第3話 航宙軍パイロット?
魔泉から離れた山脈の上空を飛ぶ援軍の龍母艦に、わたしとユリィは着艦する。
着艦し艦内に足を踏み入れたわたしを待っていたのは、顔を真っ赤にした上官だった。
「龍騎士の恥さらしめ! 貴様の命令違反はこれで何度目だ!? 今日という今日は――」
そしてはじまるお説教は、その後数十分も続いた。
お説教というよりも、単に怒鳴られていただけなんだけど。
やっと説教が終われば、わたしは気分転換のために甲板に戻る。
「空が眺められるいい場所はどこかな?」
甲板に立って辺りを見渡せば、見えるのは人だかり。
人だかりに混じって、お菓子を右手に持った、軍服のジャケットの代わりにおしゃれなソフトジャケットを羽織る、癖毛が特徴的なフィユの姿が見える。
わたしはフィユの肩を叩いた。
「ねえ、みんなどうして集まってるの?」
「おやぁ、こっぴどく叱られてたクーノじゃないかぁ。いやねぇ、あれを見てごらんよぉ」
そう言ってフィユは人混みを指さした。
彼女が指さした先を確認するため、わたしは人混みを押しのける。
人混みを押しのければ、人だかりができていた理由に納得。
龍母艦の隣には、あの謎の船が飛んでいた。
「おお~!」
体を乗り出し眺める謎の船は、やっぱり未知の存在だ。
城塞がそのまま宙に浮いているような、鉄と大砲に包まれた立派すぎる船。
上官に怒鳴られたことも忘れたわたしは、謎の船から目が離せなかった。
わたしの隣にやってきたフィユは、いつもの苦笑いを浮かべる。
「楽しそうな表情をしてるねぇ。ちょっとぐらいは怖いとか、思わないのぉ?」
「思わないよ! だってあの船には、鉄の鳥さんがいるんだもん!」
「鉄の鳥さんって、さっきのぉ?」
「そう! 全身が鉄でできてて、三角形の翼が生えてて、大きな音が――」
「それってぇ、あれぇ? ウワサをすればだねぇ」
今度はお菓子を食べながら空を指さしたフィユ。
またも彼女の指さした先を見てみれば、そこには轟音を鳴らす鉄の鳥さんの姿が。
「いた! おーい!」
再び鉄の鳥さんと会えたことに大喜びしたわたしは、鉄の鳥さんに手を振る。
そのおかげか、なんと鉄の鳥さんは、太った鉄の鳥さんと一緒にこっちにやってきた。
龍母艦のみんなは焦り出す。
「強制着艦する気か!? 全員、警戒態勢!」
「相手がどんなヤツか分からん! 早まって攻撃はするなよ!」
武器を持ち、騒がしくなる龍母艦の兵士たち。
けれども鉄の鳥さんと太った鉄の鳥さんは気にせず、ゆっくりと、本物の鳥が止まるように甲板に着艦した。
「大変なことになったねぇ」
「一体どんな人たちが乗ってるのかな?」
みんなは警戒心マックス、わたしはワクワクマックスで2羽の鉄の鳥さんを眺める。
すると、太った鉄の鳥さんから数人の人たちが出てきた。
出てきた人たちの先頭に立つのは、かっちりとした軍服姿にポニーテールとマントを揺らした、イケメンな女の人だ。
イケメンな女の人は、鋭い笑みを浮かべて声を張り上げる。
「皆、冷静に聞いてくれ! 私たちは銀河系地球連合航宙軍だ! そちらへの攻撃の意思はないから、安心してくれ!」
言葉に真実味を持たせるように、イケメンな女の人は丸腰であること示す。
フィユは素直な感想を口にした。
「いいねぇいいねぇ、かっこいい人だねぇ、たまらないねぇ」
「うん、そうだね。でも、鉄の鳥さんに乗ってた人はどんな人なのかな?」
わたしはそっちの方が気になっている。
さっきの戦場で、わたしと一緒に飛んでくれた女の人はどんな人なのか。
鉄の鳥さんを見つめていると、鉄の鳥さんにくっついていたガラスが持ち上がった。
持ち上がったガラスの中にいたのは、濃緑の軍服を着た、キレイな長い黒髪に切れ長な目を持つ、クールな雰囲気に包まれた女の人。
大人びてはいるけど、歳はわたしと同じぐらいっぽい。
「あの人がさっきの……!」
いてもたってもいられず、わたしは鉄の鳥さんのそばに駆け寄った。
黒髪の女の人が甲板に立てば、わたしは彼女の目に前に立つ。
「ねえねえ! さっきの戦い、すごかったね!」
「え? ええと、あなたは――」
「わたしクーノ! 龍騎士団の龍騎士! まだ16歳で、龍騎士になったばかりの新兵だけど、ドラゴンの操縦の腕は誰にも負けないよ!」
「は、はぁ」
「あなたは? 名前は? どこから来たの?」
わたしの質問に対し、黒髪の女の人は困った顔をしながら、それでも答えてくれた。
「私の名前はチトセ。地球連合航宙軍オリオン第7艦隊航宙団第108戦闘飛行隊のパイロットだよ」
「こうちゅーぐん? ぱいろっと?」
よく分からない単語が出てきた。
でも、女の人がチトセっていう名前だってことが知れただけでも十分だよね。
「じゃあじゃあ、この鉄の鳥さんの名前は?」
「鉄の鳥? ああ、これは鳥じゃなくて航宙有人戦闘機だよ。名前はF510CイーグルIVっていうんだけど、通じる?」
「えふごひゃくじゅう? なんだかよく分からないけど強そう!」
名前は覚えられそうにないけど、ともかくすごそう。
分からないことはまだまだいっぱいだ。
わたしは続けて質問する。
「あ! それとね、さっきの戦いの時に連れてた――」
「初対面なのに、すごくグイグイ来るね」
クールな口調で、チトセはピシッとそう言った。
これにわたしが一瞬黙ると、後ろからフィユの声が聞こえてくる。
「ごめんよぉ。この子ねぇ、大空とドラゴンのユリィしか友達いない子だからぁ」
「ああ、なるほど」
なんでそれで納得しちゃうのチトセ!?
フィユもなんてこと言うの!? 事実だから反論しないけど!
なにはともあれ、わたしはチトセに聞きたいことがたくさんあるんだ。
それなのに、タイミング悪くイケメンな女の人がチトセを呼んだ。
「チトセ! ついてきてくれ!」
「了解しました」
呼ばれたチトセは、わたしたちに小さく手を振り、イケメンな女の人と一緒に去っていってしまう。
チトセの背中を眺めながら、わたしは甲板の上で肩を落とした。
そんなわたしの耳に、聞き慣れた声が飛び込む。
「やっ、クーノ」
「あ! 師匠! お帰りなさい!」
いつの間に龍母艦に着艦していたんだろう。
シルバー色の長い髪をかき上げた師匠は、せんとーき(?)を眺めながら目を輝かせた。
「いや~すごいのが現れたね」
「うん! あのチトセっていう人、すごい人だよ!」
「チトセ?」
首をかしげた師匠は、チトセとせんとーき(?)に興味津々な様子だった。
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