第29話 貴族と温泉
ーー 新たな開拓村の出発
次の日から、生まれ変わった開拓村エースが動き始める。
村を囲む城壁は、魔物の進行を全て防げるほどの強さを誇り、壁内の畑は多くの穀物を生産し始めた。
綺麗な水は豊富に湧き出て、何もかもがすっかり変わった。
僕は、この村に新たな産業を興すことにした。
一つは、森を探索している際に見つけた、「石鹸の実」と「シャンプーの実」を使った製品化である。
香りを付ける技術を教え、それらに香りをつけさせるとともに香水も開発した。
もう一つは、鉱石が取れるためガラス製品の製造を行うことにした。
石英と石灰が取れるので、灰を混ぜて溶かし型にはめたり吹きたりして、ガラスを作るのだ。
これらの技術は、職人の努力により以後も高値で取引されるようになった。
「使徒様、ありがとうございました。本当に豊かで安全な村になりました。」
と、カエデが僕達にお礼を言った、その顔は本当に幸せそうだった。
ーー 次の村は、川に悩んでいた。
開拓村エースを旅立った僕らは、次の村に向かった。
そこは、雨が降ると橋が流され孤立する村だった。
その村はエデンと呼ばれ、普段は果物が豊富で水が溢れる生活しやすい村なのだが。
雨が降るとすぐに増水して、外部と繋がる橋を流され孤立してしまうのだ。
エデン村は、大きな川の中にある中洲のような地形で魔物も少なく、増水以外に困ったことはないが、橋が流されると数ヶ月は孤立してしまう。
村人は約200人、村に入ると村長のキュリーさんが出迎えてくれた。
「使徒様お待ちしておりました。」
と迎え入れてくれた後、橋についての話し合いがもたれた。
・橋は、丈夫なものか吊り橋のようなものがいい。
・片方のみに掛けているので、反対側にも橋をかけてほしい。
と言うことであった。
ここで僕は、ある違和感に気付いた。
近くの街の文官が話し合いに同席していたが、今までの橋があまりにも簡単に流されるので、不審に思ったのだ。
文官のメドベさんに聞いた
「今までの橋の工期と予算はどうなっていますか」
と。
すると、村長が答える。
「3〜5ヶ月の後期で、予算は金貨15〜30枚です。」
と、そこで僕はその幅について尋ねると。
またしても村長が、
「流される時期と、材料や人夫の賃金の変動です。」
と答える。
話し合いが終わった後、僕はアーヤとミルに頼み事をした。
さらに教会に立ち寄り、王都への調査として最近の橋建設についての予算書の写しを求めた。
僕は、橋の土台を川の中にもいくつか作ることにし、現代日本の橋梁建設技術を応用した。
魔法でコンクリートのような丈夫なものができるため、20日もせぬうちに土台が完成し、後は橋本体のみとなった。
反対側の橋については、吊り橋タイプにし主に人専用とした。
ちょうどその頃、王都からの回答が来ており僕は、公共事業を食い物にする輩の排除に手を付けたのだ。
アーヤとミルは、その可愛らしい外見から子供や奥様達に人気があり、話をよく聞いて噂話から事実をうまく聞き出してくれるのだ。
怪しいのは、
・村長
・隣街の文官
・出入り商人
で、橋が流れやす過ぎるのと、その際の果物が異常に高騰することがおかしかった。
そこで僕はとても丈夫な橋をかけたのだ。
橋をかけ終わりと、村を出てそっと戻ってくる。
すると怪しいメンバーが集まって、
「偉く丈夫そうな橋だがうまく壊して流れるのか?」
と聞く文官に村長と商人が
「もちろん大丈夫です。明日にでも取り掛かります。」
といやらしい笑いを見せた。
ーー 壊れない橋と実を付けない果物
僕は3人のこの話を召喚獣を通じて聞いていた。
あまりの身勝手さに、怒りがおさまらず僕は、あることを願った。
その後村の橋は、どんなに川が増水しても、流されたり、壊れたりすることがなく。
その後橋は数100年間村の象徴となったが、その代わりに村の中では、果物が実を付けなくなり。
次第に村人が流失して、観光地として僅かな村人と橋だけが残ることになった。
3人については、王都に照会した結果不正が判明し、それぞれ処罰されることになったが、僕にはどうでもいいことだった。
ーー 民を苦しめ贅を尽くす貴族と民と共に生きる貴族
それから僕たちは、国内の領地を回りながら王都に向かったのだが、途中で。
デスリート男爵領と、ライフリー男爵領に訪れた、両貴族領共隣り合いながら全く違う領地であった。
デスリート男爵領は、天候に恵まれ牧畜農耕が盛んな領地であるにもかかわらず。
領主のデスリート男爵が重税を課すばかりで、自分の身勢を尽くす暮らしをしていた。
一方ライフリー男爵領は、天候に恵まれず農作物の生育が良くないが。
領主自ら農作業に汗を出し、民と生きていたため領民は幸せそうであった。
そんな領地を見た時、ミルがこう言った、
「天候が反対になったら、ライフリーの人々はもっと幸せになれそう。」
と。それを聞いた僕は、同じことを願いながら旅を続けた。
その後の二つの領地はと言うと。
デスリート男爵領は、悪天候が続くようになりそれでも重税を課していたため、領民が散逸し領地として成り立たなくなり。
ライフリー男爵領は、穏やかな天候が続くようになり、豊作が続きより豊かで幸せな領地となっる。
いつしかこの地方の人々は、こんな話を子供達に聞かせるようになった。
【あるところに,二人の貴族が住んでいた。
一人の貴族は、勤勉で心優しい男で民のために心を砕いていた。
もう一人の貴族は,意地が悪く自分勝手な男だった。
ある日それぞれの貴族領に一人の子供が現れた。
そして、貴族に出会うとこう言った。
「両親とはぐれ困っています。探してくれませんか。」
と、すると
一人の貴族は、
「それはかわいそうなことだ、一緒に探してやろう」
と言いながら子供の両親を探すと子供はいつの間にか、黄金に代わっていた。
もう一人の貴族は、
「はぐれただと、通行税が払えなければとっとと出て行け!」
と子供をお抱いたすると、子供はドラゴンとなって貴族領を荒らし回った。
困っている人がいたら、親切にするときっといいことが巡ってくる。】
そんなお話であった。
ーー 温泉の街を堪能しよう
ケットシーのミルは、小さな体の割には食いしん坊である。
旅先で露店や峠の店を見かけると、
「美味しそうな匂いがするね」とか
「あれはなんて言う食べ物なの」と
よく口にしている。
僕もその様子がおかしいので、笑顔で答えながら買い与えると、笑顔で頬張っている姿が心をほっこりさせる。
その日もミルが、
「お兄ちゃん、何か卵が腐ったような匂いがするね。」
と言う言葉から始まった。
「ん!これは・・・硫黄の匂いだね。ここらは温泉があるみたいだ。」
と答えると、ミルは
「温泉て何?」
と聞いてきたので、
「多分進めばわかるよ。」
と答えて進むも、寂れたような村や町ばかりで、温泉の気配はなかった。
たまたまこの領地を治める貴族が通りかかり、挨拶に訪れたので。
「領主様、この地で温泉を見かけませんが何故ですか?」
と尋ねると、驚いたような顔で領主が
「この地は有毒な空気が溜まりやすく、作物も人を呼び産業もないので困っておりました。温泉というのはどんなものですか?」
と聞き返すので、温泉がいかに良いものか語りながら。
「僕にに任せてもらえませんか。良い温泉を掘り当ててみますよ。」
と言うと「お願いします。」と逆に頼まれた。
僕は、領内の地形や地下水脈を見ながら温泉を掘るに適切な場所を、3つ見つけた。
それから領民や職人を連れて、温泉の湧く水脈まで穴を掘ると、湧き出た温泉を土管で街や村に引き入れて。
そこに大きく立派な共同温泉を建てたのだった。
当然のように、露天風呂や蒸し風呂、屋内風呂にサウナという施設を作り。
エース村の石鹸やシャンプーを取り寄せると、温泉文化を広めたのだった。
僅か2月ほどの滞在で、ここの領地は温泉男爵領と呼ばれるほど有名になり。
観光地として確立し出したのだが、僕としては,特別に作った。
家族風呂に4人で一緒に入る日々が幸せを感じて癒される思いだった。
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