第7話 FILE 0-7
「さてと、じゃあちょっと行ってくる」
俺はちょっとしたホームパーティーができそうな、広いテラスに出た。
「だめ! 早まらないで! 相談になら乗るから!
魔王をやるのつらかったんだよね……?」
「なぜそうなる!?」
潤んだ目で見るんじゃない。
自殺でもすると思ったのだろうか。
基本的には頭の回転は悪くないクセに、時々ズレるミカである。
「さっき、力を見せるって言ったろ。
月でも眺めててくれよ」
「それ、主任にも言ってたけど、キメゼリフなの?
ちょっと痛いよ?」
「ほっとけよ! そういうつもりで言ったんじゃないから!」
今度は俺が赤くなる番だった。
俺はまず、超圧縮した空気を作り出す。
これから行く場所は、空気がないから酸素ボンベ代わりだ。
次に、風の魔術で、体の周りを覆った。
体がふわりと浮く。
例えるなら、空気のシャボン玉の中に入っているようなイメージだ。
風の魔術のさらに外側に、絶対防御の魔術をかける。
これは、可視光以外の全てを遮断する魔術だ。
「たしか、一定以上の速度が必要だったな」
加速、射出に重力制御を加えた魔術を練り上げる。
テラスからゆっくり空へと昇った俺は、用意していた魔術を解放する。
その瞬間、俺の体は高速で上空へと舞い上がり、重力加速度の負荷を一瞬感じたその後には、宇宙に浮かんでいた。
すぐ隣には月、眼下には地球。
圧縮した空気を少しずつ解放し、呼吸に必要な酸素を確保する。
地球ってのは、ほんとに青いんだな……。
俺って、個人で宇宙旅行をした最初の人類じゃないだろうか。
さて、日中からの流れで、複数魔術の同時使用や、ややこしい術式は異世界と同様に、問題なく使えることがわかっている。
最後に試すのは、戦略級高出力極大魔法だ。
俺が本気を出すと、地球にどんな影響があるかわからない。
異世界では、全てのものに魔術耐性が多少なりとも備わっていた。
そこらの石ころにでもだ。
だから、極大魔法をぶっ放したところで、大地が崩壊するなんてことはそうそう起こらなかった。
俺の見立ててでは、こちらの世界にはそれがない。
世界の理が異なるからだろう。
だからこそ、こちらの世界の人間には、魔術を教えてもおそらく扱えない。
もしかすると、特定の条件を満たせばいけるかもしれないが、現時点では情報不足だ。
日中、ミカがヴァルキリースーツを使った時も、魔術防御力はゼロだった。
おそらく、この世界に魔術防御という発想自体が存在しないのだろう。
ただ、気にかかるのは山田が変態した際に魔術防御が上昇したことや、ミカがスーツの能力を発動させた際にも微量の上昇が見られたことだ。
いや……これを考えるのは後にしよう。
俺はゆっくりと魔力を練り上げる。
体内の魔力を物理現象に変換する術式が、高速で構築されていくのを感じる。
手応えアリだ。
これはいける。
準備している極大魔法をキープしつつ、地球を護る魔術を同時に展開する。
惑星の半分を覆うほどの防御魔法を同時展開となると、さすがに魔力の消費が激しいな。
だが、地球に余波がいった日には、それこそ目も当てられない。
――『戦略級魔術防御壁(ストラテジックマジックウォール)』
光の半球が、俺から見た地球の半分を一瞬覆った。
これで準備はできた。
さて、試してみるか。
自分の周りに張った防御魔術に、一瞬だけ直径1cmほどの穴を開ける。
そして――
――『戦略級球形爆発(ストラテジックスフェリカルエクスプロージョン)』
魔術を発動すると、俺の指先に小さな光が灯る。
その光は、防御魔術の穴を通り、高速で宇宙空間を進んでいく。
そろそろ、月の半径分くらいは十分に離れただろうか。
俺は緊張しながら、指をパチンと鳴らした。
すると、俺が放った光を中心に、月とほぼ同じサイズの大爆発が起こった。
防御魔法を使っておいてよかった。
余波で地球が滅びるところだ。
魔力は異世界にいた頃から衰えていないようだ。
さすがにこの魔術を使った後は、魔力がほぼ空になるな。
自分の周りの防御魔法まで切れるとえらいことだ。
体は生身の人間だから、真空では生きられない。
俺は来たときと同じように、人工衛星に映らないようにしながら、マンションへと戻るのだった。
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