第7話 旅を続ける
ーー 旅の再開 ー
作業を始めて10日後僕は明日にでも旅立つことを報告するために伯爵の城を訪れていた。
僕の言った通り林は森となりつつあり川が街からもいく本か見えるようになった、途中途中に水だまりを作り憩いの場所とした。
伯爵はあれから毎日変化する森や川を見に来ていたが森の入り口に拝礼堂を建立していた。
僕の挨拶に伯爵は、それならせめて今夜夕食を共にしたいと願うのでありがたく受けると喜んでくれた。
その夜の晩餐は豪勢な料理だった。伯爵の家族も紹介された、15歳の長男に13歳と10歳の姉妹それに美しい奥方、華美では無いが貴族然とした服装に立ち振る舞いが印象的だった。
そういえば最近伯爵と一緒に街を視察していたのは跡取りの長男だった。
惜しまれながらお開きとなった際、僕は伯爵に一振りの剣を差し出した。
「これは先の村でお礼にもらった鉱石を錬成し私が作った剣です。素人造りですが宜しかったらお受けください。」
と言うと捧げ受けた伯爵が鞘から剣を抜きため息混じりに
「我が家の家宝と致します。ぜひお帰りの際は今一度お寄りくださいませ」
とまたもや涙しながら言ってくれた。
次の日の朝早く街から馬車で走り去る僕らの姿が多くの住民の見送りを背に消えて行った。
ーー 伯爵家の子供ら ー
私はドランクス伯爵家の長男 シルクード。
ここ数日私は父に付いてこの街の内外の変貌に目を奪われていた。
領内視察などなんども同行して知っていたがこの国自体が雨が少なく痩せた土地で領民は飢えや水不足に喘いでいた。
この街はそれでもオアシスがあったのでそれなりに生活できていたがそのオアシスも原因不明の水不足で枯れ始めていた。
そんなこの街が突然広がり、青々とした水を満たすオアシスが二つに。さらに街中を縦横無尽に走る水路と街を囲う深い堀と青々とした木々が道を作る川と森が現れたのだ。
父の話では女神の使徒様がこの街に現れ、襲いかかる魔物を凍らせ枯れたオアシスを甦らせあらゆる変化を1人で行ったと言うでは無いか。本当に奇跡としか言いようのない変化だった。
私はドランクス伯爵家の長女 サラサール。
先日妹のアリサールが突然大声をあげるので駆け寄ると、遠くの城壁を指差し
「お姉様城壁の向こうに新しい城壁が出来つつあります」
と言うのです。
私もその方向を見ると確かに誰も姿が見えないが高く丈夫そうな城壁がどんどん立ち上がってゆくのが見えた。ものの30分ほどでかなりの規模の城壁が出来上がり街が倍ほどに広さになったのがわかった。
あれが今この街にきていると言う使徒様の力でしょうか。
私は物語が好きでよく本を読みますが特に騎士と王妃の恋物語と使徒様による巡礼の旅を読みます。
あの物語が本当であれば使徒様はありとあらゆる魔法を使い民を幸せにしその剣を持って魔物を退治すると言われています。
数日前の災害級と言われる魔物の群れの急襲にその力を振るったと噂を聞きました。
それから数日後、またまた驚きです。
街の外に緑の森がそこに至るまでに花々が咲き乱れる小道が川が信じられない風景が広がっていました。
私はドランクス伯爵家の次女 アリサール。
最近驚きの連続でワクワクしています。聖騎士のお姉さまの強さも凄かったですがあの少年の強さと言ったら物語の勇者ではないかと思えるほどでした。
でもこれはこっそり見ていたのでお姉様にもいえないことです。
あの新しい城壁ができるのを見たのも魔物の群れが凍りつくのを見たのも内緒です。
でも一番驚いたのは最後の日の夜の晩餐の日のこと、私は鑑定という女神から頂いたスキルがあります。
これについてもまだ内緒にしているのですがあのカムイ様という少年を見たときに鑑定するまでもありませんでした。
その溢れ出るオーラはまるで神、鑑定すると
『神の血肉で作りし者、自由に生きる唯一の者』
と表示されました、彼は使徒様ではなく神そのものなのです。
ーー 聖騎士エストレーナ の独り言 ー
ここの騎士団の訓練に数日参加したが中々精強で向上心の高い騎士団だった。
私も良い汗をかいたと言いたいが一度だけ冷汗をかいたことがった。
カムイ様が私の前に木剣を持ち立たれたのだった。
訓練とはいえ使徒様であるカムイ様に斬りかかることはと一瞬迷ってはいたが、使徒様なれば大丈夫かと思い8分の力で斬りかかるとあっさり躱されてしまった。そこで自分の甘さを感じ全力で打ち込むが一太刀すらかすることなく最後には目にも留まらぬ早技で地面に転がされていた。
あの時のことを思い出すと、今でも冷や汗が出る。
赤龍や地龍の討伐に騎士団として携わったことがあったが、あの方はそれすら可愛く感じてしまう。
サンドスネークの群れを前にした時も同じ、多分魔法を3つ使われていたが詠唱すらしていない、私はただ氷漬けの蛇に止めを刺して回っただけ。
できれば剣の手ほどきなどしてもらいたいと不敬ながら思っている。
次の目的地は、いくつかの村や町を越えてこの国の王都に向かう予定だ。
伯爵がこの国の王にその旨手紙を出しておいたと言っていたので特別問題はないだろう、問題はないが問題的な奇跡は起こすだろうなと私は思いながらそっと目の前で寛ぐ少年の姿をした神の使いを見る。
ーー 中央教会教皇の執務室 ー
手紙を読みつつ大きなため息をつく教皇の側にいる件のシスターに手紙を渡す。
「彼はいつもどおりに奇跡を振りまいているようだよ。しかもあの剣山と呼ばれる山々を削ろうかと言っているそうだ。」
と苦い笑顔の教皇がシスターに話しかける
「あの子は使徒様どころか神の生まれ変わりかも知れませんよ、したいようにさせるしかありませんね。」
と年老いたシスターが答えるがその姿は80を超える老婆ではなく50歳ほどの女性に見えた。
「そうだね、旅から帰るまで生きてもらわなければと、あなたを若返らせたのも若すぎては見間違えるからとその中途半端な若返りで済ますなんて・・僕なら怒るよ」
という教皇に
「いいえこれで良いのです。80過ぎまで生きることがわかっているのですから若すぎると私の知らぬ恋に走るやもしれませんので・・」
と冗談ともいえない話をするシスター。
2人の話は手紙が来るたびに長くなってゆく。
ーー ある盗賊団 ー
「御頭、オアシーズの話を聞きましたか?なんでもいま王都に向かっている教会の関係者が魔法でオアシスを作ったそうで、大そうな謝礼をもらったにちがありやせんぜ」
といかにも盗賊とした顔の男が見た目のスッキリとした顔立ちの男に話しかけた。
「お前のいう通りなら凄腕の魔法使いじゃねえか、襲うはなから消炭になりそうな話だが」
という御頭に男は
「いや多分そいつは支援魔法の達人でさあ、聖騎士が1人と従者が2人の4人です、20人もいれば余裕ですよ」
という男に
「聖騎士は強いよ、50人は出して人質を取るようにしないとダメだろうね」
と答える御頭の男。
僕らの旅に悪意が忍び寄る
ーー 旅立って二つ目の村に立ち寄った ー
この村も深刻な水不足で喘いでいます。
井戸が枯れて水がないと話をするので、村の地下を探索すると浅い場所の水脈は枯れていたが深い場所は結構な水量が感じられたので、いつもどおり井戸を掘ることにした。
今回は約30分で地下230m程に到達し豊富な水が噴き出した。それを見ていた村人は狂わんばかりに喜び踊り出した。
溢れる水を貯めるために近くに溜池を掘りその水を灌漑用水に活用できるようにいくつかの水路を作っておいた。更に深い位置にかなりの水脈を見つけたので村外れに大きな泉を作った。
食べ物もなく飢えていた村人には、持っていた食糧と今後栽培するための芋と麦をかなりの量手渡すと村長以下頭をあげようとしなかったので困った。
そこの村であげた食料の料理方法を教えながら祭りのような宴会が始まった。もちろん酒も出してやった。
女性には色々な柄の生地の布を沢山、糸と共に手渡すとまた村人全員から拝まれてしまった。
次の日馬車で王都に向け出発した僕らが村はずれまできたところで、道に大きな岩が積み重なり道を塞いでいた。
従者のダンクが馬車を降り石を退け始めると突然男らに取り囲まれ抵抗する暇もなく捕まってしまった。
異変に気付いたエステレートが馬車から飛び出しダンテを助けようとしたが、ダンテを人質に取られ上手くいかなかった。相手は総勢50人を超える盗賊団で馬車の扉を空けて中の要人を連れ出そうとしたが扉はびくともしなかった。
エステレートは、近くの盗賊を切り捨てながら馬車に戻ると僕に指示を仰いできた。そのままダンテを置いて走り出せば逃げ切ることは可能だがその場合ダンテの命がない、だからといって僕を危険に晒すわけにはいかないと思ったのだろう。
馬車の扉を開けで外に出る僕に慌てて近づくエステレート、しかし僕は周りの盗賊団を見渡すとカシラらしき男を見つけ話しかけた
「私の従者を無事に返してくれれば生きてこの場を立ち去ることを許そう。しかしそれを断れば命の保障はできない。」
と言い放った。
すると多くの盗賊から馬鹿にするような言葉と怒号が帰ってきた、カシラと思われる男は
「聞けない話だ、有り金全部おいてゆけそしたらお前の命だけ助けてやろう。」
と言い返してきたその言葉が終わった瞬間、光が音と共に少年から放たれた。
大音声が全てを包みそして静けさが戻って来た時立っていたのは少年の従者と騎士のみであった。
ダンクは、死を覚悟していた。自分のために使徒様を危険に晒すことは絶対にできない。それなら自ら死を選んだとしても構わないと神父らしからぬ思いでいたが、使徒様は1人馬車から降りてきて従者を返せと言ってくださったそれだけで十分なのに自分のために奇跡を行ってくれた。
あの光は経典の中にある、神の雷に違いありませんでなければ盗賊の身だけに落ちる雷など存在しません。
自由になったダンクが駆けつけてきて礼を言った、僕はエステレートにあのカシラを連れてきなさいと言いつけた。
エステレートが男の所に向かうとその男だけが息があった。
手足を縛り抱えて戻るエステレートが男を馬車のそばに投げ下ろすと男が息を吹き返した。
「お前は、神か?それとも魔王か?」
と睨みつけたが僕は静かに答える
「人の財産や命を奪うものは何時でも奪われることを知っておかなければならない。お前は僕の言葉に奪うと言い返したではないかその答えがこれだ。この数の人間を手下にしていたのだからそれなりの男であったのだろうが、これも天罰と思うが良い今から王都に連れて行って裁きを与えよう」
と言うと周りの盗賊の死骸が燃え始めあっという間に消え去った。
男はその力に怯えそれ以降何も抵抗することなく引きずられるように馬車に付き添った。
5日後馬車は王都の城壁にたどり着いた。
既に連絡が入っていたので出迎えの者が並んでいた、聖騎士のエステレートが応対し盗賊のカシラを引き渡して門を越えて中に入った。
そのまま城に案内されると城内に部屋を用意され宿泊することになった。
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