第407話 不死王はすぐに蘇ります、今の内に!
二体ともダメージがでかい。特にポクは相当だ、一撃で戦闘不能にされてしまった。
くそ。内心で舌打ちするが手遅れだ。急いでポクを指輪に戻す。
千歌ははじめ左手の熱線で駆を襲いマントを使わせた。それで視界を狭めた隙に右手でファイザを放ったのだ。
部屋の至る所で炎が立ち上がる。千歌が無事でも駆たちはそうではない。威力までは防げても熱までは防げない。このままでは本当に灰にされてしまう。
「マスター!」
ヲーが叫ぶ。駆の横を抜け千歌に襲いかかる。
千歌も熱線で応戦する。片手だけでなく背後の空間のいくつもが歪曲しそこから幾状ものオレンジ色をした線が走る。
ヲーは駆けた。燃える床を踏みしめ、時には尻尾で強引に進路を変え千歌との距離を詰める。
ヲーは床を蹴り千歌に槍を突き刺した。しかし千歌によって止められてしまう。槍の先端は片手で掴まられた。
だが、それで十分。
走り出していたのは駆もだった。向かう先はリトリィだ。
千歌は倒せない。それだけフェニックスの力は絶大だ。攻略できるものではない。
しかしリトリィの救出は別。ヲーが隙を作ってくれた間に助け出せばいい。ヲーの意図をすぐに理解した駆はリトリィの下へ向かっていた。
階段を登りリトリィの下へ近づく。
「!?」
その目前というところで炎の壁が立ちふさがる。
「ファイアウォール」
あまりの熱に近づけない。これでは救出は無理だ。
「させるわけないでしょう。そんな見え見えの陽動が私に利くとでも?」
ヲーの槍を押し退け背後に振り返る。
「無駄よ駆君、私を倒さない限り彼女は救えないわ」
どうする。どうすればいい。
「さあ、デスザルを使いなさい! そうでなきゃ、みんな死ぬわよ!」
そう言って千歌は再び右手を掲げた。
巨大な火球が部屋を照らし出す。そこから放たれる光と熱は破滅そのものだ。第二のファイザが撃ち出されれば今度こそやられる。
彼女を止めるなら、デスザルしかない。
「ッ!」
友が仲間を殺そうとしている。それなのに、心の天秤は未だに揺れている。
迷っている時間は、なかった。
左腕の包帯が緩みその隙間から光が放つ。掲げた腕が、死を告げる。
ファイザの炎が消えていた。千歌は自分の手を静かに見つめている。指先から灰となっていく自身の体を見るその態度は落ち着いていた。灰と化していく四肢は胴体に達し、首を、最後に頭を消していった。
宙に彼女の灰が舞う。それもバラバラになって目に見えなくなってしまった。
「マスター! 早く!」
千歌が消えたことでファイアウォールも消えている。
「不死王はすぐに蘇ります、今の内に!」
駆は走った。リトリィの籠を抱き抱え急いで階段を下りていく。
「マスター、大丈夫なの?」
心配そうに尋ねるリトリィに走りながら頷く。今はここから一刻も早く出るのが先だ。
「どこへ行くの?」
その足が止まった。
声は女性だがリトリィじゃない。
灰が舞い落ちた広範囲の床で発火が起きる。それらは意思を持っているように集まり大きくなっていく。
新生の始まりだ。炎の中から復活を遂げようとしている。
「もうだと!?」
死の脱皮を繰り返し新たな生を得る。命の誕生である妊娠と出産に比べ異常とも言えるほど早い。
逃げる時間くらい稼げると思っていた。だがそうはいかない。
一つとなった炎の柱。その中から一歩踏み出す足があった。次に全身が現れる。
不死王千歌。回復でも再生でも復元でもない。
これは復活。たとえ無からでも生まれる絶対の生命。
赤いドレスの隅々まで完全に同じ姿で、千歌は炎の部屋に再臨していた。
「続きをしましょうか、駆君」
傷一つない姿を駆は強い眼差しで見る。
デスザルでも倒せない。それは分かっていたがこうまで早いとは。倒すことだけでなく逃げることも出来ないのならばどうすればいい。
焦燥がじわじわとわき上がる。
八方ふさがりの状況で、千歌が片手を向ける。
「!」
反射的にマントを広げる。直後手から放たれる火炎放射が襲ってきた。指が、押しつぶされるように痛い。
左手で抱えた籠が引っ張られる。それは千歌のところへ飛んでいってしまった。
「マスター!」
駆の危機にヲーが走る。突き出した槍は千歌の顔を直撃し穴を開ける。しかし頭部は消失し首から炎を吹き上げすぐに無事な顔が現れる。
千歌は槍を掴みヲーごと床に叩きつけた。さらに追い打ちの火炎を浴びせヲーから声が上がる。
「ぐうう」
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