第410話 駆は一人、暗闇に悶えていた

 サラが扉の前から声をかける。リトリィは飛び立ち駆の前にまで行く。声は聞こえているようで駆はゆっくりと歩き始めた。


 そのまま城から出て正面に停めてある馬車へと乗り込む。角を生やした黒い馬が二頭先頭に繋がれている。戦仕立ての鎧を着け青い瞳が光る。


 駆は馬車のイスに乗り込んでからも頭を抱えていた。リトリィは対面に座り駆を見つめる。


「うう、うう……」


 じっと、自分も怪我でひどいのに、リトリィは駆を見守り続けていた。

 

 駆たちを乗せた馬車は順調に進行し城へと到着した。不死王を倒した知らせはすでに届いており城の前は凱旋ムードだ。


 駆が馬車から降りる。それで一斉に歓声が上がった。大歓声だ。耳が割れんほどの大声がこの場を覆っている。


 そんな中、駆は俯き歩いていく。傍らにはリトリィが手を振りながら、時折心配そうに様子を見守っている。


 みなの声に応えられない駆に代わり、この時だけはヲーとポクも外に出て手を挙げる。歓声に応えさらに喜びの声が返される。志気を上げるためにも出陣した者が勝利をアピールするのは重要だ。


 そうして城内に入るなりリトリィとヲー、ポクは医務室へと案内される。どちらも火傷がひどい。ヲーは特にだ。


「駆様もどうか」


 三体に続きサラは駆も医務室へと促す。立ってはいるがあの不死王と戦ったのだ、看てもらった方がいい。


 しかし、それを駆は右手で制す。


 その手は、傷一つなかった。


「ですが」


 サラの制止を振り切り駆は自室へと歩いていく。明確な拒絶を見せつけられ誰一人駆を止めることはできない。


 医務室ではベッドに三体とも寝かされる。しかし駆が来ないことにリトリィが起き上がる。

「マスターは?」

「殺戮王様は自室に戻られたとか」


 近くの治療担当者が教えてくれた。


「それなら私もついていく!」

「リトリィ、止めておけ。お前も無事な体じゃないんだ、治さなければ次の戦いに響くぞ」

「だけど」


 それをヲーが制止する。リトリィだって今治さなければ危険な状態だ、無理すべきじゃない。


「それに」


 加えて、駆が怪我という意味では心配に及ばない理由がある。


「お前も見ただろう。マスターは、大丈夫だ」

「ん」


 それを言われリトリィの体も引っ込む。


「でも、心配だよ」

「……そうだな」


 大人しく横になり、それでもここにはいない人を思う。それは他の二体も同じだった。


 駆は自室でベッドに腰掛け頭を抱えていた。明かりのない暗がりで自分を押し込める。


 ずっと、ずっと。


 駆は一人、暗闇に悶えていた。

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