第374話 今日、お前は死ぬんだよ
気弱な力也が面と向かって宣言する。そのことに意外そうな声がもれる。
力也はグランを手に近づいていく。彼女たちはあの悪魔に操られている。ならあの悪魔を倒せば操作も解けるはず。
だがそれを許す吉岡ではない。
「おっと、変なことするなよ? もし手出ししたらこいつがどうなっても知らないぞ?」
ラブオリットの指が動く。それに連動して愛理は両手で自分の首を掴んだ。まだ力は入っていないがいつ締め出すか分からない。自分で自分の首を締めさせるつもりだ。
「こいつの意識は完全にラブオリットの支配下だ。もしお前が俺に手を出せばこいつには死んでもらう」
「卑怯だぞ!」
「うるせえんだよ。悪魔を利用しといて今更卑怯もあるか」
力也は歯噛みしながら足を止めた。すぐにでも切りかかりたいがぐっと堪える。
これでは手出しできない。だが攻め手に欠けるのは相手も同じ。人質をどれだけ並べようが勝負には勝てない。
「どうするつもりなんだな、こんなことしても逃げられないんだな」
「逃げる?」
人質を取って立てこもる犯人がすることなど逃走しかない。攻めることが出来ないからこそ人質で守りを固めているのではないのか。
「勘違いしているようだな。お前、名前は?」
「……織田力也」
しぶしぶ答える。
「織田か。じゃあ教えてやる」
だが吉岡にそんな気はない。強気な目つきと勝ちを確信した笑みが物語っている。
「今日、お前は死ぬんだよ」
勝ち誇った笑みで告げる死の宣言。吉岡は片手を前に出す。先ほどと同じ。また悪魔を出すつもりだ。
「止めるんだな! ライフは術師の寿命。それを使えばいずれ寿命が尽きて死んじゃうんんだな!」
「よく知ってるじゃねえか。そうだよ、悪魔召喚術っていうのはその使い手のライフ、寿命を消費して行う術だ」
そう、悪魔召喚にはそれだけのリスクが伴う。強力ではあるが使えば使うほど自分の寿命を削る諸刃の剣。
「でもな、それには裏口があるんだよ」
「裏口?」
その裏口とはなんなのか。
それを口にする時吉岡の口元が醜悪に歪んだ。
「ライフを払って悪魔を召喚する。だが、ライフを払うのは俺じゃない。こいつのライフだ!」
「そんな!」
吉岡が見つめる先、そこには愛理がいる。
ライフは払う。だがそれは自身ではなく他人のライフ。術師本人は痛くもかゆくもなく、周りの生け贄だけが搾られる。
「こいつらは人質だけじゃない。悪魔召喚の燃料タンクさ。俺の肩代わりのな!」
「ひどい!」
それが裏口。悪魔召喚師吉岡が見出した活路。非道ではあるが優秀だとも言える。これで悪魔召喚におけるネックはなくなったに等しい。良心がないからこそ会得できた裏技。悪魔召喚師としての適正と素質は高い。
だからこそ、人としてはゲスい。
教室から悪魔たちが下りてくる。それに加え吉岡は新たな悪魔を呼び出す。
「俺はライフを二十払い、デモ・デモンスゲートをセッティング! 再び現れろ悪魔たち!」
空中に浮かぶ二十にも及ぶ赤い魔法陣。それは血に塗れた命の対価。荒い息を吐き苦しむ生け贄。それを見て笑う術師。大笑の声が校庭に広がる。
「止めるんだな!」
叫ぶ。だが止まらない。そんな相手じゃない。自らの命は払わず他人に押しつけ、戦いすらも悪魔にやらせる男だ。
二十数体の悪魔が力也に襲いかかる。迫る一体をグランで切り倒し背後からの悪魔は斥力で押し返す。その隙に右からきた悪魔を重力で地面に押しつけ上からグランを振り下ろす。倒された悪魔は灰となって消えていくがまだまだ悪魔はいる。空中を飛び回り次々と爪や牙を向けてくる。このままではいずれ数の優位に押され敗北してしまう。そうしないためにも本人を攻撃したいのだが憔悴した表情で立つ彼女を盾にされてはそうもいかない。
「くう!」
悔しさともどかしさに声が漏れる。
対して吉岡は笑いが止まらない。彼の戦術が完璧に決まっている。彼は戦う者ではなく戦略を張り巡らせる。冷徹に、合理を以て、確実な勝利を目指す。
これが勝負。これが戦い。悪魔召喚師の道は王道ではなく非道。であればこれこそ正道。
吉岡が召喚した悪魔たちがさらに激しく攻め立てる。グランは大剣ではあるがその能力は広範囲だ。そのため力也はこの大差でも拮抗していた。破壊の権化であるグランだからこそ悪魔たちを返り討ちにし灰へと帰している。斥力、引力、重力。目には見えない力が悪魔を翻弄しグランの大質量が純粋な力となって死へ誘う。
しかし破壊の力では守ることは出来ない。救い出すことも。
愛理は額に汗を浮かべうつろな目をしていた。今にも崩れ落ちそうな弱々しい表情で。なのにそれを助けることが出来ない。
歯がゆい思いの中グランを振り回す。また一体悪魔が灰となり散っていった。
「しぶといな。ライフも払わずそんなに強いのかよ」
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