第5話

「なぁ、白月しげつ青月せいげつどこに行ったか知らないか?さっきお前呼びに行った後から見てないんだが。」

黄月おうげつを慰めていると、紅月こうげつがそう声を掛けてきた。

「そういえば、いないね。多分、部屋じゃないかな?ちょっとやり過ぎたって、思ったのかもね。落ち着こうと思ってるんじゃないかな?青月せいげつ段々だんだん大人になってるからね。僕らの知らないうちに。」

「そうか…。」

紅月こうげつは何か考え込むように押し黙る。

僕らが集まったのは、どこか偶然じゃないように僕は思う。

これは僕らが生まれた瞬間から決まっていた運命で、それを捻じ曲げることは何人なんびとたりとも出来ない。僕らの意思がどれだけ固かろうと、変わらない運命。

紅月こうげつの顔が段々と曇っていく。

またくだらないこと考えてるんだろうなぁ~。

紅月こうげつは一番強く見えるけど、実は一番弱い。

強がりが得意で、相談が苦手。誰かと痛みを分け合うことをしない子。

そこに何かを感じ取ったのか、黄月おうげつが近づいて行く。

そして紅月こうげつの手を握って、こう言った。

紅月こうげつ、大丈夫だよ。私たちはちゃんと家族だよ。」

こっちからは見えないけど、多分結構真面目な顔をしていると思う。

こういう時の黄月おうげつは、とても頼りになるのだ。

逆に僕はこういう時、何も出来ないのだから歯がゆい気持ちだ。

何かしてあげたいのにしてあげられない。

居心地が悪いなぁ…。

黄月おうげつ、ありがとな。」

紅月こうげつは微笑んで黄月おうげつの頭を撫でる。

あっ、レアだ。

というか……う~ん、引っかかるなぁ。

も…?…う~ん。

「はっ!!!紅月こうげつがデレた!!!超激レア!!!ヤバい!!!はあぅっ!!!」

そんな思考は、黄月おうげつの叫び声でかき消された。

レアなのは分かるけど、そこまで叫ばなくてもいいような…。

でも、まあ…。

「今笑ってたね。紅月こうげつ。」

そう。確かに笑っていた。

紅月こうげつの、幸せを感じているときの自然な笑顔というのは、中々見られるものじゃない。国の重要文化財なんかよりも、僕はそっちの方が貴重だと思うなぁ。

「まじか…。こいつに笑顔引き出されるとは思わなかったな。」

「だろうね。でも、黄月おうげつ紅月こうげつ普段通りリズムのベースになってるのは、間違いないと思うよ?」

紅月こうげつの笑顔を見られたことに少しばかりの喜びを感じながら言う。

僕今、笑ってるだろうなぁ。

「そうかぁ?」

「そうだよ。」

「まぁ、あながち、間違いじゃないかぁ…。」

紅月こうげつは半分納得、半分疑問という感じで、首を傾げる。

そんな中に、テンションがとても高いまま帰ってきた。

「まぁ、そうだよねぇ~♪私、感謝されたもんねぇ~♪私、おねぇちゃんだもんねぇ~♪」

と、とてつもなく笑顔だ。随分とご機嫌になったなぁ~。

「まだテンションハイMAXマックスだったな。とりあえず、お前は一回青月せいげつの部屋行ってこい。」

紅月こうげつ黄月おうげつのテンションに呆れながらそう言う。

「へ?なんで?」

すっかり忘れてるみたいだなぁ…。

「さっき喧嘩しただろうが。」

「はっ!そうだった!!忘れてた…。」

大事なこと忘れてる…。後で自己嫌悪でまた沈まないか心配だけど…。

「ちょっと行ってくる!!!!」

黄月おうげつは大げさなぐらい慌てた様子で走り出した。

転びそうだ。

「走ると危ないよ~。」

呆れている紅月こうげつの隣で、僕は一応声を掛けておいた。

……ホントに転びそうだなぁ~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る