第408話 あなたの死に、報いてみせる。必ず

 止めろ! そう心で叫ぶが千歌は止まらない。


「駆君、このままでは彼が死ぬわよ?」


 ヲーの体を踏みつける。逃げられないよう固定して、なおも火炎放射は続けていく。


「止めて千歌!」

「あなたもよ」


 千歌は籠を地面に放り捨てリトリィにも火炎攻撃を浴びせた。


「きゃあ!」

「駆君、時間がないわ。殺すなら早くした方がいいわよ?」

「ッ」


 リトリィとヲーが苦しんでいる。このままでは本当に死んでしまう。

 駆は、デスザルを発動した。

 左腕から放たれる死の光。それは千歌を再び灰と化し消滅させる。

 しかし、すぐに千歌は復活した。状況は再現され二体に向け火炎を放つ。これで数秒前と同じだ。


「もう一度よ」

「ぐうう!」

「くうう!」


 千歌の火炎放射にリトリィとヲーが呻く。この苦しみを止められるのはわずか数秒の死だけだ。


「う、うう、あああ!」


 吠えた。葛藤や苦悩すら吹き飛ばすように。悩みなんて捨ててしまえと自分に言い聞かせるように。


 心の天秤を、壊して進め。


 駆はデスザルを連発した。復活するなら何度でも。彼女が灰となり、炎となって蘇る。その都度デスザルを発動した。


 彼女は、親友だった。家族だった。殺すことにどれだけ躊躇い、どれだけ苦しんだか。


 それを、何度もすること。


 心が擦り潰れる痛みで、胸が裂けそうだ。


「ううう、ああ、ああああ!」


 そうして何度デスザルを発動したか。

 彼女は無事なまま立っていた。


「どうしたの、もう終わり?」


 重傷を負い床に倒れたままのヲーと籠の中で倒れているリトリィ。ダメージがでかく身動きどころか声すら聞こえない。わずかに聞こえる息づかいだけが生きていることを確認できる。


「ぐうう」


 反対に声を出すのは駆だ。左手を頭に当てる。駆を見て、千歌の目が僅かに細められた。

 

「あなたの死に、報いてみせる。必ず」


 千歌はヲーに視線を移し手を向ける。ヲーは仰向けに倒れたままで無防備だ。千歌の手のひらに炎が集まっていく。


「止めて、千歌……」


 そこへ、かすれた声が響く。


「こんなの、あんたが、ほんとに望んだことじゃないでしょ?」


 リトリィはうつ伏せで倒れたまま、なんとか顔を上げ鉄格子越しに見上げる。


 彼女とした会話は数少ないものだった。だけど、彼女を理解するには十分だった。


 千歌は駆を失ったのが悲しかった。だからそうならない世界を作ろうとした。だけど駆は目の前にいる。それを世界のために殺そうとしている。


 それでは本末転倒だ。彼女の本当の願いは、駆と一緒にいることなのに。


 リトリィの言葉に、千歌はヲーに向けていた手を下ろした。顔をリトリィへ向ける。


「いいえ、私が望んだことよ」


 決意と悲しみを合わせた、彼女の瞳がリトリィを見る。


 千歌はリトリィへ手を向けた。炎は圧縮され膨大な熱となる。火炎ではない、熱線を放つつもりだ。


 殺す気だ。犠牲すら、厭わない覚悟を以て。


「うあああああ!」


 駆は、走った。


「!?」


 千歌が振り返る。


 一歩を踏み出す。左腕は光を発し包帯は緩み宙に浮いている。


 走る度に涙をこぼした。距離が近づくごとに心が詰まる。


 駆は、左手を千歌に打ち付けた。駆の左ストレートが彼女の胴体を殴りつける。


「ぐっ」


 それによって千歌は後ずさる。体に亀裂が入り、光が漏れていく。


「そんな」


 自身の両手を信じられないように見つめる。自分の身に起こっている変化に戸惑っている。


 駆は、涙を流しながら見つめていた。


 デスザルを宿した左腕。それを放つのではなく直接打ち込むことで成す技がある。


 終焉の時。


 即死耐性を持っていたアスタロトすら滅ぼした、生命や活動を終わらせる攻撃。


「うそ」


 それは不死すら例外ではなく、不死という活動すら止めさせる。


 死に耐性のある不死ではあるが終わりに耐性はない。デスが即死技ならこれは終焉技。対象を終わらせる攻撃。


 千歌の体から力が抜けていき、その場で崩れ落ちる。駆は慌てて抱え彼女を仰向けに寝かせた。

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