第6話 オアシーズの街2

ーー 4日後 ー


宿泊している宿に領主の使いが訪れ、明日昼に迎えに来ると面会の用意が整ったことを伝えて来た。

僕はこの4日街の中と周りを歩きながら水脈を確認していた。

どうも水脈が塞がったのは、サンドスネークの繁殖が関係していた様だ。

サンドスネークのメスは繁殖期に巣穴を作るが、それが丁度この街のオアシスの水の湧き出る近くで大きな体で巣穴を作る際に水の通り道を塞いだ様だ。さらに巣穴に多くのオスを従えて向かって来たのがこの間の急襲の真相だ。

今度作る井戸はそれに対応するため複数のイドを掘り、硬い石で周りを固めることが重要であろう。

地図を作り候補の地に印をつけ終わった僕は明日の会見の準備を行った。


ーー オアシーズの領主との会合と街の発展 ー


領主邸は砦と城の中間の様な規模と大きさがあった。馬車で向かい案内に付いて僕と聖騎士のエストレーナ2人が大きな会議室の様な部屋に案内された。

そこには領主と思われる男性と町長、ギルマスが並び数人の文官と騎士が同席していた。

 「早速のおいで心から感謝します。」

領主と思われる男性がそう言うと席を勧めた。

 「お初にお目にかかります、中央教会から派遣されて来ましたカムイと申します。そしてこれがわたし付きの聖騎士エストレーナです。」

と挨拶をして席に着くと、先ほど席を勧めた男性がが改めて

 「私がここの領主をしているドランクス伯爵です。先日はこの街の危ないところをお救いいただき改めてお礼申し上げます。更には兵士などの怪我もお治しいただき感謝に絶えません。」

と真摯にお礼を言う姿が好感が持てた。


その後は列席する者の紹介があり改めて僕のオアシス復元の案が求められた。

 「ここにこの付近の地図があります、これを見ながらお話しします。」

と地図を広げ説明始める僕の地図を見た者がみんな地図の精巧さに目を見張る。

 「この地図には地下を通る水脈が書かれています。青い線がそれで太さで水脈の規模を表していますが深さは200〜300mほどです。この街のオアシスが枯れ始めたのはこの間襲って来たサンドスネークの巣穴が作られたためと分かりました。そこでそれにも対処できる様に三本ほど水脈まで穴を掘り周りを硬い岩盤で強化しようと思っています。地図に✖️が書いている場所がその候補で、現在のオアシスから500mほど離れた場所にもう一つのオアシスを作る予定です。質問があれば答えます。」

と言って僕は皆の顔を見回す。

すると町長が

 「カムイ様この新しいオアシスの位置はこの街の城壁の外に位置しますが間違いありませんか?」

と疑問を口にする、他のものも頷くと

 「間違いありません。ただ街の外ではなく街自体を大きくしてその中に作りますオアシスが二つもできればこの街では手狭になるので。」

と答えると、領主が

 「申し訳ない確認するが今のオアシスの復活は直ぐにできるのか?それとこれはどれくらいの期間と予算を考えているのか教えてもらって良いか。」

と当然の話をされるので

 「今のオアシスの復元は直ぐにでもできます。それと城壁の構築と新たなオアシスの造成は・・約10日ほどで出来ると考えています。予算は工事自体には不要ですただ街の整備や新たな水道設備の敷設では当然予算がかかると思いますが、これからの街の発展を考えれば微々たるものと思いますよ。」

と笑顔で答えると、どう判断したものかと苦慮する伯爵の顔が面白かった。


 「そうですね、僕の言葉が信じられないことも分かりますが国境の村に視察の者を出されたと思いますが報告は聞いていますか?」

と逆に質問すると文官の1人が伯爵に報告書を手渡し内容を説明していた。

 「これは本当か?信じられぬが・・・わかった」

と答え僕に向かい

 「失礼した、貴方のお話は本当のことの様ですしかし奇跡の様なお話で何と言っていいのか」

答えに窮していた、そこで

 「大丈夫です、許可さえいただければ今日からでも作業をしますので誰が監査役を遣わしてもらえませんか?」

と話を進めると町長が

 「領主様、カムイ様に任されてみませんか、私もこの街が生まれ変わる姿を見てみたいと思います。」

と言う言葉で領主の腹が決まった様で

 「お願いする、必要なものは用意するので何でもおっしゃってください。」

と言うことで話し合いは終わった。


すると1人の騎士がエストレーナに声をかけた

 「聖騎士様お願いがあります。この街に滞在する間で結構です我々に稽古をつけて頂きたい。」

と頭を下げた、それに対して僕を見るエストレーナに目配せすると

 「私はカムイ様の聖騎士ですが主の手隙であればお応えしましょう。」

と答えると騎士は大いに喜んだ。


ーー 大公共事業の始まり・・1人で ー


僕に付けられた文官は2人それと警護の騎士2人、先ず新たなオアシス用の穴を掘る。

地図を見ながら何も無い砂漠の一角に手をつき具体的な大きさと深さおよび周りの壁の強度を想像し魔力を練り発動する。

たちまち僕を中心として半径250m程のすり鉢状の穴が姿を表す、驚く文官たちを尻目にここから一番近い水脈に向けて土魔法で穴を開けていく。

水脈まで抜けるのに今回は約4時間で穴が空いた、先日の村の作業で能力が上がった様だ。

勢いよく水がすり鉢状の穴に噴き出す、貯まるにはしばらくかかるので穴の周りを固めてゆく。

その後は以前のオアシスまで向かい塞がった部分を再度穴を開け水の通り道を戻すがこの穴は浅い部分なのでさらに地図に印をつけていた水脈に向けて穴を開け始めると今度は2時間ほどで穴が空いた。

その日はこれで作業終了、明日朝早くから始めると言い残し宿に帰る。


ーー オアシーズの領主の文官 セラーズ、スミス ー


今日私たちは、女神の奇跡を目の前で目にした。

以前からあるオアシス以上の大きさの穴が目の前であっという間に出来上がった。土魔法で穴を開けることができるがそれは穴という程度のもの、これはアナというには巨大すぎる。

さらに驚いたのはその壁面、大理石の様な岩盤の壁が全てを囲っている。そして更に4時間ほど地中に向かい魔法を行使していると思っていたら勢いよく水が噴き出して新たなオアシスを満たし出したのだ。


そして休憩することもなく枯れかけ始めたオアシスに向かうとすぐに湧き水が湧き出し、約2時間ほどで新たな湧き水が以前以上の勢いで湧き出した。


カムイ様は「今日はこれまでまた明日早くから始めるから」と言い残すと宿のほうに歩いて帰られた。

私は、街づくりや河川の設計などである程度の自信があったがこの様な神の奇跡の様な工事は見たことも聞いたこともない。

一緒にいたスミスも声にならない驚きでオアシスを見ていた。

 「スミスよ、この湧き出る水を見ると本当にオアシスが復活したのだと実感するけど、さっき見た新たなオアシスは今でも信じられないんだ。」

と言うとスミスも

 「私も同じです。人の姿をした神と言われた方が納得いきます、子供の姿ではあまりにもギャップがありすぎて・・・」

と同じ様な感想を口にした。


ーー 次の日 ー


朝早くから新しいオアシスの場所に行くと半分ほど水が溜まっていた。

もう一本水脈に穴を繋げてと思い計画通り穴を掘ると今度は少し狭い穴にしたので約1時間で開通した。するとみるみるうちにオアシスは水で満たされた。

 新しいオアシスを囲む様に新たな城壁を土魔法で作ってゆく。文官や騎士の驚く顔を見ながら約10kmの長大な城壁を新たに以前の城壁に接合する。


不要になった以前の城壁部分を分解し土に返すと新たなオアシスから溢れる水を引き込む水路を街に通してゆく、直径2mほどの水路はあれよあれよと言う間に50m単位で伸びてゆく。

新しいオアシスの場所はこの町で言うと一番高い位置だったので少しずつ傾斜をつけて水路を掘るだけで水は問題なく流れた。

以前からある水路も水が溢れ出していたので、そこからも水路を繋ぎ町中の道沿いに水路を通してゆく。要所要所以外は石の蓋を被せながら水路が完成したのが夕方頃、城壁の周りに堀を作るのは明日にして今日の作業は終了する。


ーー 更に次の日 ー


今日は城壁の周りに広く深い堀を作り溢れ出た水を流し込み、防衛と周りにできるであろう畑や森の水源とする予定だ。

長さ約25kmの城壁を囲う深さは5m幅10mの堀を作るのに流石に5時間ほどかかったがいい出来だと思った。

街道と繋ぐ位置に跳ね橋になる橋を掛け今日の作業は終了する。

文官たちに

 「水が溜まるのに2日程かかるだろうから明日明後日は休みにします。明日と明後日は兵の訓練を見学に行きますので宜しく」

と言うと騎士の2人が

 「有難うございます、すぐに団長に伝えておきます。」

と言い走り出して行った。


ーー 文官セラーズ ー


毎日のようにこの世のものと思われない奇跡の作業を見ていた私は、僅か3日でほとんどの作業が終わるとは思っていなかった。

だから伯爵への報告は5日目ほどに考えていたがとてもじゃ無い、直ぐに報告書を書いて出さなければ騎士たちに続いて私たちも走り出していた。

しかし最後の城壁を囲う堀には改めて驚いた。先日の話ではそのような計画は聞いていなかったが確かにあの規模の堀があればこの街はとても安全だと思える。

砂漠の魔物は水が苦手なものがほとんどなのでこれで魔物が襲ってくる可能性はとても低くなった。

しかも水の都かと思うほどの水が街中を巡り満たし始めた、この街いやこの国は変わりつつあるとこの時実感した。


ーー 伯爵の騎士団との訓練にて ー


伯爵の城の裏側には、訓練用の広場があるここで日々騎士や兵たちが訓練をしているようだ。

流石に騎士団は練度が高く個の力というより団としての力が主流のようだ。騎士団長が挨拶がてら聖騎士のエストレーナを誘いに来たので許すと、個々の訓練に変わった。

エストレーナが立つとそこに騎士たちが初めは1人づつ途中から2人3人と数を増やしながら訓練を行うがエストレーナを追い詰めることはできないようだ。

1時間程で疲弊した兵や騎士団の山ができていた、僕は木刀一本を借りてエストレーナの前に立つ。

エストレーナは初め躊躇していたが、意を決して僕に切り込んでくる。

いくらエストレーナが斬り込み突きかかるも僕の髪の毛一本すらかすることができず次第に追い詰められる。

ニヤリと笑う僕の表情に隙を見せたエストレーナの前から僕の姿が掻き消える!次の瞬間腹を打たれたエストレーナは5mほど吹き飛ばされて地面に転がされる。

驚きと息のできない表情のエストレーナが慌てて立ち上がるのを手で制して

 「訓練はここまで」

と言って訓練場を後にする。


次の日もエストレーナは訓練に参加しに行った。僕は城壁の堀を見ながら畑と森の計画を練りおよその場所に縁に緑を植えていく。


ーー ドランクス伯爵の事務室にて ー


ドランクス伯爵は文官セラーズの報告書を見ながら唸っていた。

たった3日でこれをやったというのか。

 「今から検証に向かう案内せよ。」

と言いつけると馬に飛び乗りオアシスに向かう、オアシスは以前以上の水をたたえあふれる水が何処かに引き込まれていた。

そういえばここにくるまでの道の脇にも石をかぶせた真新しい何かが幾重にも繋がっていた。新しいオアシスの方へ進むと今まであった城壁の跡が辛うじてわかる程度で壁というものはなかったが、新たな規模を拡大した街の空間は満々と水をたたえるオアシスとそれを囲う新たな城壁に彩られていた。

 「我が街が2倍ほどの広さに拡大してる、信じられぬ・・」

呟く私の横で文官のセラーズが

 「目に見えるものは事実でございます。さらにここに新たな街を構築することができるためさらなる街の発展が望めます。更に街中に水路が張り巡らされ水の都のような状況であります。」

と説明し

 「これから城壁の外側に出てもらいます、そこにはさらなる驚きがあります。」

というでは無いか、ならばと思い新たな城壁の門に向かい馬を走らせる。

城門は新たな橋がかけられていた、橋を渡る私は橋の下に信じられないものを見た

 「川が流れているでは無いか!」

思わず言葉が口をつく

その後城壁沿いに街を回ると満々と流れ、たまりつつある堀がぐるりとめぐらされていた最後のところで少年が何かをしている姿が見えてきた。それはカムイと名乗る使徒様だ。

何をしているのかと見ていると堀の水があふれた際の引き込み水路を作りながら歩く後から1mほどの若木が生えてゆくのが見えた。

 「木々が・・・我が領内に・・」

それ以上は言葉にならなかった。

少年のもとに駆け寄った私は馬から飛び降りると少年の前にひざまつき

 「使徒様ありがとうございます。不信心である私でもその力信じずにはいられません、これまでの不敬お許しくださいませ。」

と許を請うたのだった。

 「ドランクス伯爵、これは私の趣味みたいなものです。これから先にこの街を水を緑をどうするかがあなたの使命です、明日にはこの木ももっと木らしい姿になるでしょう。そうしたら3日後に改めてみんなで視察して回りましょう。」

と言うと作業に戻って行った。


ーー 7日後、視察 ー


10日の約束より3日も早く視察の日が来た。

堀からの溢れ出る水の量は川というに十分な水量を誇り、水を通さぬ岩盤を敷いたことで底に染み込むこともなく流れとなって新たに作った田畑と森の元に流れ始めていた。

樹々はすでに5mほどの高さに成長し草花が川の両サイドに咲き誇っていた。

そこは砂漠の街ではなく本当に水の都と言える風景だった。


カムイという少年は、石ころのような作物を2種類取り出して

 「この作物は芋科の穀物で乾燥に強い作物です。水の届かない場所に植え付けて育ててください。」

と領主にそれを手渡していた。領主であるドランクス伯爵は涙を流しながら受け取ると青々と広がる川と緑の道に感動しているようだった。さらに奥の方にこんもりとした林のような場所が見えていた。

 「あそこに見えるのが今後森となる場所です。あといく本かの川をあそこまで流して森を作っておくので大切に守ってください。」

とその少年は言うとさらなる視察の場所に向かった。



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