第9話

「それじゃ、報告しま~す!」

黄月おうげつはいつもの元気の良さで報告開始の合図を出した。

黄月おうげつがご機嫌な時は何か良い事があるときだ。

何か良い情報が見つかったのだろうか。

「特にない!!!」

思わず椅子からずり落ちるかと思った。

え~、なんもないの~。

なんもないならないでそれはいいんだけど、もうちょっと報告の仕方あったよね?

案の定紅月こうげつが凄い怖い雰囲気だしてるし…。

「いや、お前、特にないはないだろ。特にないは。」

一応これ、ルール違反なんだよね。だから紅月こうげつだって怒ってるわけで。

でも黄月おうげつはそれよりも楽しいことがあるようで全く意に介していない。

「いや~実はね~な~んもしてないんだよ~。えへっ♡」

ゴンッ

「いったぁ!」

あ~もう、案の定殴られちゃって…。そういう時は真面目にやらないと本気で怒られちゃうよ。今はまだお遊びに近いけど。

「殴ることないじゃん!」

「お前は反省しなさすぎだ。」

「うぇぇぇ~。」

ごもっとも。僕は人を殴ったりできないし、怒るのも得意じゃないから、正直こうやってしっかり怒ってくれる存在はありがたい。

「う~。でも、報告がない代わりに、提案があるんだよ~。」

ああ、あの何か企んでいるやつかな。

「ん?なんだ?」

紅月こうげつがそう問うと、黄月おうげつは悪戯をするみたいな顔をして言った。

「みんなでお花見行こうよ!」

「いいな。」

「いいねぇ~。」

「いいですね。」

「はぁ?」

うん、文句なしに楽しそう。何もしていなかったことは目をつぶろう。

お花見楽しんじゃおう。

そう思ったんだけど、紅月こうげつはあんまり乗り気じゃないようで。

「いや、行くのか?花見。」

「行くに決まってるでしょ」います」だろ」よね~」

全員が揃った。うん、全会一致。行こうじゃないか。

「まじかよ…。」

紅月こうげつはやっぱり乗り気じゃないみたいだけど…。

なんで嫌なんだろ?こんな楽しそうなことを企てていたなら、僕も喜んで協力したのに。料理は紅月こうげつの作る方が美味しいし、作って欲しいんだけどなぁ~。

「お花見♪」

「お花見♪」

黒月こげつと二人で口ずさむ。最初に僕が言い出したんだけど、いつの間にか主導権は黒月こげつに。歌うのは黒月こげつの方が上手いから、僕はこっそりと歌うのをやめて、黒月こげつの声に耳を傾けた。

「さあ、ピクニックに行こう!」

黄月おうげつは高らかに、少し大げさに、そう宣言する。

「おい、ピクニックはいいが、せめてうちの庭でやれよ。他んとこ行くんじゃねぇ。めんどくせぇから。」

紅月こうげつに釘を刺されてしまった…。せっかくどっか遠めのとこに行けると思ったのになぁ。

「ええ~。せっかくみんなでお出かけ出来ると思ったのに~。」

黄月おうげつも同じことを思っていたようで、物凄く残念そうな様子だ。

そしてそれをさとすのが青月せいげつ

「でも仕方ないですね。紅月こうげつお兄様には普段からお世話になっておりますから、たまには休ませて差し上げましょう。私達が楽しめればそれでよいではないですか。黄月おうげつさん♪」

微笑みながら言う青月せいげつさとすというよりも、なんだか黄月おうげつと居られるのならどこでも構わない、と言うような感じだ。分かる。

「なんでこいつらはこういう時自分の事しか頭にないんだ…。」

頭を抱える紅月こうげつを見て、密かに面白いと思ってしまった。

横を見ると、黒月こげつは声を殺して笑っていた。

うん、僕たちやっぱり気が合うねぇ~。

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