍母艦の艦長をつついた。


「龍騎士団は、一体どんな子が戦ってくれるんだ?」


「私たちの模擬戦代表はこの子だ。第3飛龍隊の隊長トリオン。龍騎士学校を首席卒業した優秀な龍騎士だ」


「なるほどね。チトセ、容赦は不要、後は任せたぞ」



「了解です」


 短くクールに答えて、チトセはせんとーきに乗るためこっちにやってきた。

 よし、これはチャンスだ。


「チトセ!」


「なに?」


「せんとーき、触らせて!」


「え、今それ言う?」


 心の底から呆れたような表情をチトセは浮かべていた。

 それでも彼女はすぐに無表情に戻り、クールに言う。


「後でね」


「分かった! 約束だよ!」


「うん」


 せんとーきに乗り込んだチトセはガラスを閉じた。

 直後にせんとーきは轟音を鳴らし、その場からゆっくりと宙に浮く。


 反対側では、トリオンがドラゴンの背中に乗り、大空へと羽ばたいていた。


 これからはじまる模擬戦で、チトセは何を見せてくれるんだろう?

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