第411話 未来王を倒すためにも作戦を練りたいところだ
地上での一日分の時間が過ぎた頃、治療を終えたヲーたちはサラを加え会議室にいる。目下の敵であった不死王を倒したことで空気は若干だが緩んでいる。城内の雰囲気もどこか和んでいるように思う。
千歌は殺戮王軍において脅威だった。向こうはこちらを標的にしていたのだから当然だ。家を失った者もいる。
「そういえば城の修理はどうなってんのよ」
それを言えばこの城もそうだ。それを思い出しリトリィは何気なく聞いてみる。
自分たちの不在を突いた不死王の奇襲。サラがいなければこうして会議室を利用することも出来なかったであろうから危ないところであった。
「それは順調だヅラ。不死王の城から使えそうなのをもらって今も修理と改修を進めてるところだヅラ」
城の修理は物作りが得意なコロポックルたちが主導している。実際に物を運んだり解体に励んでいるのは体格の大きな悪魔たちなのでそれぞれ役割分担しながら作業中だ。現場ではジジクルが今も指揮を取っている。
「不死王が自ら燃やした城だ、自分の城が使われても文句はないだろうさ」
「そう」
リトリィが短くつぶやく。
それもそうだ。文句なんてあろうはずがない。修理に携わる者にはざまあみろと思っている者も少なくないだろう。
そんな中リトリィは視線を皆から外し上へ向けていた。
天神千歌。彼女との出会いは敵としてだけでなくリトリィの胸にいろいろな思いを残していた。彼女の悪行が許されないことだとしても、その熱意と目的は本物だった。
なにより、自由というものを苛烈なまでに突きつけた。
彼女の演説。その熱は今でも心のどこかで燃え続けている。
彼女は死んだ。だけど、その遺志は今も誰かの胸に残っている。それこそ不死鳥のように。
そう、思わずにはいられない。
いけないいけない、今は敵を懐かしんでいる場合じゃない。顔を振って思考を払い落とす。
それに、考えるべきことは倒した敵じゃない。
「不死王は倒した。なら次は」
「未来王、ヅラ?」
マスターと同じ人間の魔王。目立った動きこそないものの未来王はドトール湖を占拠しウンディーネたちを迫害している。未来王との戦いはサラたちとの盟約だ。
「お願いします。未来王の弾圧により私たちの一族はこうしている今も苦しんでいます。殺戮王軍の力を貸していただき、未来王打倒を共に」
「案ずるなサラ。同盟を結んだ時の約束、反故にするつもりはない」
「はい、ありがとうございます」
未来王を倒すこと、それがサラの目的だけあって強い意思を感じさせる。家族や仲間のことがあるから当然だ。彼女にはいろいろ世話になっているので約束を破ろうなんて思う者は誰もいない。
「心配し過ぎだってサラ。私たちもそこまで薄情じゃないっての」
「お前はどうか分からないヅラ~」
「なにをぉ!」
席を立ちポクの帽子を奪ってやろうと引っ張り合いになる。
「まったく」
それにヲーは嘆息するがすぐに表情を引き締めた。
「未来王を倒すためにも作戦を練りたいところだ。しかし、話を進めたいがマスター不在ではな」
その視線が空席の上座に向かう。7
そこにいるはずの駆は今もいない。自室に戻ってから一度も見た者はいなかった。
「そうですね、王がいない中で勝手に進めるというのは」
「まだ下りてこないなんて心配ヅラ」
「私様子見てくる」
「おい」
駆の自室までなら一っ飛びだ。それでリトリィが部屋から出て行く。階段を上がり踊り場をUターン。工事中なので機材を運ぶ悪魔たちの隙間を縫って廊下を疾走していく。
駆の自室がある階は火事の被害を免れていたのでほとんど元のままだ。そのためここには悪魔はいない。
リトリィは扉を叩く。
「おーい、マスタ~。いないなら返事してー」
努めて気負わないように、いつも通りに話しかける。
「入っちゃ駄目なら返事してー」
内心心配ではあるがそれを露わにして気を遣わせては意味がない。そのためあくまで冗談っぽく。今のも声が出せない駆だからこそのジョークだ。
「じゃ、入るわよ~」
とはいえここで帰っても意味がないのでドアノブを回してみる。鍵は掛かっておらずうーんと全身を使って扉を開けていく。扉との間に体をねじ込んだ。
「もーう。私専用の小窓を作ってもらわなきゃね」
毎回こんな重労働はさすがに嫌になる。
「マスター」
なんとか隙間から抜け出し声を掛けてみる。
「え」
その光景に目を丸くする。
「マスター! どうしたのよいったい!?」
駆は部屋の中央に立っていた。カーテンは破られ、棚は崩れ、ベッドも潰れている。
慌てて駆け寄るが返事はない。昨日と同じ、頭を抱えたまま俯いている。
「ちょっと、ねえってば!」
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