第4話 2年の修行の後、成人を迎える。
ーー 2年があっという間に経ち ー
明日の成人の式を控えて僕は部屋の中でこれからのことを考えていた。
この2年間この教会で学び実践してきたことは、無駄ではなかったと思う。
回復魔法でも他の魔法でもこの教会いやこの国で僕以上の魔法使いは存在しないと思う。これは奢りでも何でもない事実だ。
しかしここで助けられる人はここにこられる人ばかりまたは、貴族や王族のような恵まれた人ばかり。
僕はこの力を貧しく力ない人のためにこそ使うべきではないかと考えている。僕個人のできることはそれほど大きなことではないかもしれない。
しかしそれでも何もせずにはいられない。
その夜、シスターカリーナの部屋を訪ね
「明日の式が終わったら僕は旅に出たいと考えています。世界を回って貧しさや病気で苦しむ人々を1人でも助けながら世界を見たいと思います。」
と言うとシスターは
「お前がそう言うことは分かっていた、世界を回って自分の力と下々の生活を確認してくるがいいだろう。」
と言って旅立ちを許してくれた。
成人の式の日、僕は多くの同年代の子供と式場にいた。
1人ずつ名前を呼ばれ成人したことを女神に祈り式は終わるはずだった。僕の名前が呼ばれたその時、天から一条の光が降りてきて僕を照らし光が僕を包み込んだ。
その時間はごくわずかな時間であったがその異常性は誰の目にも明らかであった。
僕はそこでこの世界の女神の加護を得た。
ステータスの数値が異常に上がり、上限が無くなっていたそして称号に
「神に連なるもの」
と記載されていた。
7日後僕は教会の騎士と身の回りをする従者を連れて馬車の旅に出た。
本当は1人で旅立ちたかったが、色々なしがらみと利害のため女神の御使様として派遣される形として旅立つことになった。
ーー 旅の仲間 ー
教会はその信者が国家を揺るがすほどいるため、組織も巨大で王国のように近衛兵や騎士団のような軍事力も持っている。
その名を「聖騎士」と言い白い鎧に身を固めた騎士である。
僕のそばにいるのもそんな騎士の1人で女性である。名前をエストレーナと言い女性といえどその戦闘力は高く一騎当千と呼ばれる豪の者である。
従者は、教会で育てられた孤児であったり神父やシスター見習いの者であったりするが僕のそばにいるのは、中央教会に来てからずっと世話をしてくれている。
ダンク 25歳の男とエレナ15歳の女の2人で、孤児院育ちでダンクは神父見習い、エレナは回復師見習いである。
馬車は、一見すると4人乗りのこじんまりとした代わり映えのしない馬車だが中は、僕の空間魔法で大きな屋敷ほどの空間があり幾つもの部屋が備え付けられている。
乗り心地についても異世界の知識を使いエアサス式のクッションで揺れや振動がほとんどなく車輪も鋼鉄を空気の入った硬質ゴムのような不思議素材で巻いている。
水は魔法でも魔道具でも出すことができ風呂が備え付けられてある。
食料についても僕の時空収納で数年分の食料が新鮮なまま保存されている。
馬車を引く馬は、僕の召喚魔法で呼び出した精霊種の馬で力強く寿命自体がない、さらに空に神獣と呼ばれる雷鳥を召喚し広範囲に上空から監視している。
ーー 聖騎士エストレーナ ー
私は教会の聖騎士団の副隊長をしていた。ある日教皇様から呼び出しを受け或る命令を受けた。
呼ばれた場所には教皇様とシスターカリーナ様がおられ
「5日後お前は、使徒様をお守りしながら世界を旅してきなさい。」
そう言われた。そういえば数日前の成人の式の日に女神の加護を受けた者がいると噂されたことがあった。
女神の加護それ自体は珍しいが「使徒様」と呼ばれるほどのものではないと記憶している、そんな私の心を測ったようにシスターカリーナ様が答える
「彼は、加護以外全てを持ってここに来たの。そして加護を先日受けたの、教皇様が認める「使徒様」と言えるそんな彼をそばで手助けする騎士が必要になり貴方に白羽の矢が立ったの。期間の定めのない旅であるよく考えて答えて欲しい。」
と言われた。
使徒様として必要なものを全て持っている彼とはどんな人物なのか、そんな物語のような人物と世直しのような旅をすると言う、これを断れる聖騎士がいようかいやいないであろう、私はすぐに決断し応えた。
「ありがたくお受けいたします。」
と。
その日のうちの彼と顔合わせがあった。彼は私も何度か顔を見たことのある少年だった。なんせ彼は、13歳になる前から聖騎士団の訓練に参加しているのだ。
ただ参加しているだけではない先頭を切って訓練をこなしているそれも汗ひとつかかずに。
私はその少年を聖騎士見習いだと思っていたが話を聞くと回復師だと言う、それも高位の信じられなかった、あれほどの武を持つ少年が癒し手だと言うことに。
私の記憶では「使徒様はあらゆる魔法を使い」とあったが、彼も他の魔法が使えるのだろうかと思いながら出発の日になり、こじんまりとした馬車に荷物を持った私がどこに積み込もうかと思案していると。
「エストレーナさん、どうぞ荷物は中にしまってください扉に名前が貼り付けてありますからその部屋に置いてください。」
と彼が言う。意外と冗談も言うものだと思い馬車に乗り込んだ私は固まった。
馬車の中はどこの屋敷かと思うほどの空間が広がり本当にいくつもの扉があり私の名前の貼ってある扉もあった。
恐る恐るその扉を開けるとそこには20畳ほどの部屋で大きなベットにテーブルセットにタンスや化粧台が置かれてあった。
取り敢えず荷物を置くと名前のない扉を開けて部屋を確かめた始めたするとそこには、食堂であったり調理場であったり更には大きな浴室が備え付けられていた。
馬車から降りて周りを確認するが特別大きくはない、その後馬車を引く馬を見てまた驚いた。
それはただの馬ではなく精霊種の馬型精霊ではないか!その存在は強く気高く使徒様のための生き物ともいえた。
『彼は空間魔法や召喚魔法も高位で使えることがわかる。ひょっとすれば私など警護する必要さえない可能性もある。そういえばあの時そばで手助けしてくれるものが必要と言われた、守る必要のない人物なのだ。』
私はこの時今まで考え違いしていたことにやっと気付いた、これは物語として後世に残る旅なのだと。
ーー 従者 ダンク、エレナ ー
私は、カムイ様の従者をしているエレナ。
今回カムイ様の旅に先輩のダンクさんと付いて行くことになった。
カムイ様は、恐ろしく賢くまた魔法が達者な使徒様だ。今までも色々なことをしてはみんなを驚かせていたが、今回の馬車は特別だった。
今まで制限していたのが外れたと言っていたように、この世のものとは思えないほどの魔法と改造をしていた。
それに馬車を引く馬でさえこの世のものではない精霊様だ。
ダンクさんはこの旅から帰ると神父になれると喜んでいるが、カムイ様の力を見るとほとんどの人は自分の力のなさに絶望するものだが大丈夫だろうか。
そう言えば聖騎士様のエストレーナ様はあの若さで騎士団の副団長というすごい経歴の方。
ーー 先ずはあそこに行こう ー
旅の最初の目的地は隣の国サハラ王国と決めている。その国は砂漠の国で雨が降らなく水がとても貴重な国、そのため作物の育つ場所が少なく隣国からの輸入に頼っている、その代わり貴重な鉱石がよく取れる。
富裕層と貧困層の格差が大きく貧しい民が病気や飢餓で亡くなると聞いている。
シスターアリアがよく話してくれた。この世界にはとても生活が厳しい世界があると、できればそんな土地を回り少しでも人々を手助けしたいと。
その最初の目的地がそのサハラ王国だった。馬車で行けば20日ほどで国境を越える、超えた途端砂漠が広がる世界、魔物も蛇や蜘蛛など毒を持つ魔物が多い。
順調に旅を続けた僕ら一行、街道沿いの村や街に立ち寄りながら進むこと18日で国境に差し掛かった。
そこは切り立った山の谷を通る街道でそびえる山々が雲を堰き止め雨の降らない気候を作り出していることがわかる。この山々を少し削ると少しはマシな土地になるかもしれないがどうしようか?
この世界は一信教で、教皇様の書状を持って旅をする僕らはほとんどフリーパスで国境を越えることができる。
最初の村についた、やはりそこは貧しい村だった。
雨の降らない痩せた農地は何も実らない、ぼくは村長の家に立ち寄るとあるものを差し出した
「これはサツマイモという種類の芋です。こちらはジャガイモと言いますどちらも痩せた畑でもよく育つ品種です。沢山あるので先ずは腹ごなしをしてから畑に植えつけましょう。」
と言いながら時空収納袋からたくさんの芋を取り出し更に魔道具の水生成器を取り出すと魔石をセットして水を生成し始めた。
すぐに村人が集まり水を汲み始め、芋を籠いっぱい分けてもらうとそれぞれの家に帰り食事を始めた。
この規模の村なら魔石10個ほどで1年間の飲み水を賄うことができるだろう。
僕は土魔法で大きな穴を掘ると石で表面を固め泉を創り出し魔道具の水精製機を設置した。
その後水脈を探り井戸を掘ることにした。国境をの向こうではあふれるほどの雨が降るため水脈自体は深いが大きな水脈が何本も走っている。
村の近くの水脈に狙いをつけ土魔法で穴を掘り下げながら壁を固めてゆく。一日中掘って100m程、3日目に水脈に届いた水圧で水が吹き上がると村人が僕を拝むように頭を下げた。
飲み水用の泉と別にさらに大きな泉を作るそこに井戸の水を引き入れ、それから畑沿いに灌漑用水を設置していった。
一番奥の畑まで灌漑用水が抜けると水をさらに先の大きな穴に引き込み池を作った。これから先何年かすればここも豊かな村にらるだろう。
僕らは見送る村人を後に旅を続ける。
ーー 従者ダンク 神父見習い ー
砂漠の国サハラ王国の国境の村についた。山を抜けただけの場所なのにここは雨がほとんど降らない、そのため作物が育たず貧しい生活を余儀なくされている。
センターターク王国では貧しいと言えどもここまで貧しい集落は存在していないだろう。雨が降らないということがここまで生活を辛くするとは考えもしなかった。この国の民は何故このような不毛の大地で暮らさなければならないのか?
この地こそ女神の教えや手助けが必要とされる場所ではないか。
しかし自分の無力さを痛いほど痛感させられることも事実だ、こんな国ではたとえ「使徒様」と呼ばれるカムイ様でもどうしょうもないだろう、そう考えていました。
しかし、カムイ様はやはり違っていました。
魔道具で飲み水を確保すると、「芋」と呼ぶ作物を大量に供出された。
飢えと渇きを満たすとすぐに井戸掘りを始められ、3日で溢れんばかりの水脈を掘り当てそのまま田畑への灌漑用水路を敷設してしまったのです。
村人は狂喜しカムイ様を拝んでいましたがカムイ様は何事もなかったように次の目的地へと旅立たれました。
これこそ神の使徒様の身技、奇跡を目の当たりにした瞬間で信仰とは何かと考えさせる事柄でした。
ーー 聖騎士エストレーナ ー
この旅はとても快適な旅でいつ迄でも何処へでも行けそうな旅でした、国境を越えるまでは。
隣国砂漠の国サハラ王国についた途端、わたしはこの世の地獄のような生活を目の当たりにしました。
砂漠の国と呼ばれるほどこの国は雨が降らないことは、知っていましたが、知っていることとそれを体験することは大きな差があったのです。
聖騎士としてわたしは自分の無力さを感じずにはいられませんでした。
そんな中、カムイ様は当然の如く水を生み食糧を与、村人に渇きと飢えを癒されました。
ここまでなら準備さえしていれば可能なことです、しかしカムイ様はそれからわずかな日数で井戸を掘り灌漑用水を敷設するという大きな事業をたった1人で行い作り上げたのです。
さらに乾燥に強い「芋」と言う作物の作付けまでされて。何の見返りも名声すらあの方には意味のないもののようでした。
「ただそこで暮らすものたちの笑顔が見たい」と言われたのです。
カムイ様の話を聞くにあの険しい山々を少しばかり削り、川の水をこちら側に引けば砂漠の国サハラ王国もかなり豊かになると言われていました。
普通ならあのような剣山を削るなど夢のような話ですが、カムイ様が話されると片手間にできるのではないかと本気で思えるところが凄いのです。
カムイ様の話で心に残った話が一つ、
人の人生や国の隆盛は川のようなもの、豊富な水流があれば高いところから下々まで水は行き届く、しかし流れが止まれば水は淀み腐り果てついには干上がって誰もそれを手にすることはできない。川は険しい山々を日々削りながら幸せを運んでいるのだ。
人も国も同じだ豊富な水を得るための弛まぬ努力と、氾濫を抑える強い意志が未来を見せられる。
と言われた、なるほどと思ったと同時に奇跡とは干上がった川に今一度水の流れる川にすることなのだと納得が行った。
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